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*ヴェイル視点 2
「兄上、俺は番なんていらない…。」
「ヴェイル、お前は本当にそれでいいのか?取り返しがつかなくなるぞ?」
「それでも、俺は、父上のようにはなりたくありません。」
「そうか。では、お前にこれを。私の「烏」を、あの侍女に張り付かせて得た調査結果だ。」
兄上は、失望を滲ませた目で俺を睨みつけ、書類の束を机に投げ置いた。
書類の一番上に書かれた名前に、俺の目は自然と引き寄せられる。
「ヴェイルよ、父上を身近で見ていたお前が、番という存在を受け入れられない気持ちは分かる。母上は、酷い方だった。私とて、母上を赦してはいない。だが、お前が侍女にした仕打ちは、ただの八つ当たりだろう。無関係な女性に対して、していいことではない!」
兄上が、力一杯拳を机に叩きつけた。
分厚い一枚板の机が、無惨にも中央から真っ二つに割れる。
「ヴェイル、お前は大人しく謹慎していろ!アデライード王には、私から謝罪しておく。」
「くっ...、はい。」
荒々しく部屋を出ていく兄上を前に、俺はただ返事を返すことしか出来なかった。
サウザリンド王のみが扱える暗部組織「烏」は、主に情報収集を専門とする特殊部隊だ。その烏が調べた情報に間違いはない。
俺は、兄上が置いていった書類を食い入るように、隅から隅まで読み込んだ。
「ステラ・バレリー。それが彼女の名前か...。」
幼くして奴隷となった彼女は、運良くアデライード陛下率いる騎士団に助け出されていた。その後、騎士爵を持つバレリー卿に養女として迎えられ、王城の侍女となる。
貴族となっても尚、彼女は真面目だったのだろう。嫉妬や偏見にも負けず、誠実に仕事に取り組んだ彼女は、数年でアデライード陛下の専属侍女となった。
その忍耐強さを表すように、彼女は、情報編纂部でも文句を言わず、文官や侍女達の理不尽な仕打ちに耐えていたようだ。
書類を読み終えた俺は、彼女の辛い過去と、部下達の想像以上の愚かさに、どうしようもない程の怒りを感じていた。
この怒りは、誰に対するものなのか。
真実を語らなかった彼女か、それとも恥晒しな部下達か。
違うな...。
これは、全て馬鹿な自分への怒りだった。
「メルデンを呼べ。」
俺は部屋の外で待機している部下へ声をかける。
程なくして、俺の副官の一人、騎士メルデンが神妙な面持ちでやってきた。
「俺の聞きたい事は分かるな、メルデン。」
「はい、団長。」
顔色の悪いメルデンの様子から、既に烏の尋問があったのだろうと当たりを付ける。
俺は平静を装いながら、メルデンを問いただした。
「サージェント王国から派遣されたステラ・バレリーを情報編纂部から追い出そうとしたな?」
「はい。」
メルデンは、顔を俯けたまま頷いた。
俺は、メルデンの性格をよく知っている。
メルデンは、決して私利私欲で女性を貶めるような事はしない。それは、この男の行動原理が、俺への忠誠心から来るものだからだ。
「...俺のせいか...。」
思わず俺の口から呟きが漏れた。
「ち、違います!私の早合点だったのです!あの人間の女性が、団長に言い寄っているのかと思ったのです!そ、それで、団長が避けているのだと...。私の判断で、団長の視界に入らないよう部屋を分けました。それがまさか、あんな嫌がらせに繋がるなどとは...。私は、団長の顔に泥を塗ってしまいました。申し訳ありません!」
「俺達は…、いや、俺は、何の落ち度もない女性を貶めてしまったようだ。」
俺は、メルデンの目の前に、兄上が残していったもう一つの書類を突き出した。
「ヴェイル、お前は本当にそれでいいのか?取り返しがつかなくなるぞ?」
「それでも、俺は、父上のようにはなりたくありません。」
「そうか。では、お前にこれを。私の「烏」を、あの侍女に張り付かせて得た調査結果だ。」
兄上は、失望を滲ませた目で俺を睨みつけ、書類の束を机に投げ置いた。
書類の一番上に書かれた名前に、俺の目は自然と引き寄せられる。
「ヴェイルよ、父上を身近で見ていたお前が、番という存在を受け入れられない気持ちは分かる。母上は、酷い方だった。私とて、母上を赦してはいない。だが、お前が侍女にした仕打ちは、ただの八つ当たりだろう。無関係な女性に対して、していいことではない!」
兄上が、力一杯拳を机に叩きつけた。
分厚い一枚板の机が、無惨にも中央から真っ二つに割れる。
「ヴェイル、お前は大人しく謹慎していろ!アデライード王には、私から謝罪しておく。」
「くっ...、はい。」
荒々しく部屋を出ていく兄上を前に、俺はただ返事を返すことしか出来なかった。
サウザリンド王のみが扱える暗部組織「烏」は、主に情報収集を専門とする特殊部隊だ。その烏が調べた情報に間違いはない。
俺は、兄上が置いていった書類を食い入るように、隅から隅まで読み込んだ。
「ステラ・バレリー。それが彼女の名前か...。」
幼くして奴隷となった彼女は、運良くアデライード陛下率いる騎士団に助け出されていた。その後、騎士爵を持つバレリー卿に養女として迎えられ、王城の侍女となる。
貴族となっても尚、彼女は真面目だったのだろう。嫉妬や偏見にも負けず、誠実に仕事に取り組んだ彼女は、数年でアデライード陛下の専属侍女となった。
その忍耐強さを表すように、彼女は、情報編纂部でも文句を言わず、文官や侍女達の理不尽な仕打ちに耐えていたようだ。
書類を読み終えた俺は、彼女の辛い過去と、部下達の想像以上の愚かさに、どうしようもない程の怒りを感じていた。
この怒りは、誰に対するものなのか。
真実を語らなかった彼女か、それとも恥晒しな部下達か。
違うな...。
これは、全て馬鹿な自分への怒りだった。
「メルデンを呼べ。」
俺は部屋の外で待機している部下へ声をかける。
程なくして、俺の副官の一人、騎士メルデンが神妙な面持ちでやってきた。
「俺の聞きたい事は分かるな、メルデン。」
「はい、団長。」
顔色の悪いメルデンの様子から、既に烏の尋問があったのだろうと当たりを付ける。
俺は平静を装いながら、メルデンを問いただした。
「サージェント王国から派遣されたステラ・バレリーを情報編纂部から追い出そうとしたな?」
「はい。」
メルデンは、顔を俯けたまま頷いた。
俺は、メルデンの性格をよく知っている。
メルデンは、決して私利私欲で女性を貶めるような事はしない。それは、この男の行動原理が、俺への忠誠心から来るものだからだ。
「...俺のせいか...。」
思わず俺の口から呟きが漏れた。
「ち、違います!私の早合点だったのです!あの人間の女性が、団長に言い寄っているのかと思ったのです!そ、それで、団長が避けているのだと...。私の判断で、団長の視界に入らないよう部屋を分けました。それがまさか、あんな嫌がらせに繋がるなどとは...。私は、団長の顔に泥を塗ってしまいました。申し訳ありません!」
「俺達は…、いや、俺は、何の落ち度もない女性を貶めてしまったようだ。」
俺は、メルデンの目の前に、兄上が残していったもう一つの書類を突き出した。
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