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第Ⅰ章 明暗分かれる姉妹 ~The Doppelgangers~
#4 魔力鑑定
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現在、サウレリオン大聖堂の特別応接室には、七人の姿。
上座の椅子に腰掛けるのはラモン教皇とサファース・ルセイン・ベルサール枢機卿、両名の護衛として、我が父ゼルレーク聖騎士団長と、このラウルとザッキス。
本来であれば、私とザッキスが立ち会えるような場ではないのだが、かたやエーゲリッヒ家の男子で聖騎士団長の息子、かたやズンダルク家の男子で教皇の孫、加えて共に皇帝の孫ということで、将来のためにと、団長の補佐と警護という名目で教皇が特別に立ち会いを認めてくれた。
教皇と枢機卿の向かいに置かれた来客用の高級ソファーには、先程召喚された二人の女性が並んで腰掛けている。
「まずは、お二人のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
サファース枢機卿が柔らかな表情と声音で質問する。
「あ……」
先に声を発したのは、黒髪の女性。
しかし、緊張しているのか、それとも混乱しているのか、はたまたその両方か、その声は言葉にはならず掻き消えてしまった。
「明智照朝です。隣が明智輝夜」
それを見てか、隣の茶髪の女性が代わりにサファース枢機卿の問いに答えた。
こちらも多少の緊張を覚えているようだが、黒髪の女性ほどではなさそうで、むしろ堂々としている風すらある。
どうやら「アケチ」というのが二人の姓らしく、我々と違って姓の後に名前が来るようだ。
「テルサ様とカグヤ様、ですか……。もしやお二人は双子なのでしょうか?」
「ええ。私が妹でカグヤが姉です」
髪や纏う雰囲気に個性の違いが出ているが、端麗な顔立ちや背格好は確かに瓜二つ。
ただ、テルサの方が肌の張りや艶が良いと言うか、薄く化粧が乗っているように見える一方、カグヤの方はやつれ気味で化粧気も無く、不健康な感じさえする。
ひょっとすると、双子であっても共に暮らしている訳ではなく、その生活環境の違いが、彼女たちの外見や雰囲気の差に表れているのではないか、と推測した。
「まずは突然こちらへお呼び立てしてしまったことについて謝罪致します。──しかしながら、我らにも抜き差しならぬ事情がありまして、どうしても御力をお借りしたいのです。まずはそちらをご説明させて頂きたく存じます」
ラモン教皇が丁重な口調で謝罪し、事情を説明しようとする。
「ええ。お願いします」
カグヤからの返事は無かったが、小さく頷いたのを確認してからサファース枢機卿が語り出した。
枢機卿がまず説明したのは、この西大陸を蝕む、高濃度の闇属性魔素──瘴気の大量発生によって引き起こされる『邪神の息吹』の概要。
異世界人の姉妹には直ちに理解できないだろうが、取り敢えず百年周期で発生する大陸規模の厄災だということを理解する程度には、知性と落ち着きはあるようだった。
「それで? その『邪神の息吹』という厄災と私たちがここに居ることに、一体どんな関係が?」
テルサの当然の質問に頷き、サファース枢機卿が説明を続ける。
前回の『邪神の息吹』は、今より三百年以上も前のこと。
西大陸全土で瘴気が大量に発生、ウルヴァルゼ帝国──当時はまだ王国だった──を含めた諸国を危機に陥れた。
それを打開したのが、世界的な伝説の魔術師『古の大賢者』が編み出し、栄耀教会が禁断として数世紀もの間秘していた至高の『儀式』だった。
強力な召喚魔法により、この世界とは次元を異にする世界の『日出づる国』から、超常の異能を持つ乙女を召喚、その力を以て瘴気を浄化するというもの。
名を『招聖の儀』と言う。
何とも突拍子も無い話ではあるが、実際に異世界から『聖女』の召喚に成功、彼女が扱う超越的な光属性の魔法によって、国内に蔓延していた瘴気は悉く浄化され、数十年に及ぶ『邪神の息吹』は終息、臣民は救済された──と、当時の栄耀教会や国の公式記録、その他様々な史料に綴られていた。
全ては、サウル神の御意思なり。
『聖女』によってウルヴァルゼ帝国の瘴気が完全浄化されて以来、国内で『邪神の息吹』は起こらず、長く平穏な時代が続いていたのだが──しかし遡ること五十年前、人々が忘れた頃に忌まわしき厄災は帰って来た。
各地の源泉から止め処無く吐き出される瘴気により、勢いを増していく『邪神の息吹』に危機感を覚えた皇室と評議会、そして栄耀教会は再び『聖女』の力に頼ることを決断、水面下で『儀式』の準備が進められてきた。
そして今日あの儀式場で、三百年振りに『招聖の儀』が執り行われた訳だが──
「御覧の通り、召喚されたのはお二人。これは全く想定外の結果です」
三百年前の記録では、召喚された『聖女』はただ一人。
二人などという記述は一切無く、『儀式』に何か手違いや誤作動があったのではないかと、今は教団の技術者たちが確認作業に入っている。
とは言え、召喚失敗という最悪の事態だけは免れた訳だから、その点はひとまず安堵している。
次はカグヤとテルサ、姉妹のどちらが『聖女』なのかを見極める段階だ。
考えられるパターンは三つ。
第一のパターンは、どちらも『聖女』というもの。
それならば二人も召喚されたことにも得心が行き、単純に考えて効率は二倍、それだけ早く『邪神の息吹』を鎮められるということになるのだから、最高の展開だ。
第二のパターンは、姉妹のどちらか一人だけが『聖女』で、もう一人は巻き込まれただけ、というもの。
当初の想定に一番近いパターンだが、そうなると『聖女』ではないもう一人をどうするのか、という問題が浮上する。
『招聖の儀』はあくまで異世界から招き寄せるためのもの、つまり完全なる一方通行の技術であるため、こちらから送り出すことは不可能なのだ。
そして最も考えたくないのは、どちらも『聖女』ではない、という第三のパターン。
『聖女』の素質を持つ一人だけを召喚するはずの所が、もう一人増えてしまったのだから、『儀式』に何らかのトラブルが発生した可能性は否めず、見当違いの者たちを召喚してしまったということも無いとは言い切れない。
いずれのパターンかを見極めるため、早速場所を変えて『魔力鑑定』が始まった。
鑑定と言っても難しいことは何も無く、ほんの数分で済む。
燦々と太陽の光が差し込む部屋の中央の台座には、幼児の頭ほどの『魔力鑑定水晶』が置かれており、あれに魔力を流し込むことで水晶が発光、その光の強さや色合いで、その者の魔力量や属性傾向を見極めるのだ。
三百年前の初代『聖女』は光属性の極大魔力の持ち主で、それを扱うことで闇属性魔素である瘴気を浄化したと記録にある。
ならば初代と同様、光の極大魔力を宿している方が本物の『聖女』に違い無い、という理屈だ。
この魔力鑑定は予定通り一人だけが召喚された場合でも、確認として行われる手筈だった。
「では、お二人のどちらから始めましょうか?」
「私からお願いします」
サファース枢機卿の問いに、堂々と応じ名乗りを上げたのはテルサ。
「これをどうするのですか?」
「お手を触れるだけで構いません。後は水晶が自動的に行います」
言われ、テルサが従う。
細い手が鑑定水晶に触れた、次の瞬間──
「「うわ……ッ!?」」
その場の全員の悲鳴が重なった。
先刻の『儀式』の時にも見た、小型の太陽かと錯覚するような、全てを塗り潰すが如きピンク色の光。
「おお、神よ……何と、これは……ッ」
「まさか、こんなことが……!」
「信じられん……」
「す、凄い魔力だ……! それにこの圧倒的な桃色の輝きは……ッ!」
「光の魔力だ……光属性に、魔力が完全に特化している……!」
種族や個体によって魔力の属性に偏りが生じるのは常であり、例えば栄耀教会に入る基準の一つに、保有する魔力が光属性にある程度偏っている、というものがある。
しかし、それでも他の属性に比べて二、三割というレベルであり、あのように一つの属性に百パーセント偏る、完全特化など人間では有り得ない。
上座の椅子に腰掛けるのはラモン教皇とサファース・ルセイン・ベルサール枢機卿、両名の護衛として、我が父ゼルレーク聖騎士団長と、このラウルとザッキス。
本来であれば、私とザッキスが立ち会えるような場ではないのだが、かたやエーゲリッヒ家の男子で聖騎士団長の息子、かたやズンダルク家の男子で教皇の孫、加えて共に皇帝の孫ということで、将来のためにと、団長の補佐と警護という名目で教皇が特別に立ち会いを認めてくれた。
教皇と枢機卿の向かいに置かれた来客用の高級ソファーには、先程召喚された二人の女性が並んで腰掛けている。
「まずは、お二人のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
サファース枢機卿が柔らかな表情と声音で質問する。
「あ……」
先に声を発したのは、黒髪の女性。
しかし、緊張しているのか、それとも混乱しているのか、はたまたその両方か、その声は言葉にはならず掻き消えてしまった。
「明智照朝です。隣が明智輝夜」
それを見てか、隣の茶髪の女性が代わりにサファース枢機卿の問いに答えた。
こちらも多少の緊張を覚えているようだが、黒髪の女性ほどではなさそうで、むしろ堂々としている風すらある。
どうやら「アケチ」というのが二人の姓らしく、我々と違って姓の後に名前が来るようだ。
「テルサ様とカグヤ様、ですか……。もしやお二人は双子なのでしょうか?」
「ええ。私が妹でカグヤが姉です」
髪や纏う雰囲気に個性の違いが出ているが、端麗な顔立ちや背格好は確かに瓜二つ。
ただ、テルサの方が肌の張りや艶が良いと言うか、薄く化粧が乗っているように見える一方、カグヤの方はやつれ気味で化粧気も無く、不健康な感じさえする。
ひょっとすると、双子であっても共に暮らしている訳ではなく、その生活環境の違いが、彼女たちの外見や雰囲気の差に表れているのではないか、と推測した。
「まずは突然こちらへお呼び立てしてしまったことについて謝罪致します。──しかしながら、我らにも抜き差しならぬ事情がありまして、どうしても御力をお借りしたいのです。まずはそちらをご説明させて頂きたく存じます」
ラモン教皇が丁重な口調で謝罪し、事情を説明しようとする。
「ええ。お願いします」
カグヤからの返事は無かったが、小さく頷いたのを確認してからサファース枢機卿が語り出した。
枢機卿がまず説明したのは、この西大陸を蝕む、高濃度の闇属性魔素──瘴気の大量発生によって引き起こされる『邪神の息吹』の概要。
異世界人の姉妹には直ちに理解できないだろうが、取り敢えず百年周期で発生する大陸規模の厄災だということを理解する程度には、知性と落ち着きはあるようだった。
「それで? その『邪神の息吹』という厄災と私たちがここに居ることに、一体どんな関係が?」
テルサの当然の質問に頷き、サファース枢機卿が説明を続ける。
前回の『邪神の息吹』は、今より三百年以上も前のこと。
西大陸全土で瘴気が大量に発生、ウルヴァルゼ帝国──当時はまだ王国だった──を含めた諸国を危機に陥れた。
それを打開したのが、世界的な伝説の魔術師『古の大賢者』が編み出し、栄耀教会が禁断として数世紀もの間秘していた至高の『儀式』だった。
強力な召喚魔法により、この世界とは次元を異にする世界の『日出づる国』から、超常の異能を持つ乙女を召喚、その力を以て瘴気を浄化するというもの。
名を『招聖の儀』と言う。
何とも突拍子も無い話ではあるが、実際に異世界から『聖女』の召喚に成功、彼女が扱う超越的な光属性の魔法によって、国内に蔓延していた瘴気は悉く浄化され、数十年に及ぶ『邪神の息吹』は終息、臣民は救済された──と、当時の栄耀教会や国の公式記録、その他様々な史料に綴られていた。
全ては、サウル神の御意思なり。
『聖女』によってウルヴァルゼ帝国の瘴気が完全浄化されて以来、国内で『邪神の息吹』は起こらず、長く平穏な時代が続いていたのだが──しかし遡ること五十年前、人々が忘れた頃に忌まわしき厄災は帰って来た。
各地の源泉から止め処無く吐き出される瘴気により、勢いを増していく『邪神の息吹』に危機感を覚えた皇室と評議会、そして栄耀教会は再び『聖女』の力に頼ることを決断、水面下で『儀式』の準備が進められてきた。
そして今日あの儀式場で、三百年振りに『招聖の儀』が執り行われた訳だが──
「御覧の通り、召喚されたのはお二人。これは全く想定外の結果です」
三百年前の記録では、召喚された『聖女』はただ一人。
二人などという記述は一切無く、『儀式』に何か手違いや誤作動があったのではないかと、今は教団の技術者たちが確認作業に入っている。
とは言え、召喚失敗という最悪の事態だけは免れた訳だから、その点はひとまず安堵している。
次はカグヤとテルサ、姉妹のどちらが『聖女』なのかを見極める段階だ。
考えられるパターンは三つ。
第一のパターンは、どちらも『聖女』というもの。
それならば二人も召喚されたことにも得心が行き、単純に考えて効率は二倍、それだけ早く『邪神の息吹』を鎮められるということになるのだから、最高の展開だ。
第二のパターンは、姉妹のどちらか一人だけが『聖女』で、もう一人は巻き込まれただけ、というもの。
当初の想定に一番近いパターンだが、そうなると『聖女』ではないもう一人をどうするのか、という問題が浮上する。
『招聖の儀』はあくまで異世界から招き寄せるためのもの、つまり完全なる一方通行の技術であるため、こちらから送り出すことは不可能なのだ。
そして最も考えたくないのは、どちらも『聖女』ではない、という第三のパターン。
『聖女』の素質を持つ一人だけを召喚するはずの所が、もう一人増えてしまったのだから、『儀式』に何らかのトラブルが発生した可能性は否めず、見当違いの者たちを召喚してしまったということも無いとは言い切れない。
いずれのパターンかを見極めるため、早速場所を変えて『魔力鑑定』が始まった。
鑑定と言っても難しいことは何も無く、ほんの数分で済む。
燦々と太陽の光が差し込む部屋の中央の台座には、幼児の頭ほどの『魔力鑑定水晶』が置かれており、あれに魔力を流し込むことで水晶が発光、その光の強さや色合いで、その者の魔力量や属性傾向を見極めるのだ。
三百年前の初代『聖女』は光属性の極大魔力の持ち主で、それを扱うことで闇属性魔素である瘴気を浄化したと記録にある。
ならば初代と同様、光の極大魔力を宿している方が本物の『聖女』に違い無い、という理屈だ。
この魔力鑑定は予定通り一人だけが召喚された場合でも、確認として行われる手筈だった。
「では、お二人のどちらから始めましょうか?」
「私からお願いします」
サファース枢機卿の問いに、堂々と応じ名乗りを上げたのはテルサ。
「これをどうするのですか?」
「お手を触れるだけで構いません。後は水晶が自動的に行います」
言われ、テルサが従う。
細い手が鑑定水晶に触れた、次の瞬間──
「「うわ……ッ!?」」
その場の全員の悲鳴が重なった。
先刻の『儀式』の時にも見た、小型の太陽かと錯覚するような、全てを塗り潰すが如きピンク色の光。
「おお、神よ……何と、これは……ッ」
「まさか、こんなことが……!」
「信じられん……」
「す、凄い魔力だ……! それにこの圧倒的な桃色の輝きは……ッ!」
「光の魔力だ……光属性に、魔力が完全に特化している……!」
種族や個体によって魔力の属性に偏りが生じるのは常であり、例えば栄耀教会に入る基準の一つに、保有する魔力が光属性にある程度偏っている、というものがある。
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