【R18】囚われの姫巫女ですが、なぜか国王に寵愛されています

くみ

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第一章

6

   イレーナは突然のことに息を呑みこんだ。


 暗闇の中でキラリと光る剣が、男の首元に突き刺さる直前でとまった。


 オーランが顔面蒼白な男の首筋に剣を突きつけながら、冷徹に言い放つ。


「この宿の客人だな?」


 男は答えることが出来ずに口をぱくぱくと開閉させているだけで会話にならず、オーランは忌々しげに舌打ちをした。


「薬かー」

 
 オーランは剣をしまい立ち尽くしているイレーナに問いただす。


「あなたはここで何をしていた?」

 
 冷たい声音で問われ、イレーナは怯えながらも答えた。


「こ、この人が、具合が悪いんじゃないかと思って……」


「ー申し訳ありません! 私の責任です」


 ユーグが張り詰めた空気の間に割って入ると、オーランはユーグを一瞥して指示をした。


「中の処理とこの男の処分を任せた」


「はっ!!」


 ユーグはすぐに、そばに控えていた傭兵と共に動きだした。


 イレーナとオーランは先に馬車で戻ることになったけれど、今頃になって足が竦む。


    放心状態のまま動けずにいるイレーナを見兼ねたのか、いきなりオーランに抱き上げられた。


「きゃっ……」


   びっくりしてイレーナは思わず悲鳴をあげる。


「振り落とされたくなかったら大人しくしていろ」


    有無を言わせない鋭い視線を向けられて、イレーナは怖気つく。


    道中もオーランは視線を合わせることなく黙ったままで、気まずい空気が流れる。


    勝手なことをしたイレーナに、よほど憤怒しているのだろう。


    重い空気に耐えられなくなって口を開きかけたとき、咳払いを一つしたオーランが重い口を開いた。


「あの男は違法なドラックに手を出して、心身共に薬に犯されていたんだ」


「薬……?」


    物騒な話にイレーナは眉根を寄せる。 


 その薬はあの売春宿で違法に販売されていたらしい。


 客にはただの興奮剤だと謳って高値で売買していた。


「だが実際には女を抱かずにいられなくなり、その依存度は数回飲めば日中夜問わず女を求めずにはいられなくなるほど強いものだ」


    売春宿に保管されていた大量の薬も押収したらしい。


「どこで取引きされたのか調べる必要があるな……」


    さらにオーランは嫌悪感を滲ませて吐き捨てる。


「副作用がひどくなって手に負えなくなると、宿の出入りを禁止する。あの男はすでにおかしくなっていた。女というだけで姫巫女に掴みかかったのだろう」
    
 
     確かに異様な雰囲気だった。掴まれた腕がまだ痛むほど強く握られて怖かった。

 
 そっと掴まれた腕を摩っていると、オーランが眉根をピクリと動かしてイレーナの手をとりブラウスの裾を捲った。

 
 赤く腫れ上がった腕を見たオーランは、悲痛な眼差しをイレーナに向ける。


「お前はあの男のことを純粋な気持ちで助けたいと思ったのかもしれないが、この世界には腐った心をもった連中が腐るほどいる」


    この国は都市部は栄えているが他方の街はまだ廃れているところもある。都市でも一歩裏道に入ればあの売春宿のように裏取引きが蔓延していて、柄の悪い輩もいるとオーランは辛そうに吐露した。

 
 続けてオーランは真剣な面持ちで、イレーナに忠告するように言った。


「あなたは外の世界を知らずに純粋に育ってきたのだろう。覚えておくといい。姫巫女が思っているほど外の世界は綺麗なものではない」

 
 善良な顔して近づいてきて、平気で人を裏切る。

 
 もちろん本当に善意な人もいて、その見極めが大事だとオーランは続けた。

 
「疑心暗鬼になりすぎても疲れるが、あなたも気をつけた方がいい」

 
 確かにイレーナは閉ざされた世界で生きてきた。人との付き合いも数えるほどしかいない。外の世界は勉学で学んだだけ。

 
 さっきの男の人もただ本当に具合悪そうで、助けてあげたいと思った。

 
 あのときオーランが来なかったら。

 
 強引に連れ去られたらと想像すると、恐怖で身が縮んだ。


「あんたを連れ去ったのは俺だ。姫巫女を守る義務がある」

 
 真っ直ぐにイレーナを見つめ真摯な面持ちで告げられて、一瞬どきっとした。


「だが、勝手に一人で判断して行動しないでくれ。あんたになにかあったらと思うと居た堪れない。あんたはこの世でただ一人の姫巫女だー」


 イレーナが姫巫女だから。


 唯一の力を持つ巫女だから。


 イレーナはなぜか胸が痛むのを覚えた。


 なぜ?


 チクリと痛むこの感情が何か、今のイレーナには分からなかった。


 ただ寂しいと思ったー。
 





 


    

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