闇の聖女は夜輝く(魔力皆無で『聖女』認定されず命を狙われた彼女は、真の力で厄災と教団に立ち向かう)

尾久沖ちひろ

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第Ⅱ章 暗黒に生まれし者達 ~Out of Heaven~

#41 不審

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 日が暮れれば、次は魔法の実技を学ぶ時間だ。


 私が宿す闇属性の極大魔力は暗闇でのみ解放されるため、夜間の活動が基本となる。
 そして夜になれば、彼もまた動き出す。


「カグヤ、また頼む」
「はい……」


 ダスクの手を取り、共に空間転移。
 行き先は帝都の一角にある、今は使われていない倉庫。


「迎えは、昨日と同じ時間で宜しいでしょうか?」
「ああ」


 短い返事だけ残して、彼は倉庫を出て街中へ消えて行く。


「──またダスクを送って来たのかい?」


 フェンデリン邸へ戻って来た私にジェフが尋ねる。


「はい……」


 この所、ダスクが変だ。
 三百年を経て復活した彼もまた、私と同じように日中は眠るか、太陽の届かない所で学習に励んでいるのだが、夜になると私の力で人気ひとけの無い場所まで転移、帝都エルザンパール市街へ散策に出かける。


「お爺ちゃんから聞いたけど、ダスクの様子が変わったのは、レンポッサ卿とかいうレイスと戦った後からなんだよね?」
「はい。ですが、何か悪事を働いている訳ではないと思うのです」
「確かに、帝都で彼の仕業と思しき騒動や事件は起こっていない。下手な真似をすればまた追われるようになるのは目に見えている訳だし、そもそもそういう性格でもない」
「ダスクさんが摂取する血は私が提供していますから、そちらの可能性もありませんし……」


 闇の極大魔力を帯びた私の血は、極少量でも彼の身には大きな活力になるそうで、発見されるリスクを冒してまでわざわざ他の者の血を吸いに行くとは考えられない。


「セレナーデやノクターンで覗き見ることも考えたけど、僕の手口を知っている彼に通じるとは思えないし、気付かれて揉めるような事態も避けたい」


 匿ってくれているフェンデリン家とトラブルになれば、私もダスクも頼れる相手はもう居らず、手助けしていることが発覚すればフェンデリン家も困る。


「ただ……最近のダスクさんを見ていると、何だか不安になるのです。私たちと距離を置き始めたと言いますか、どこか遠くへ行ってしまうような、そんな気がして……」


 ダスクが居なければ、私はあの夜に死んでいただろう。
 似通った境遇の末にここに居るという意味でも、私は彼に深い共感を抱いている。


「僕も同じだ。で、彼が生きた三百年前のことについて、学術院や宮廷魔術団とかが所蔵している史料を漁って調べてみたんだ。本当は皇宮や曙光島にある教会図書館の禁書庫にも忍び込みたかったんだけど、流石に警備が厳しいからね」


 ジェフの得意分野は戦闘ではなく、他の生き物を使役した調査や偵察、諜報活動だ。


「何か分かったのですか?」


 他人のことを言えた身ではないが、自身の過去についてダスクはほとんど話さなかった。
 私が知っていることと言えば、父親を殺害したことと、弟グロームと共にカルディス王弟に仕えていたこと、国家反逆罪で処刑されたこと、という程度だ。


「ダスクの主君だったカルディス王弟だけど……彼は反逆罪で処刑されてるんだよね」
「反逆罪、ですか……」


 王弟という高位者に対してそんな罪が科されるというのは、どう考えても尋常ではない。


「カルディス王弟は優秀な人物で、『邪神の息吹』で発生した変異魔物やアンデッドの討伐で大きな功績を挙げ、人望もあった将軍だったけど、次第にその能力を鼻に掛け野心を抱くようになり、兄のベナト国王を暗殺して王位を簒奪しようとした。しかし直前で発覚して、妻子や子飼いの騎士たちと共に処刑された──というのが、数多あまたの史料に書かれたストーリーだ」


 その子飼いの騎士の中に、ダスクと弟グロームが居たのだろう。


 聞いた限りでは、元の世界の歴史でも度々繰り返されてきた政治事件にしか思えないが──


「……その歴史は、果たして真実なのでしょうか?」
「やっぱり君もそう思う?」


 言動からして、ダスクは今もカルディス王弟への忠誠心を失っていない。
 カルディス王弟がどのような人物だったのかは、ジェフも資料からは読み取れなかったようだが、ダスクほどの男が忠誠を誓う人物なのだから、才覚だけでなく人格に於いても一廉ひとかどの人物だったのではと私は推測する。


「歴史なんてのは所詮、権力者の都合の良いようにつづられるものだ。勝者は正義として賛美され、敗者は悪としておとしめられる。君ならこれがよく分かるはずだ」


 私がこうして潜伏生活を余儀無くされているのは、まさに栄耀教会によって罪をでっち上げられてしまったためだ。


「ではやはり、カルディス王弟の事件には裏があるということでしょうか?」
「ダスクの人柄を通して見ただけの、単なる推測だけどね。残念ながら史料からはこれ以上のことは分からなかった。でも当時を知るダスクなら、その辺の真相も知っているんじゃないかと思う。最近の彼の行動もそれに関係しているのかもね」


 皇宮やサウレス=サンジョーレ曙光島にある図書館には、皇帝や教皇など極一部の高位者のみが閲覧を許される極秘史料が保管されているらしく、そこにならば真相が記されている可能性はある。


「ダスクさんが処刑されたのは最初の『招聖の儀』が行われる前年。それに初めて私と会った時、『招聖の儀』や『聖女』という単語に反応を示していました。何か関係があるのでしょうか?」
「その二つがキーワードになっているのだとしたら、事は皇族だけでなく栄耀教会も一枚噛んでいると見るべきだろうね。ダスクは栄耀教会にも強い反感を抱いているようだし」


 だとすれば、ダスクの過去は私にとっても無関係ではないのかも知れない。
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