休憩室の真ん中

seitennosei

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夕方の休憩。
フロアから休憩室に続く廊下で伸びをする。
あー、面倒くせぇなぁ。
休憩室からは賑やかな複数人の声が響いてくる。
今日は誰がいるんだったかな?
人に調子を合わせるのは面倒くさい。
だけど一人にはなりたくない。
我ながら面倒臭い気質だと思う。 
「はーっ。行くか。」
軽く気合いを入れ、俺は休憩室に入った。

「ユナは前から海さんと一花さんはお似合いだと思ってましたけどね!」
休憩室に入ると、美少女JKのユナちゃんが得意げに語っているところだった。
「いやいや、海さんがあんなに可愛くなるとは誰も思わないでしょ!」
「そうだよ。一花さんと釣り合うと思ってなかったもん。ノーマークだったよ。」
一緒に休憩をとっているヒナちゃんと果歩ちゃんがそれに反論した。
女子って恋愛話好きだよなぁ。
よく他人の話でそこまで盛り上がれるよなと思う。
「お疲れー。海と一花の話か?」
「高橋さんお疲れ様です!そうですよ!あの素敵カップルのお話です!」
素敵カップルね…。
俺もそう思うけど未だに心がついて来ない。
「そう言えば、海さんが一花さんの為にオシャレになる計画。協力したのって高橋さんなんですよね?ナイスアシストじゃないですか!」
隣の席に腰を下ろした俺に最高の笑顔を向けるユナちゃん。
ユナちゃんは何をしていても可愛い。
俺が今まで出会った女の子の中で一番好みのタイプだ。
俺は隙を見ては時々口説いている。
「海と一花なんてどうでもいいから、ユナちゃん俺とデートしてよ。」
「うげー、不潔。褒めて損した。彼女いるくせに止めてください。」
このつれない態度も最高に可愛い。
「またはじまった。高橋さん、折角カッコイイのにユナにチャラく迫ったり、一花さん虐めたりするから、何も知らない新人からしか人気なくなっちゃうんですよー。」
果歩ちゃんが笑う。
知ってるよ。
果歩ちゃんが最初俺を少し好きだったの。
そして俺に構われるユナちゃんの存在を面白く思っていないことも。
「もう可哀想だからユナも一回くらいデートしてあげなよ。」
ヒナちゃんは俺に対して割と無遠慮に酷いことを言う。
最初から仲宗根さんにしか興味なかったもんな。
興味のない女の子なら何を考えてるのか、俺をどう思っているのか大体わかるのにな。
「そうだよ。振られ続けて俺可哀想だよ。ユナちゃんがデートしてくれるなら俺、彼女とちゃんと別れてくるよ?」
ユナちゃんの座っている椅子の背もたれに手を置き、身体を近付け耳元で囁く。
その途端、ガッと突然椅子を引かれ、立ち上がられる。
勢いで体勢を崩す俺を蔑んだ目で見下ろしながらユナちゃんが言う。
「は?別れてから言えや。」
そして屈み俺の耳元で囁く。
「だから一花さんは海さんを選んだんですよ…。」
「…え?」
どうしてここで一花が出てくるんだ。
意味がわからず凍り付く俺を余所に、ユナちゃんはいつも通りの笑顔に戻り、椅子に座り直した。
「ユナ?今なんて高橋さんに言ったの?」
聞き取れなかった果歩ちゃんが素朴な疑問を口にする。
「彼女のことも私のことも本気じゃないくせに。って言ったの。ホント、高橋さんはチャラいんですから、全く。」
プンプンと聞こえてきそうなくらいのぶりっ子顔で、わざとらしく頬を膨らませるユナちゃん。
俺は悟られないように、引き攣る顔を何とか取り繕い動揺を隠す。
本当に何だったんだ。
さっきのはどういう意味なんだ。
耳に残るユナちゃんの声を反芻し恐怖してしまう。

暫く心ここに在らずなまま女子3人の話に適当に相槌を打っていると、ドアが開いて一人の知らない女の子が入ってきた。
茶色がかった自然な黒髪のポニーテールを揺らし、涼し気な奥二重の目でこちらをジッと捉えている。
小柄で華奢な身体と、真っ白な肌。
中学生が迷い込んで来たのかと思う程幼いが、大人びた不思議な落ち着きがある。
「お疲れ様です。はじめまして。来週からお世話になる山田汐です。」
ペコッと頭を下げた瞬間、彼女の背負っているリュックから大量の参考書が頭の上を雪崩て行き、床に散らばった。
見るとリュックのファスナーが全開だ。
「ふはっ。大丈夫かよ?」
思わず吹き出してしまったが、どこかこの感じに既視感があり、俺は駆け寄って参考書を拾ってやった。
アワアワとリュックを下ろし、俺から参考書を受け取ると、彼女はまたペコッと頭を下げた。
見上げてくる顔と、先程の自己紹介を思い出しピンときた。
「もしかして海の妹?」
「…はい。山田海は兄です。」
道理で。
しっかりしてそうな雰囲気なのに、唐突にやらかすおっちょこちょい。
子供みたいな見た目なのに、変に肝の座ってそうな眼力。
海にそっくりだ。
「俺は高橋です。海とは結構仲良いから、汐ちゃんも何かあったら頼れよ。」
初対面とは思えない親近感。
少々馴れ馴れしいかと思いつつも世話焼き根性が出てくる。
「高橋…。ああ、あなたが…。」
しかし、それまでは礼儀正しがった彼女の態度が、名乗った直後から一変する。
「兄と一花さんがいますから。高橋さんには何もお願いすることはないです。」
睨む様に吐き捨て、「では。」と頭を下げ出ていってしまった。
何なの?
俺、この一瞬で嫌われる様なことした?
全く身に覚えがない。
「高橋さん、とうとう新人にまで人気無くなっちゃいましたね。」
果歩ちゃんが愉快そうに笑う。
うるせぇよ。
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