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第Ⅳ章 光の聖女は朝照らす ~The Saint Over The RISING SUN~
#77 天国を目指す者 その7
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本来、太陽や地球は平等だ。
父なる太陽からは「情熱」を、母なる地球からは「祝福」を授かることで、あらゆる生命は誕生し育まれる。
では、私の父と母は、娘の私に一体何を授けてくれただろうか。
何も無い。
彼らは何も与えてなどくれなかった。
太陽や地球が見返りを求めて生命を育む訳ではないように、親は子に見返りを求めない。
子の誕生を喜び、成長を助け、幸福を願うことこそ親のあるべき姿のはず。
だと言うのに、私の両親は情熱と祝福を与えた気になっていただけで、私の心と人生をどす黒い暗雲で覆い尽くし、ただひたすら奪い続けていった。
欲しいものを何一つ与えてくれず、理不尽に奪っていくだけの存在を、どうして親と思えようか。
そんな両親も憎いが、最も憎いのは全ての元凶である教主。
この三人が居る限り、私の人生には夜明けも晴天も訪れない。
闇夜と暗雲に閉ざされた、無明の暗黒だけが漠然と広がる心に、やがて殺意の灯火が生じるのは必然だった。
自由も希望も無いまま、奪われるだけの家畜として暗い一生を終えるしか無いのなら──
「──奴らを殺す。それ以外に私に未来は無い」
今度は私が奪ってやると、暗黒に突き落としてやると、そう心に決めた。
だが、ただあの三人を殺せば済むという単純な話でもない。
私たちの先祖はあの明智光秀なのだ──と、父方の祖父母から聞かされたことがある。
勿論そんな話は祖父母を入信させるために教主が吹き込んだ嘘っぱちなのだが、しかし彼の歴史は私にとって大きな教訓となった。
明智光秀があのような決断を下した動機は定かではないが、私が思うに、彼もまた苦しい境遇からの救済を望み、織田信長を討つことがその唯一の手段だったのだろう。
結果として、光秀は信長を討つことには成功したものの、どこで目論見が外れたのか、それから僅か十一日後に破滅を迎え、肝心の救済を得られないまま歴史に汚名を刻んでしまった。
これは私にも当て嵌まる。
両親と教主を殺すのは、青春を台無しにされた復讐というのも勿論あるが、最たる目的は私が自由を手にすることだ。
憎き三人に死の制裁を加えて復讐を成し遂げたとしても、殺人罪で逮捕されてしまっては本末転倒だ。
光秀と同じ轍を踏まないためには、一計を案じる必要があった。
そして、これ以上は無いと断言できるほど素晴らしいアイディアが閃いた。
「輝夜……あなたを使わせて貰うわ」
瓜二つの容姿を持つ彼女にならば、罪を着せることは不可能ではなく、表向き両親と仲良く接していた私と違い、輝夜は常日頃から反発していた。
彼女ならばあの三人を殺したとして、果たして誰が不審に思うだろうか。
否、まさにそのためにこそ、運命は「愚かな双子の姉」を用意してくれたのだとさえ思った。
輝夜を生贄にすれば、晴れて自由の身になれる。
そんな不思議な確信に従い、私は殺人計画を練っていった。
重要なのは時だ。
明智光秀が、織田信長と嫡男の信忠を同時に討てるタイミングで謀叛を決行したように、私もまた、両親と教主の三人が一堂に会したタイミングで殺害しなくてはならない。
重要なのは場所だ。
光秀が、自身の居城に近く、かつ護りの手薄な本能寺を舞台に選んだように、利の無い場所で事を起こすのは殺害失敗の可能性が増すだけでなく、輝夜に罪を着せることも難しくなってしまう。
重要なのは確実性だ。
光秀が、信長を確実に討てるよう大軍を率いて決起したように、動機面だけでは輝夜を犯人に仕立てるには今一つ弱いため、誰もが彼女を犯人だと見做すような証拠も用意して、確実性を高める必要がある。
疑いが掛からないよう慎重に準備を進め、私は待った。
何年も、何年も──牛の歩みの如くゆっくりと、しかし着実に。
教主からの強姦未遂に遭ったことに絶望して、輝夜が冬の川に身投げしたと聞いた時は、流石に驚きと焦りを禁じ得なかった。
ここで輝夜に死なれてしまっては、唯一のスケープゴートが居なくなって計画が頓挫してしまうと大いに危機感を覚えたものの、幸いにして彼女は一命を取り留めた。
自殺に走るほどに追い詰められていたというその事実は、後に輝夜へ掛かる疑いをより強固なものにしてくれるに違い無いと、運命の後押しを改めて実感できた。
それからも準備を進め──遂にその時が来た。
教主が、私と両親が暮らす家を訪問する予定日が。
我が家のように、教団の規模がまだそれほどではなかった頃から隷従してきた「馬鹿な奴隷家族」に対して、教主は折を見て訪問することで、良好な主従関係を維持してきた。
やるならその時しか無いと、私は訪問の機会を待っていた。
当時、家に居たのは三人だけで、輝夜はアパートを借りて別居状態。
訪問者は教主だけで、付き添いは無し。
家の周囲は田畑が広がっており、近所の民家からも距離があるため、物音や叫び声が上がったとしても聞き付けられることはまず無い。
教主が来る前に私は一旦家を出て、再び戻って来た。
照朝としてではなく、輝夜に扮して。
父なる太陽からは「情熱」を、母なる地球からは「祝福」を授かることで、あらゆる生命は誕生し育まれる。
では、私の父と母は、娘の私に一体何を授けてくれただろうか。
何も無い。
彼らは何も与えてなどくれなかった。
太陽や地球が見返りを求めて生命を育む訳ではないように、親は子に見返りを求めない。
子の誕生を喜び、成長を助け、幸福を願うことこそ親のあるべき姿のはず。
だと言うのに、私の両親は情熱と祝福を与えた気になっていただけで、私の心と人生をどす黒い暗雲で覆い尽くし、ただひたすら奪い続けていった。
欲しいものを何一つ与えてくれず、理不尽に奪っていくだけの存在を、どうして親と思えようか。
そんな両親も憎いが、最も憎いのは全ての元凶である教主。
この三人が居る限り、私の人生には夜明けも晴天も訪れない。
闇夜と暗雲に閉ざされた、無明の暗黒だけが漠然と広がる心に、やがて殺意の灯火が生じるのは必然だった。
自由も希望も無いまま、奪われるだけの家畜として暗い一生を終えるしか無いのなら──
「──奴らを殺す。それ以外に私に未来は無い」
今度は私が奪ってやると、暗黒に突き落としてやると、そう心に決めた。
だが、ただあの三人を殺せば済むという単純な話でもない。
私たちの先祖はあの明智光秀なのだ──と、父方の祖父母から聞かされたことがある。
勿論そんな話は祖父母を入信させるために教主が吹き込んだ嘘っぱちなのだが、しかし彼の歴史は私にとって大きな教訓となった。
明智光秀があのような決断を下した動機は定かではないが、私が思うに、彼もまた苦しい境遇からの救済を望み、織田信長を討つことがその唯一の手段だったのだろう。
結果として、光秀は信長を討つことには成功したものの、どこで目論見が外れたのか、それから僅か十一日後に破滅を迎え、肝心の救済を得られないまま歴史に汚名を刻んでしまった。
これは私にも当て嵌まる。
両親と教主を殺すのは、青春を台無しにされた復讐というのも勿論あるが、最たる目的は私が自由を手にすることだ。
憎き三人に死の制裁を加えて復讐を成し遂げたとしても、殺人罪で逮捕されてしまっては本末転倒だ。
光秀と同じ轍を踏まないためには、一計を案じる必要があった。
そして、これ以上は無いと断言できるほど素晴らしいアイディアが閃いた。
「輝夜……あなたを使わせて貰うわ」
瓜二つの容姿を持つ彼女にならば、罪を着せることは不可能ではなく、表向き両親と仲良く接していた私と違い、輝夜は常日頃から反発していた。
彼女ならばあの三人を殺したとして、果たして誰が不審に思うだろうか。
否、まさにそのためにこそ、運命は「愚かな双子の姉」を用意してくれたのだとさえ思った。
輝夜を生贄にすれば、晴れて自由の身になれる。
そんな不思議な確信に従い、私は殺人計画を練っていった。
重要なのは時だ。
明智光秀が、織田信長と嫡男の信忠を同時に討てるタイミングで謀叛を決行したように、私もまた、両親と教主の三人が一堂に会したタイミングで殺害しなくてはならない。
重要なのは場所だ。
光秀が、自身の居城に近く、かつ護りの手薄な本能寺を舞台に選んだように、利の無い場所で事を起こすのは殺害失敗の可能性が増すだけでなく、輝夜に罪を着せることも難しくなってしまう。
重要なのは確実性だ。
光秀が、信長を確実に討てるよう大軍を率いて決起したように、動機面だけでは輝夜を犯人に仕立てるには今一つ弱いため、誰もが彼女を犯人だと見做すような証拠も用意して、確実性を高める必要がある。
疑いが掛からないよう慎重に準備を進め、私は待った。
何年も、何年も──牛の歩みの如くゆっくりと、しかし着実に。
教主からの強姦未遂に遭ったことに絶望して、輝夜が冬の川に身投げしたと聞いた時は、流石に驚きと焦りを禁じ得なかった。
ここで輝夜に死なれてしまっては、唯一のスケープゴートが居なくなって計画が頓挫してしまうと大いに危機感を覚えたものの、幸いにして彼女は一命を取り留めた。
自殺に走るほどに追い詰められていたというその事実は、後に輝夜へ掛かる疑いをより強固なものにしてくれるに違い無いと、運命の後押しを改めて実感できた。
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我が家のように、教団の規模がまだそれほどではなかった頃から隷従してきた「馬鹿な奴隷家族」に対して、教主は折を見て訪問することで、良好な主従関係を維持してきた。
やるならその時しか無いと、私は訪問の機会を待っていた。
当時、家に居たのは三人だけで、輝夜はアパートを借りて別居状態。
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家の周囲は田畑が広がっており、近所の民家からも距離があるため、物音や叫び声が上がったとしても聞き付けられることはまず無い。
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