平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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「勝手な事ばかり言わないで!ヴェイル様は運命から逃げたくせに、私には、苦痛の道を強いるのですか?」

私は、痛む胸に強く手を押し当てた。掻きむしるように当てた爪が皮膚に食い込み、更に傷みが増す。
けれど、その痛みが私を奮い立たせてくれた。


「恨んでいいとか、自分は憎まれて当然だとか、ヴェイル様は事あるごとに言ってましたけど、私は本当に、ヴェイル様を恨んでいません。貴方は何も分かってない。恨むって辛いんですよ?誰かを妬み憎む度に、自分が中から腐っていくんです。痛くて苦しくて、消えてなくなりたくなるの。でも、そんな地獄の苦しみから、アデライード様は助け出してくれた。だからもう、私は誰も恨んだりしないって誓ったんです!」

「ス、ステラ、俺は…。」

「だから、もうやめて。もう、私を苦しめないで…。」

「ステラ、ステラ、すまない。泣かないで、くれ…。頼む、どうか…。」

歪めた顔を下に向けて隠した私に、ヴェイル様が、悲しみの籠った呟きを漏らす。


私は、泣いてはいない。
涙は出ていない。
でも、私は、今のぐちゃぐちゃな顔を見せる事は出来なかった。


お願いだから、ほうっておいて。
私は、希望を感じられただけで、今のままで十分なの。
不相応なものには、手を伸ばさないと決めているの。
これ以上、苦しみたくないのよ。



「ヴェイル様、私達には縁がなかったんですよ。きっと神様が、間違えたんです。」

「俺達の関係は、間違いだった…?」

床に跪いているヴェイル様が、俯く私の顔をそっと覗き込んだ。前髪の隙間から見えた彼の瞳は、苦しみに揺れていた。
私は、ゆっくり顔を上げて、ヴェイル様に目を合わせた。


「神様が間違えて、私に花印を授けたのでしょう。だから、ヴェイル様は、番を望まなかった。本能で、私が番じゃないと気付いたんですよ。」

私は両手を、胸にある異能者の番の証、花印に重ねた。金に染まる大輪の花の印に。


冷たい花…。
自分の胸は温かいのに、私の胸に咲くこの金の花は、いつも何の熱も感じられない。
これは、きっと偽物の印。

私は両手を胸元から下ろして、立ち上がった。そして、私の足元に跪くヴェイル様の前にしゃがみ込んだ。


「いずれヴェイル様には、正しい番が現れます。だから、もう少しだけ、待っていてあげて下さい。」

「そんな、そんな事、俺は…。俺の番は、ステラだけだ。貴女以外望まない。何でもする。だから、頼む、ステラ…。」
絶望に濁るヴェイル様の瞳から、一筋の涙が流れ落ちる。
私は、その涙が床に落ちるのを見送った後、首を横に振ってヴェイル様を拒絶した。


貴方が、好きでした。
大好きでした。
貴方を恨みの感情ごと受け入れる度量のない私でごめんなさい。


私は、ゆっくり立ち上がると、ヴェイル様を見ないまま扉へ向かう。


「さようなら、ヴェイル様。」
最後に、それだけ呟くと、私は部屋を出て、ゼイン先生の部屋へ足を向けた。

扉を閉める瞬間、私の名前を呼ぶ悲痛な声が聞こえた。



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