平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

文字の大きさ
112 / 163

3-20

「カーネリアン陛下、私と取引をしませんか?」

「わしと其方が取引だと?そんな暇はないんだが…。」

相変わらずの無表情で、こちらに視線を向けるカーネリアン王に、私は背筋を伸ばして告げた。


「私からは、知識を提供します。その代わり、ヴェイル様にお力添えを。」

「知識だと?確かに、先程の理論は面白かったが、其方のような小娘が持つ知識など高が知れている。その程度で、わしが満足するわけなかろう。馬鹿にしているのか?」

カーネリアン王の平坦な態度の中に、確かな怒りを感じる。それでも、私は、怯む事なく次の言葉を紡いだ。


「ご心配には及びません。私の知識は、極上です。何しろ、サージェント王アデライード様の下で得た知識ですから。」

「うむ。大国サージェントに集まる知識は、素晴らしいものだろう。が、うろ覚えで語られても困るのだがな。」

訝しむようなカーネリアン王に、私は少しだけ笑顔を乗せて、自信満々に答えた。


「私は、一度読んだ文章は、決して忘れません。目を通した本は、一字一句間違えることなく諳んじられます。如何ですか?この知識、欲しくはありませんか?」

一時の沈黙が、部屋の全ての動きを止める。その空気を一番に解かしたのは、ヴェイル様だった。


「ステラが優秀だとは思っていたが、それは、本当に凄いな…。アデライード陛下達が絶賛していた理由がよく分かった。」

「バレリーさんが作る資料には、過去の事例や数値が、記載されているものが多かったので、とても分かりやすく、読み手側としては助かっていました。ですが、それはきっと、バレリーさんが既にお持ちの知識だったのですね。驚きです。」


ヴェイル様とニルセン様に見つめられて、少し居心地が悪い。
二人は褒めてくれたけど、私はただ、人より物覚えがいいだけ。そこから何かを新しく生み出せるわけではない。
だから、そんな風に手放しで褒められると背中がむず痒い。


「…本当なのか?其方の頭には、サージェントの知識が詰まっていると?人間の知恵は、細やかで繊細だ。そして、多岐にわたる分野に複雑に絡み合っている。だから、より奥が深い。其方の中には、それが集約されてあるのだな。なんと素晴らしい…。わしにも、その鱗片を見せてくれ。」

「はい!では、取引成立ですね。」

「ああ。」

良かった!上手くいった!
これで、災厄を退ける一歩が踏み出せる!

私は嬉しくて、思わずヴェイル様の首に抱きついてしまった。
くっつけた私の耳から、微かにヴェイル様が喉を鳴らす音が聞こえた。その可愛い音に益々気分を高揚させていると、ペロリと頬を舐められ、鼻先で頸を擽られる。
さすがに恥ずかしくなって正気に戻った私は、一度ヴェイル様から手を離す。すると、今度は唇の端を軽く舐められた。


「ヴェ、ヴェ、ヴェイル様!」

「優秀なステラは、俺のだからな。マーキングしておいた。」
ニヤリと牙を見せて笑ったヴェイル様は、私が開けた距離を詰めて、体をピッタリ寄せてきた。


顔が熱い。
恥ずかしすぎて、ニルセン様とカーネリアン王の反応を見られない。
私は、両手で真っ赤に染まった顔を隠した。




あなたにおすすめの小説

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。 政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。 国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。 だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。