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コンコン。
私以外誰もいない静かな部屋に、少し強めのノックの音が響く。
私は、自ら扉を開けて、訪問者を迎え入れた。
「どうぞ、ヴェイル様。」
「ああ、ステラ、体調は大丈夫か?」
「はい。ゼイン先生から貰った薬を飲んだら、疲れもなくなりました。」
「そうか、それは良かった。」
ヴェイル様は、扉からソファまでの短い距離でも、しっかり私をエスコートしてくれた。
ヴェイル様は、私に二人掛けの広いソファを勧めると、自分はテーブルを挟んだ向かい側のソファに座った。
残念ながら、そのテーブルには、お茶やお菓子は用意していない。私は背筋を伸ばして、ヴェイル様の話を待った。
「俺の話を聞いてくれるか?馬鹿な男のみっともない言い訳を。」
自嘲するような薄笑いを浮かべ、ヴェイル様は私を見ていた。
その笑みに、私はそっと頷いて返す。
「先代王であり、異能者でもあった父上の番は、人間だった。王妃となった母上は、文化の違う獣人の国で苦労しながらも、兄上を生んで幸せに過ごしていたそうだ。だが、俺が生まれてから状況が変わった。俺は母上から生み落とされた時、醜い獣の姿だったんだ。人間の母上にとって、それは到底受け入れられる事ではなかった。それ以来、母上は獣人全てを忌み嫌うようになってしまった。」
ここまで一気に話したヴェイル様が、大きな溜息を吐いて、前髪を後ろに掻き上げた。
私は、そんな痛々しい様子のヴェイル様に、掛ける言葉が見つからなかった。
「獣人の中には、獣の姿で生まれる『獣返り』という存在がいるんだ。獣返りは、獣人の国では、劣等種として扱われる。だから、いつまで経っても人の姿が取れなかった俺は、隠れるように王宮の奥で、幼少期を過ごした。貴族達に馬鹿にされていたからな。そんな俺に会いに来てくれたのは、父上と兄上だけだった。けれど、俺が異能者であることが分かってからは、何もかもが変わった。俺を蔑んできた者達が、挙って媚び諂ってきたんだ。でもそれが、母上の逆鱗に触れた。母上は、父上に見せつけるように、人間の男を侍らせるようになった。それでも父上は、母上を赦し続けた。その上、少しでも母上の気を引くために、湯水のように国庫の金を母上に貢ぎ出したんだ。けれど、そんなある日、母上が愛人の男と共に姿を消した。大量の国宝を持ち出してな。それ以来、父上は、おかしくなってしまった。賢王と讃えられていた強い方だったのに。俺は、そんな腑抜けた父上を見て怖くなったんだ。自分の番に出会う日が…。」
すまないと、最後に、小さな小さな声で呟いたヴェイル様は、懺悔するかのように両手に顔を埋め、項垂れる。
私は、乾き切った喉に無理矢理唾を流し込んで、口を開いた。
私以外誰もいない静かな部屋に、少し強めのノックの音が響く。
私は、自ら扉を開けて、訪問者を迎え入れた。
「どうぞ、ヴェイル様。」
「ああ、ステラ、体調は大丈夫か?」
「はい。ゼイン先生から貰った薬を飲んだら、疲れもなくなりました。」
「そうか、それは良かった。」
ヴェイル様は、扉からソファまでの短い距離でも、しっかり私をエスコートしてくれた。
ヴェイル様は、私に二人掛けの広いソファを勧めると、自分はテーブルを挟んだ向かい側のソファに座った。
残念ながら、そのテーブルには、お茶やお菓子は用意していない。私は背筋を伸ばして、ヴェイル様の話を待った。
「俺の話を聞いてくれるか?馬鹿な男のみっともない言い訳を。」
自嘲するような薄笑いを浮かべ、ヴェイル様は私を見ていた。
その笑みに、私はそっと頷いて返す。
「先代王であり、異能者でもあった父上の番は、人間だった。王妃となった母上は、文化の違う獣人の国で苦労しながらも、兄上を生んで幸せに過ごしていたそうだ。だが、俺が生まれてから状況が変わった。俺は母上から生み落とされた時、醜い獣の姿だったんだ。人間の母上にとって、それは到底受け入れられる事ではなかった。それ以来、母上は獣人全てを忌み嫌うようになってしまった。」
ここまで一気に話したヴェイル様が、大きな溜息を吐いて、前髪を後ろに掻き上げた。
私は、そんな痛々しい様子のヴェイル様に、掛ける言葉が見つからなかった。
「獣人の中には、獣の姿で生まれる『獣返り』という存在がいるんだ。獣返りは、獣人の国では、劣等種として扱われる。だから、いつまで経っても人の姿が取れなかった俺は、隠れるように王宮の奥で、幼少期を過ごした。貴族達に馬鹿にされていたからな。そんな俺に会いに来てくれたのは、父上と兄上だけだった。けれど、俺が異能者であることが分かってからは、何もかもが変わった。俺を蔑んできた者達が、挙って媚び諂ってきたんだ。でもそれが、母上の逆鱗に触れた。母上は、父上に見せつけるように、人間の男を侍らせるようになった。それでも父上は、母上を赦し続けた。その上、少しでも母上の気を引くために、湯水のように国庫の金を母上に貢ぎ出したんだ。けれど、そんなある日、母上が愛人の男と共に姿を消した。大量の国宝を持ち出してな。それ以来、父上は、おかしくなってしまった。賢王と讃えられていた強い方だったのに。俺は、そんな腑抜けた父上を見て怖くなったんだ。自分の番に出会う日が…。」
すまないと、最後に、小さな小さな声で呟いたヴェイル様は、懺悔するかのように両手に顔を埋め、項垂れる。
私は、乾き切った喉に無理矢理唾を流し込んで、口を開いた。
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