136 / 163
3-32
しおりを挟む
昔々、薄暗い迷いの森の縁に、老いた祖父母を養いながら苦しい生活を送る青年がいた。その青年が、薬草を取りに森へ入ると、蔦に絡まり弱っている妖精を見つけた。
青年は、森から出られない妖精のために、来る日も来る日も甲斐甲斐しく看病を続けた。
そんな青年の優しさに触れ、妖精は彼に恋をする。青年もまた、美しい妖精に心を奪われ、二人はいつしか恋人になった。
けれど、妖精の寿命は短い。
別れを悲しんだ妖精は、それでも、青年の幸せを願い、最後の力を使って、決して枯れることのない花畑を作った。
後に、その花で財を築いた青年は、思い出の森を守りながら、家族と幸せに暮らした。
これは、私が生まれた辺境地に伝わる御伽噺。そこに住む者なら、誰でも知っている物語だ。嘘か本当かは、分からない。
この話は、私にとって嫌な思い出が残る話だった。
私の名前の由来であり、役に立たない幼い私を責め立てるための両親の常套句だったから。
『フローラ』
それは、青年に恋をした花の妖精の名前。
そして、花の印を持って生まれた私にぴったりだと、両親が付けた名前だった。
その名前を、闇の底から絡めとるように呼ばれて、私の意識は堕ちてしまった。
そんな私の心に、闇が詰め寄る。
「忘れたのか、フローラ?己の願いを。」
「やめて!私はもう、フローラじゃないわ!」
「本当に、そうか?ハハ、違うな。今もまだ憎いのだろう?ほら、素直になれ、フローラ。我は、お前の唯一の理解者だぞ?我をミシャと呼んで、友達だと言ったのは、お前だ。」
「やめて!やめて!貴方が、魔物の王だなんて知らなかった!貴方の核を受け入れさせられていたなんて分からなかった!私は、ただ…、辛くて、逃げ出したかっただけ。私の心が弱かったから、誰かに助けて欲しかったのよ!」
「だが、お前は我に願った。恐怖に、苦痛に耐えながら、毎日、神を恨み、人を妬み、世界の消失を願っていた。」
「だって!それは、ミシャが!」
「ハハハハハハ!我がなんだ?我が、お前を誘導したとでも?違う!違うぞ、フローラ。闇に手を伸ばしたのは、お前の意思。全部、お前のせいだ。」
私の、せい?
こうなったのは、全部私のせいなの?
お父さんもお母さんも、私が町の子供達と仲良くするのを嫌がった。異能者が迎えに来る前に、変な虫が付いたら大変だと。
だから、楽しそうに遊んでいる同年代の子供達を見かける度に、羨ましくて。とても、寂しかったのだ。
そんな時に、私に話しかけてくれる存在と出会った。影の中に潜む彼は、自分をメシア、救世主だと言った。でも、私は上手く発音出来なくて、ミシャと呼んだのだ。
初めて出来た友達は、優しくて、いつも私が望む言葉をくれた。そんな彼に、私はべったりと依存してしまった。
幼い私が、世界の消滅を願ってしまうほどに。
だから、今、ヴェイル様が、苦しんでいるのは、私のせいなのだ。
青年は、森から出られない妖精のために、来る日も来る日も甲斐甲斐しく看病を続けた。
そんな青年の優しさに触れ、妖精は彼に恋をする。青年もまた、美しい妖精に心を奪われ、二人はいつしか恋人になった。
けれど、妖精の寿命は短い。
別れを悲しんだ妖精は、それでも、青年の幸せを願い、最後の力を使って、決して枯れることのない花畑を作った。
後に、その花で財を築いた青年は、思い出の森を守りながら、家族と幸せに暮らした。
これは、私が生まれた辺境地に伝わる御伽噺。そこに住む者なら、誰でも知っている物語だ。嘘か本当かは、分からない。
この話は、私にとって嫌な思い出が残る話だった。
私の名前の由来であり、役に立たない幼い私を責め立てるための両親の常套句だったから。
『フローラ』
それは、青年に恋をした花の妖精の名前。
そして、花の印を持って生まれた私にぴったりだと、両親が付けた名前だった。
その名前を、闇の底から絡めとるように呼ばれて、私の意識は堕ちてしまった。
そんな私の心に、闇が詰め寄る。
「忘れたのか、フローラ?己の願いを。」
「やめて!私はもう、フローラじゃないわ!」
「本当に、そうか?ハハ、違うな。今もまだ憎いのだろう?ほら、素直になれ、フローラ。我は、お前の唯一の理解者だぞ?我をミシャと呼んで、友達だと言ったのは、お前だ。」
「やめて!やめて!貴方が、魔物の王だなんて知らなかった!貴方の核を受け入れさせられていたなんて分からなかった!私は、ただ…、辛くて、逃げ出したかっただけ。私の心が弱かったから、誰かに助けて欲しかったのよ!」
「だが、お前は我に願った。恐怖に、苦痛に耐えながら、毎日、神を恨み、人を妬み、世界の消失を願っていた。」
「だって!それは、ミシャが!」
「ハハハハハハ!我がなんだ?我が、お前を誘導したとでも?違う!違うぞ、フローラ。闇に手を伸ばしたのは、お前の意思。全部、お前のせいだ。」
私の、せい?
こうなったのは、全部私のせいなの?
お父さんもお母さんも、私が町の子供達と仲良くするのを嫌がった。異能者が迎えに来る前に、変な虫が付いたら大変だと。
だから、楽しそうに遊んでいる同年代の子供達を見かける度に、羨ましくて。とても、寂しかったのだ。
そんな時に、私に話しかけてくれる存在と出会った。影の中に潜む彼は、自分をメシア、救世主だと言った。でも、私は上手く発音出来なくて、ミシャと呼んだのだ。
初めて出来た友達は、優しくて、いつも私が望む言葉をくれた。そんな彼に、私はべったりと依存してしまった。
幼い私が、世界の消滅を願ってしまうほどに。
だから、今、ヴェイル様が、苦しんでいるのは、私のせいなのだ。
60
あなたにおすすめの小説
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)
神宮寺 あおい
恋愛
謎解き×恋愛
女神の愛し子は神託の謎を解き明かす。
月の女神に愛された国、フォルトゥーナの第二王女ディアナ。
ある日ディアナは女神の神託により隣国のウィクトル帝国皇帝イーサンの元へ嫁ぐことになった。
そして閉鎖的と言われるくらい国外との交流のないフォルトゥーナからウィクトル帝国へ行ってみれば、イーサンは男爵令嬢のフィリアを溺愛している。
さらにディアナは仮初の皇后であり、いずれ離縁してフィリアを皇后にすると言い出す始末。
味方の少ない中ディアナは女神の神託にそって行動を起こすが、それにより事態は思わぬ方向に転がっていく。
誰が敵で誰が味方なのか。
そして白日の下に晒された事実を前に、ディアナの取った行動はーー。
カクヨムコンテスト10 ファンタジー恋愛部門 特別賞受賞。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる