平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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閉じた瞼の隙間から、日の光を感じる。


あれ?
私、今日って休みだったかしら?

起きなきゃと思うのに、この微睡の時間が気持ち良くて、瞼を開けられない。
そう言えば、さっきから誰かに頭を撫でられている気がする。
温かくて大きな手が気持ちいい...。

頭を撫でられる心地良さは、主人に教えてもらった。
両親からしてもらったことはなかったから...。





「...ステラ...、ステラ。」

誰かに呼ばれた。
「星」という意味を持つ大切な私の名前を。

恋うような切ない声で奏でられた私の名前が、何度も耳に届く。


誰?


近くに感じた人の気配に、私の意識が浮上していった。


「ステラ!あ、ああ、良かった...。」

「で、殿下...?ゴホッ...。」
喉が張り付いて、声が上手く出せなかった。

ヴェイル殿下は、そんな私を抱き起こして、水を飲ませてくれた。背中を摩る殿下の手は、泣きたくなるぐらい優しい。その手を頼りに、私は何度も水を飲み込んだ。


「あ、ありがとうございます。もう、大丈夫です。あの、殿下、ここはどこなんでしょうか?」
このまま殿下に縋り付きそうになる弱い自分を律して、背筋を伸ばすと、豪華な部屋の様子が視界に入ってきた。


「安心していい。ここは、サウザリンドの王宮の客間だ。岩竜を討伐した後、倒れた貴女をここへ運んだ。傷は、すぐに治療したが、痛む所はあるか?」


竜!
そうだ。あの時、竜が襲ってきて...。
良かった。無事に討伐されたのね。


「他の方々は、ご無事ですか!?」

「ああ、大丈夫だ。犠牲者はいない。貴女が皆を守った。」

「私が?」

ああ、思い出した。
あの時は無我夢中だったけど、私は、私の中の『アレ』を利用して魔法を使ったんだ。
主人との約束を破って。


「貴女が竜を食い止めてくれたお陰で、近隣の村にも被害が及ぶ事はなかった。よく頑張った。ありがとう、ステラ。」
真っ直ぐ私に向けられた黄金の瞳が、優しく細められる。

ヴェイル殿下から送られた感謝の言葉が、私の心に浸透していった。


役に立てた。
私も誰かのためになれた。
誰かを守ることが出来た。

私の瞳から、大粒の涙が流れ落ちた。


「こちらこそ、ありがとう、ございます。」

涙に濡れた酷い顔を隠すと、フワッと抱きしめられた。
壊れ物を扱うような優しい腕に、益々私の瞳から涙が溢れる。
この時の私は、どんなに数を数えても、涙を止めることは出来なかった。






暫く泣き続けた私に、ヴェイル殿下は濡れたタオルを持って来てくれた。
私はそのタオルで腫れた目を拭う。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。すぐに、業務に復帰致します。」
私が、ベッドから出ようと上掛けを捲ると、ヴェイル殿下にやんわりと止められた。


「ベッドから出ることは許可しない。」

「で、ですが、事後処理が...。」

怪我人の手当て、被害の報告、魔物対策の提案書作成、備品の確認、これから私がやらなければいけない仕事が山積みなのだ。
いつまでも寝てはいられない。


「今、ゼイン医官を呼んでくるから大人しくしていろ。これは上官命令だ。」

そう言うと、ヴェイル殿下は、少しだけ名残惜しそうに部屋から出て行った。







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