闇の聖女は夜輝く(魔力皆無で『聖女』認定されず命を狙われた彼女は、真の力で厄災と教団に立ち向かう)

尾久沖ちひろ

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第Ⅲ章 闇夜に輝く希望の月 ~Destiny Attracted by the Moon~

#64 天国と地獄 その11

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「だが、その後もベナト王は殿下を警戒していたのかも知れないな。才覚はカルディス殿下の方が遥かに上だし、魔物との戦いで声望は高まる一方だったからな」


 時として、自分以上の力と人望を持つ臣下は敵よりも恐ろしく見える。


「それが今回のことに繋がっていると言うのか? 国中から魔才持ちを拉致して、訳の分からない『儀式』の生贄にしていたなんてことが発覚すれば、ベナト王の信用は失墜する。そうなれば再びカルディス殿下を推す動きが高まって、自分は退位させられると」


 これまで仕えてきた中で、カルディス王弟が地位や権力への執着を見せたことなど一度も無い。
 彼は常に、王族として人々を守護するという、自らに課せられた責任を果たすことだけを考えていた。


「ひょっとしたら、栄耀教会がそんな風にベナト王をそそのかしたのかも知れないな。真相が明るみになって困るのは奴らも同じだし、栄耀教会にとってカルディス殿下は何かと目障りな相手。ディルク様をさらったのは、その布石にするためでもあったんじゃないだろうか」


 息子が囚われているとなれば、カルディス王弟も迂闊な行動は取れない。


「だとしても、こんなこと絶対に許せねえ……ッ! それに殿下が居なくなったら、誰が魔物から人々を護るんだよ? 他の将軍や領主はどいつもこいつも臆病な無能揃い。最高戦力を自分たちの手で潰すなんて自殺行為そのものだってのによ……」
「『聖女』さえ召喚できれば全て解決する、という考えなのかもな。今更後戻りなんてできないと、連中も腹をくくっているようだ」


 だとすれば、次に考えられる事態は──


「グレックス、こうなると急いでルーンベイルに帰った方がいい。殿下が捕まったとなると、セレナ様やダイア様も危ない」
「そうだな。すぐに引き返そう」
「いや、もう手遅れかも知れない。この討伐作戦への参加要請自体、我々を外に引っ張り出して、お二人の護りを手薄にするための陽動だった可能性がある」


 まさか、そんなはずは無い──と思ったが、レヴランのその最悪の推測もまた的中してしまった。


 馬を飛ばしてルーンベイルまで駆け戻って来た俺たちを出迎えたのは、完全武装した王国騎士団と聖騎士団。
 聖騎士団長の叫びが不遜に轟く。


「大罪人カルディスの妻子は、既に我ら聖騎士団が捕縛した! 謀叛に加担した貴様らにも、国家反逆罪で逮捕命令が出ている! 大人しく縛に就け!」


 どんなに過酷な任務の後も、常に俺たちの帰還を歓迎してくれていたルーンベイルの外門は、この日ばかりは厳重に封鎖され、通行を許してはくれなかった。


 主君とその家族を拉致され、慣れ親しんだ本拠地に帰還することすら叶わないまま、俺たちは元来た道を辿って逃げるより他に無かった。
 下り坂を転がる車輪の如く、時を経るごとに事態は悪化していく。


「何でだよ……何でこんなことになっちまったんだよ……ッ!!」


 籠手を着けた手で、グロームが力一杯岩を殴り付ける。
 セレナとダイアの警護を担当していた隊員も全員討ち取られてしまい、今やカルディス親衛隊は、この場に居る二十三名のみ。


「これからどうする、グレックス? 我々は後ろ盾を奪われ、手持ちの物資や資金も乏しい」


 ベナト王も栄耀教会も完全に敵に回った。
 王国騎士団や聖騎士団に捕まったが最後、拷問で自白を強要され、最後は処刑場へ送られる。


「──こうなった以上、道は一つしか無い」


 皆を見渡して、リーダーが宣言する。


「殿下たちを救出する。俺たちの手で」


 強い決意を込めたその言葉に、全員が顔を見合わせ、


「当然だ、グレックス」
「ここまでされておめおめ逃げる気なんて無え」
「もし後ろ向きな発言をしていたら、その顔に『火の飛球ファイヤー・ボール』を叩き込んでいた所だよ」


 かつてカルディス王弟は語った。
 孤児ばかりを集めて親衛隊を結成するのは、領主や将軍や王族といった制度上の身分ではなく、カルディスという一人の人間に対して忠誠を誓ってくれる者でなければ、肩書きを失った途端に離れてしまうからだと。


 利害で結ばれた主従関係など当てにならない。
 彼が真に求めていたのは、本当に窮地に陥った時に力になってくれる、信頼に足る部下。


 流石にこうなることを見越していた訳ではないだろうが、まさに今、彼の言う通りになった。
 領主でも将軍でも王族でもなくなり、献身してきた国と体制によって罪人に仕立て上げられた彼を、この場に居る親衛隊の誰一人として見限ろうとは考えなかった。


 このまま理不尽に屈して沈黙するのは、只の負け犬だ。
 不潔な野良犬として生まれ、野蛮な闘犬として育てられてきた俺たちだが、何もできないまま犬死する気も、卑しい負け犬に成り下がる気も無い。


「しかし、殿下たちを助け出せたとして、その先はどうする? もうこの国には居られない」
「その時はラッセウム帝国にでも移るさ。殿下の居る所が俺たちの国だ」


 国家や体制への帰属意識など俺たちには無く、国を捨てることに何の躊躇いも無い。


「確かにそれしか無いが、王族としての責務を果たすことを何より大事にされてきた殿下が、他国へ亡命して売国奴になる道を受け入れるだろうか?」
「もう王族の身分は剥奪されたんだ。留まれば罪人として処刑、逃げれば売国奴。だったら命がある方が良いに決まってるだろ。例え殿下が拒んだとしても、セレナ様たちは助けるべきだ」


 皆がグロームの言葉に頷いた。


「……皮肉なものだな。臣民を護るために戦ってきた俺たちが、今度は体制と臣民に刃を向けることになるとは」
「臣民のため? 違うぜ、グレックス。俺たちはずっと殿下のため、或いはセレナ様やダイア様、ディルク様のために戦ってきたんだ。それが他のものを護ることに繋がっていたってだけの話だ」
「グロームの言う通りだ。我々は殿下個人に対して忠誠を誓った身。殿下の敵となるのであれば、人も魔物も王も神も倒すのみ」


 グレックス、グローム、レヴランがそれぞれ槍、剣、杖を重ねる。


「必ずやり遂げてみせる。それで命が尽きようとも、きっと『天国』に行けるさ」


 俺も剣を抜いて重ねた。
 他の者も武器を重ね、誓いの儀式は完了。


 目指すは王都エルザンパール。
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