平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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*ヴェイル視点 26

ステラが俺の下を去ってから、数日が経った。彼女はもう、この国にはいない。
見事な手腕を発揮したザイン医官が、こちらが気付く前に、サージェントへの帰国手続きを終えてしまったのだ。情けなくも俺は、指を咥えて愛しい番が離れていくのを見ていることしか出来なかった。






「ヴェイル、大丈夫か?」

「はい、兄上。」

「そうか…。」

小さく頷き、視線を前に向けた兄上の横顔は、為政者の表情に戻っていた。
俺も、これから始まる裁判を見届けるため、摺鉢状になっている段下を見下ろす。
そこには、手首を拘束された罪人達が床に跪いていた。


「罪人、キャロライン・バルガンデイル、お前は、他家の者と共謀し、ヴェイルの番を傷付けた。そして、父親のウィルソン・バルガンデイルは、諌めるべき娘に積極的に手を貸していた。」

兄上の言葉に、傍聴席から響めきが上がる。
俺に番がいた事に、皆が驚きを隠せないようだった。
皆の目が、真実を求めて俺に向かう。けれど、俺は、その全てに無言を貫いた。


「み、皆、静粛に。罪人は、何か言いたい事はあるか?」
冷静を装う裁判長がそう告げると、ウィルソンの顔が上がった。


「私も娘も、あの人間が番様だとは知らなかったのです!それなのに罪を問うのですか?」
それに追従するように、罪人達から声が上がる。しかし、半ば諦めているのか、その声に力はない。
そんな愚かな者達を、兄上が威圧を込めて睨みつけた。


「知っていようとなかろうと、お前達が神の慈悲たる異能者の番を傷付けたのは事実。罪は罪だ。」
兄上にはっきり言われて、罪人達が黙る。けれど、その中に一人、異論を唱える者がいた。


「皆様!ヴェイル殿下の番様は、人間なのです!しかも、無能な魔力無しだったのです!そんな者では、ヴェイル殿下の妃は務まりません!先王陛下の悲劇を繰り返してしまいますわ!」

キャロラインの決死の主張に、法廷内がざわめき出す。その中には、キャロラインを擁護し、ステラを否定する声が多く上がっていた。


「黙れ…。」
俺は、魔力を込めた一声を放った。

俺が何と言われようと、お前達がどうなろうと、どうでもよかった。
だが、ステラを侮辱することだけは許せなかったのだ。


俺の威圧に怯えた者達が、一斉に押し黙る。静まり返る法廷内に、兄上の声が響いた。


「バルガンデイル公爵は、爵位を剥奪の上、財産を没収。娘のキャロラインと共に、国外追放の刑に処す。また、キャロラインと共謀した者の家門にも、同様の刑を課すこととする。」
兄上が大勢の傍聴者の前で、既に決まっていた判決文を読み上げ、刑の即時執行を命じた。
それを聞いて泣き叫ぶ罪人達が、騎士達に引き摺られていく。
すると、扉の近くで、強引に振り返ったキャロラインが、俺に向かって叫んだ。


「あのゴミ女は、殿下の番である事を否定しましたわ。今、この場に、あの女がいない事が何よりの証拠。そんな覚悟のない無能を、この国の獣人が受け入れるのかしら?」
キャロラインは、笑いながらそれだけを言い捨て、自らの足で法廷を出て行った。

そんなキャロラインの背を、俺は無言で見つめ続けた。





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