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第Ⅲ章 闇夜に輝く希望の月 ~Destiny Attracted by the Moon~
#62 天国と地獄 その9
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──『招聖の儀』。
古の大賢者が編み出し、栄耀教会が禁断として数世紀もの間秘していた、その『儀式』を遂行するため。
俺たちが住むこの世界とは次元を異にする世界の『日出づる国』から、超常の異能を持つ『聖女』なる乙女を召喚、その力を以て瘴気を浄化、国内の『邪神の息吹』を鎮める一大計画。
「殿下……それ、本当の話ですか……?」
驚きよりも呆れの方が遥かに大きかった。
共に聞いていた者たちもきっと同じだろう。
「気持ちは大いに分かる。私とて陛下から直々に聞かされていなければ、只の冗談か作り話としか思わなかっただろう。しかし、既に教皇主導の下、栄耀教会によって極秘裏に進められているそうだ」
「信じられないな……。レヴランは知ってたか?」
親衛隊内で最も魔法に造詣の深い男に尋ねるが、
「まさか。ただ、古の大賢者が世の常識を超越した魔法を数多く編み出し、その真髄を『魔導書』に保存して後世に伝えたのは確かだ。大賢者自身、異なる世界から来た人物ではないかという説もある」
「レヴランの言う通り、王室や宮廷魔術団、そして栄耀教会には、特級の魔導書がいくつかある。『招聖の儀』とやらは、それらを元に編み出されたものなのかも知れないな」
信じ難い話ではあるが、疑問はまだ尽きない。
「荒唐無稽な話ではありますが……本当にそんな『儀式』が進行しているとして、それと魔才持ちたちを集めることに一体何の関係が?」
軽く混乱した様子でグレックスが尋ねる。
「次元を超えて異世界から人間を連れて来る──そんな途方も無い芸当を成し遂げるには、莫大な魔力を要するであろうことは容易に想像できる。となると、どうやってそれを調達するかが課題となる訳だが……」
「まさか……連れ去った連中を生贄にして、魔力を搾り取っているってことですか?」
「辻褄は合う。魔法の中には、生物から魔力を吸い取る効果を持つものもあるからな。魔物からも魔力を得ているのかも知れないが、効率を考えれば人間から吸い取るのが一番良いだろう」
魔力は魔素を摂取することで生み出される生命エネルギーであり、アンデッドは他の生物の魔力を吸い取ることで不死の命を保つ。
魔力を過剰に奪われた生物がどうなるか、これまでの戦いの中で嫌と言うほど目の当たりにしてきた。
「だとすると、ディルク様も……」
「まだ生きているとしても、いずれ同じ目に遭うだろう」
口を封じられた上に魔力まで奪われ、恐らくその骸は焼却されて証拠さえ残らない。
「……私も王族だ。国と民を救うためであれば、時には汚いこともやらざるを得ない。綺麗事では何も変えられないことくらい私も理解しているし、見様によってはお前たちにしたことと同じなのだからな」
カルディス王弟の意見は、上に立つ者として当然の正論だ。
「だが、それは『聖女』とやらが本当に『邪神の息吹』を鎮められるという、明確な根拠が示されていることが大前提だ。曖昧なもののために人々の命を費やすなど、断じて容認できない」
確実性に欠ける計画のために、少なくはない領民を連れ去られ、部下の命を奪われ、息子まで連れ去られたのだから許せるはずが無い。
「同感です」
「そもそも『儀式』自体、成功するかどうかも怪しい訳ですし」
「こんなこと、とても納得できねえ」
召喚魔法は魔法の中でもデリケートな種類で、術者を大きく上回る魔力を持つ個体を召喚しようとすると失敗の可能性が増す上、召喚自体には成功しても時間や場所にズレが生じることもあるそうだ。
他に有効な手が見つからないため、藁にも縋る想いで『招聖の儀』に懸けているのかも知れないが、やはり成功するとは思えない。
失敗すれば、犠牲になった者たちは全くの犬死、極秘の計画であるために栄耀教会や国王は責任など取らず、真相は闇の中へ葬られてしまう。
「どうしますか、殿下?」
「まずは陛下に会いに行き、事の真偽を確かめる。本当に『招聖の儀』が関係しているのであれば、栄耀教会にも話を付けて直ちに計画を中止させ、ディルクを取り戻す」
王都エルザンパールに行き、カルディスの兄であるベナト王に謁見する。
国王が考えを改めれば、栄耀教会も方針を見直さざるを得ないだろう。
早速その日の内に、カルディス王弟はルーンベイルを発ち、王都へ向かった。
「……なあグレックス、やはり俺たちも行った方が良かったんじゃないか?」
都市外壁の上から、遠ざかっていく主君の背中を眼で追いながら、傍らの仲間に尋ねる。
俺もグロームもグレックスもレヴランも連れて行っては貰えず、カルディス王弟に同行したのは十名ほどの隊員のみ。
「俺だって同じ気持ちだ。だが、殿下が言った通り、留守の間に魔物討伐の要請が来るかも知れない。そちらも疎かにする訳にはいかないだろう」
要請が来たその時は、隊長であるグレックスが隊を率いることになるが、将軍であるカルディス王弟が居ない以上、才覚で劣る別の将軍の指揮下で戦うしか無く、非常に苦しい戦いになるのは間違い無い。
「国王への説得……上手くいくだろうか? それこそ既に栄耀教会が国王へ根回しを済ませている可能性だってあるぞ」
「有り得る話だな。しかし陛下にとってディルク様は甥に当たる。計画の中止とまではいかずとも、ディルク様を解放させることくらいはできるかも知れない。いずれにせよ、今の俺たちにできるのは成功を祈ることと、要請が来た時に備えて出撃準備を整えておくことだけだ」
この時はまだ、俺もグレックスも思いもしなかった。
去り行くあの背中が、敬愛する主君の最後の姿になろうとは。
古の大賢者が編み出し、栄耀教会が禁断として数世紀もの間秘していた、その『儀式』を遂行するため。
俺たちが住むこの世界とは次元を異にする世界の『日出づる国』から、超常の異能を持つ『聖女』なる乙女を召喚、その力を以て瘴気を浄化、国内の『邪神の息吹』を鎮める一大計画。
「殿下……それ、本当の話ですか……?」
驚きよりも呆れの方が遥かに大きかった。
共に聞いていた者たちもきっと同じだろう。
「気持ちは大いに分かる。私とて陛下から直々に聞かされていなければ、只の冗談か作り話としか思わなかっただろう。しかし、既に教皇主導の下、栄耀教会によって極秘裏に進められているそうだ」
「信じられないな……。レヴランは知ってたか?」
親衛隊内で最も魔法に造詣の深い男に尋ねるが、
「まさか。ただ、古の大賢者が世の常識を超越した魔法を数多く編み出し、その真髄を『魔導書』に保存して後世に伝えたのは確かだ。大賢者自身、異なる世界から来た人物ではないかという説もある」
「レヴランの言う通り、王室や宮廷魔術団、そして栄耀教会には、特級の魔導書がいくつかある。『招聖の儀』とやらは、それらを元に編み出されたものなのかも知れないな」
信じ難い話ではあるが、疑問はまだ尽きない。
「荒唐無稽な話ではありますが……本当にそんな『儀式』が進行しているとして、それと魔才持ちたちを集めることに一体何の関係が?」
軽く混乱した様子でグレックスが尋ねる。
「次元を超えて異世界から人間を連れて来る──そんな途方も無い芸当を成し遂げるには、莫大な魔力を要するであろうことは容易に想像できる。となると、どうやってそれを調達するかが課題となる訳だが……」
「まさか……連れ去った連中を生贄にして、魔力を搾り取っているってことですか?」
「辻褄は合う。魔法の中には、生物から魔力を吸い取る効果を持つものもあるからな。魔物からも魔力を得ているのかも知れないが、効率を考えれば人間から吸い取るのが一番良いだろう」
魔力は魔素を摂取することで生み出される生命エネルギーであり、アンデッドは他の生物の魔力を吸い取ることで不死の命を保つ。
魔力を過剰に奪われた生物がどうなるか、これまでの戦いの中で嫌と言うほど目の当たりにしてきた。
「だとすると、ディルク様も……」
「まだ生きているとしても、いずれ同じ目に遭うだろう」
口を封じられた上に魔力まで奪われ、恐らくその骸は焼却されて証拠さえ残らない。
「……私も王族だ。国と民を救うためであれば、時には汚いこともやらざるを得ない。綺麗事では何も変えられないことくらい私も理解しているし、見様によってはお前たちにしたことと同じなのだからな」
カルディス王弟の意見は、上に立つ者として当然の正論だ。
「だが、それは『聖女』とやらが本当に『邪神の息吹』を鎮められるという、明確な根拠が示されていることが大前提だ。曖昧なもののために人々の命を費やすなど、断じて容認できない」
確実性に欠ける計画のために、少なくはない領民を連れ去られ、部下の命を奪われ、息子まで連れ去られたのだから許せるはずが無い。
「同感です」
「そもそも『儀式』自体、成功するかどうかも怪しい訳ですし」
「こんなこと、とても納得できねえ」
召喚魔法は魔法の中でもデリケートな種類で、術者を大きく上回る魔力を持つ個体を召喚しようとすると失敗の可能性が増す上、召喚自体には成功しても時間や場所にズレが生じることもあるそうだ。
他に有効な手が見つからないため、藁にも縋る想いで『招聖の儀』に懸けているのかも知れないが、やはり成功するとは思えない。
失敗すれば、犠牲になった者たちは全くの犬死、極秘の計画であるために栄耀教会や国王は責任など取らず、真相は闇の中へ葬られてしまう。
「どうしますか、殿下?」
「まずは陛下に会いに行き、事の真偽を確かめる。本当に『招聖の儀』が関係しているのであれば、栄耀教会にも話を付けて直ちに計画を中止させ、ディルクを取り戻す」
王都エルザンパールに行き、カルディスの兄であるベナト王に謁見する。
国王が考えを改めれば、栄耀教会も方針を見直さざるを得ないだろう。
早速その日の内に、カルディス王弟はルーンベイルを発ち、王都へ向かった。
「……なあグレックス、やはり俺たちも行った方が良かったんじゃないか?」
都市外壁の上から、遠ざかっていく主君の背中を眼で追いながら、傍らの仲間に尋ねる。
俺もグロームもグレックスもレヴランも連れて行っては貰えず、カルディス王弟に同行したのは十名ほどの隊員のみ。
「俺だって同じ気持ちだ。だが、殿下が言った通り、留守の間に魔物討伐の要請が来るかも知れない。そちらも疎かにする訳にはいかないだろう」
要請が来たその時は、隊長であるグレックスが隊を率いることになるが、将軍であるカルディス王弟が居ない以上、才覚で劣る別の将軍の指揮下で戦うしか無く、非常に苦しい戦いになるのは間違い無い。
「国王への説得……上手くいくだろうか? それこそ既に栄耀教会が国王へ根回しを済ませている可能性だってあるぞ」
「有り得る話だな。しかし陛下にとってディルク様は甥に当たる。計画の中止とまではいかずとも、ディルク様を解放させることくらいはできるかも知れない。いずれにせよ、今の俺たちにできるのは成功を祈ることと、要請が来た時に備えて出撃準備を整えておくことだけだ」
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