32 / 163
1-25
しおりを挟む
「笑った...。初めて、俺に、笑顔を...。」
「え?」
ヴェイル殿下が、目を見開いて私の顔を凝視している。その間、瞬き一つしていない。
私も不思議と、そんな彼から目を離せないでいた。
その時、ヴェイル殿下の手から、茶葉の缶が滑り落ちた。
わ、わわっ!
貴重なお茶が!
私は、ヴェイル殿下の足元にしゃがみ込んですぐに、缶を拾い上げた。
幸い、缶から茶葉は溢れていない。
「殿下、大丈夫ですか?何か...。」
様子のおかしい殿下を見上げると、私の頭上に大きな陰が覆い被さる。
その状況を理解する前に、私の体が力強い腕に引き寄せられていた。
「ああ...、俺の...。」
「で、で、殿下!?」
一体何が!?
どうして、私は今、殿下に抱き締められているの!?
私の背に回されたヴェイル殿下の腕は、身じろぎしても一向に外れない。
頸にかかる彼の熱い吐息が、私の全身に熱を灯していった。
「あ、あの、殿下?何か...。」
「.......だ。」
「殿下?」
「ヴェイルだ。ヴェイルと呼んでくれ。」
え?
ただの侍女の私が、殿下を名前で呼ぶだなんて...。
「ですが...、キャっ!」
どう断ろうかと思案していた私を、ヴェイル殿下が更に強く抱き込んだ。
私の肩には、グリグリとヴェイル殿下の額が押し付けられる。
耳がっ!
ヴェイル殿下の獣耳が、私の頬に当たって擽ったい。
本当に、もう、私の心臓が限界...。
「ヴェ、ヴェイル、さ、ま。」
「団長ーーーーーーー!」
私の小さな声を掻き消す、叫び声が、天幕の中にこだました。
そしてすぐに、ニルセン様とメルデン様が、私に張り付いていたヴェイル殿下を強引に引き離してくれた。
「団長!お気を確かに!ちょっ、魔力が溢れてます!フェロモンも抑えてください!」
「バレリー様、すみません。大丈夫でしたか?団長はどうやら、異能の力を使い過ぎたようです。落ち着くまで、外に連れ出しますので!」
ニルセン様とメルデン様に両脇から押さえられている状態でも尚、ヴェイル殿下の目は、ずっと私を捉えている。
その目は、とても鋭くて怖かった。
まるで自分が、獲物にでもなったかのようで。
「そ、そうでしたか。では、私が出ますので、殿下をこちらで休ませてあげて下さい。すぐに軍医を呼んで来ますね!」
私は静止の声も聞かずに、外へ飛び出した。
ヴェイル殿下の温もりも魔力も私には毒だ。
甘い甘い優しすぎる毒。
勘違いしてはいけない。
欲しがってはいけない。
あれは、決して、手を伸ばしてはいけないものなのだから。
大丈夫。
私は、もう期待したりしない。
「...早く軍医を呼んでこなくちゃ。」
森の中に吹き抜ける風が、私の体に溜まった熱を徐々に冷ましていった。
「え?」
ヴェイル殿下が、目を見開いて私の顔を凝視している。その間、瞬き一つしていない。
私も不思議と、そんな彼から目を離せないでいた。
その時、ヴェイル殿下の手から、茶葉の缶が滑り落ちた。
わ、わわっ!
貴重なお茶が!
私は、ヴェイル殿下の足元にしゃがみ込んですぐに、缶を拾い上げた。
幸い、缶から茶葉は溢れていない。
「殿下、大丈夫ですか?何か...。」
様子のおかしい殿下を見上げると、私の頭上に大きな陰が覆い被さる。
その状況を理解する前に、私の体が力強い腕に引き寄せられていた。
「ああ...、俺の...。」
「で、で、殿下!?」
一体何が!?
どうして、私は今、殿下に抱き締められているの!?
私の背に回されたヴェイル殿下の腕は、身じろぎしても一向に外れない。
頸にかかる彼の熱い吐息が、私の全身に熱を灯していった。
「あ、あの、殿下?何か...。」
「.......だ。」
「殿下?」
「ヴェイルだ。ヴェイルと呼んでくれ。」
え?
ただの侍女の私が、殿下を名前で呼ぶだなんて...。
「ですが...、キャっ!」
どう断ろうかと思案していた私を、ヴェイル殿下が更に強く抱き込んだ。
私の肩には、グリグリとヴェイル殿下の額が押し付けられる。
耳がっ!
ヴェイル殿下の獣耳が、私の頬に当たって擽ったい。
本当に、もう、私の心臓が限界...。
「ヴェ、ヴェイル、さ、ま。」
「団長ーーーーーーー!」
私の小さな声を掻き消す、叫び声が、天幕の中にこだました。
そしてすぐに、ニルセン様とメルデン様が、私に張り付いていたヴェイル殿下を強引に引き離してくれた。
「団長!お気を確かに!ちょっ、魔力が溢れてます!フェロモンも抑えてください!」
「バレリー様、すみません。大丈夫でしたか?団長はどうやら、異能の力を使い過ぎたようです。落ち着くまで、外に連れ出しますので!」
ニルセン様とメルデン様に両脇から押さえられている状態でも尚、ヴェイル殿下の目は、ずっと私を捉えている。
その目は、とても鋭くて怖かった。
まるで自分が、獲物にでもなったかのようで。
「そ、そうでしたか。では、私が出ますので、殿下をこちらで休ませてあげて下さい。すぐに軍医を呼んで来ますね!」
私は静止の声も聞かずに、外へ飛び出した。
ヴェイル殿下の温もりも魔力も私には毒だ。
甘い甘い優しすぎる毒。
勘違いしてはいけない。
欲しがってはいけない。
あれは、決して、手を伸ばしてはいけないものなのだから。
大丈夫。
私は、もう期待したりしない。
「...早く軍医を呼んでこなくちゃ。」
森の中に吹き抜ける風が、私の体に溜まった熱を徐々に冷ましていった。
220
あなたにおすすめの小説
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
おばあちゃんの秘密
波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。
小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
私は、聖女っていう柄じゃない
波間柏
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。
いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。
20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。
読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる