平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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ど、どうしよう!
ヴェイル様とキスしてしまったわ!

その後、まだ夜明け前だからと、ヴェイル様が添い寝してくれて、気付いた時にはぐっすり眠っていたけど。

ゆ、夢じゃないのよね!?

私は鏡の前で、確かめるように自分の唇に触れた。
少し湿ったヴェイル様の唇を思い出し、顔が一気に熱くなる。


「んーーーー!」
両頬を手で覆って、悶えていると、洗面所の扉がゆっくり開いた。


「ステラ、大丈夫か?今、声が…。」

「だ、大丈夫です!すみません、寝ぼけていました。支度はもう終わったので、すぐにそちらに行きますね!」

扉から顔を出したヴェイル様に、私は背を向けたまま答える。すると、ヴェイル様が、扉の隙間からスルリと体を滑り込ませて、私の側に寄り添った。


「愛しい番。可愛い顔を見せてくれ。」

「ヒャッ!い、今は、無理です…。」
こんな顔、絶対に見せられない。
だって、絶対に酷い顔をしてるもの。


「ステラ、お願いだ。顔が見たい。」

ツンツンと優しく袖を引っ張られる。甘い刺激が背筋に走って、私はヘタリと力なく床に座り込んだ。
ヴェイル様は、そんな私の手首を咥えて、顔からやんわりと引き剥がす。そして、真っ赤に染まった私に顔を寄せた。


「ああ、可愛い。俺を意識してくれたんだな。ステラ、愛してる。」

「わ、私も、愛しています…。わっ!」
精一杯、私も愛の言葉を返すと、なぜか次の瞬間には、洗面所の冷たい床に押し倒されていた。
びっくりして見上げると、私の真上には、雰囲気をガラリと変えた獰猛な獣が、牙を剥き出してこちらを見下ろしていた。


「ステラ、ああ、俺の番!俺だけの癒し。貴女の全てを愛しているんだ。もう、我慢出来ない!」

牙を剥き出したままのヴェイル様の口が、ゆっくりと私に迫ってくる。
私は、それをただ、呆けて見ていると、突然ヴェイル様の姿が掻き消えた。


「大丈夫、ステラ!?随分と遅いから見に来て正解だったわ!まったく、あの発情猫!油断も隙もない!」

「ひ、姫様!?す、すみません!」

姫様を待たせていたなんて!
私、なんて事を!

慌てて立ち上がり、寄れている服も気にせず頭を下げる。すると、ポンと頭に姫様の手が乗った。


「大丈夫よ。悪いのは全部、あのバカ猫だから。今頃、戻ってきた副官に説教されているのではないかしら?」

「あ、の、ヴェイル様は、どこに?」

「ステラの貞操の危機だったから、短距離転移の魔道具を使ったのよ。失敗していなければ、私の執務室にいるはずよ。さあ、私達も行きましょう。大切な話があるの。」

「は、はいっ!」

こ、こんな場所で、貞操の危機!?
既婚者の同僚に聞いた男女のあれこれは、夜の寝室での秘事だったはず。
しかも、ヴェイル様は黒豹の姿だったのよ?
それに、それに…。
私の薄っぺらい体に、ヴェイル様は魅力を感じてくれるかしら?


執務室までの移動中、姫様の後ろを歩く私の顔は、赤くなったり青くなったりを繰り返していた。






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