【完結】婚約破棄を望んだ悪役令息ですが、破棄して貰えないので隣国に逃走します!

きたさわ暁

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逃走中の回想

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 僕の家は、父、母、兄二人、の五人家族だ。現在社交シーズンでもある為、父母も長兄も、王都に出てきている。次兄は輸出入の仕事のため、国外へ出ているから現在王都には四人しかいない。

 それでもエルドリス家は、出来るだけ夕食を共に取ることにしている。煌びやかなシャンデリアの灯りが灯る広々とした部屋のダイニングテーブルを囲んで夕食が始まった。

「シルフィード、頬が赤くないか?」

「⋯⋯転んで打ったんです」

 本当のことは言えないので誤魔化しながら前菜のマリネを咀嚼してから答えると、母親が心配げな視線を向けてきた。

「まあ、痛みは?」

「すぐに薬を塗ったので、もう痛くないです」

「そうか。今日は公爵家でのお茶会だったのだろう」

 お茶会でちゃんと公爵令息と交流出来たか聞いてきている父に、なんと答えるべきか悩んでしまう。

「婚約を解消したいのですが」

 考えるのが億劫になり、僕の口から直球で願望が飛び出た。

「今日のスープはことのほか美味いな」

 前菜が下げられ次のスープが運ばれてきて、一口飲んだ父の感想はそれだった。僕の言葉は丸っと無視されている。

「父上、シメオン公爵令息には想う方がいらっしゃるようです。本日その件でシメオン公爵令息とお話ししましたら、お相手とは距離を置くとおっしゃいましたが、帰りに運悪くお相手の方とお会いして、⋯⋯その、距離を置かれることにご納得されるとは到底思えず」

 無視されてはたまらないと、僕は言葉を続ける。スプーンを置いた父はようやく僕を見てくれた。けれどその返事は望んだものとは程遠かった。

「だが、この婚約は公爵家より打診があって結ばれたものだ。これからの業務提携のことを考えれば、自然と公爵令息の意識も変わるだろうし、お相手の方も弁えるだろう。しばらく様子を見なさい」

「はあ」

「シメオン公爵令息は、あなたに対して不当な行いをなさったの?」

 母に問われて学園で見た光景を思い出したが、口に出せなかった。

「⋯⋯いえ、そのようなことはないのですが」

「では、婚約は継続でよろしいわね。学園を卒業して半年後には結婚式ですもの。もう準備も進めていますからね。婚礼衣装はお相手と合わせなければなりませんが、嫁入り道具として持っていきたいものを母と選びにいきましょうね」

「はあ⋯⋯」

 これまで領地や学園では好きに過ごさせてくれたが、やはり結婚となるとそうそう解消なんて出来ないのだろう。父母が言うように、しばらく様子を見た方が良いかもしれない。今日の昼間に自分の気持ちを公爵令息に話したし、ああいった態度を改め、相手も諌めてくれるかもしれない。

 あまり良い予感はしないけれど、悲観的になるのはやめようと思う。
 それとは別に、婚姻の準備とやらに時間を取られるのは嫌だなと思う。母であるミルフェリーナの好きにしていいと言いたいところだが、その後の怒りが怖いので口には出さない。その代わり気になったことを、長兄に問いかける。

「ガーランド兄上、ヴィルフリード兄上からシーレでの薬草の輸入について連絡はありましたか?」

 次兄のヴィルフリードには、個人的に買ってきて欲しい薬草を頼んでいたので聞いてみる。

「いや、まだ連絡はないな」

「そうですか」

 残念に思っていると、長兄のガーランドが微笑んでくる。

「もしこの仕事が上手くいかなくても、シーレには私の友人がいる。そいつに頼んで個人的に取り寄せてやるからそんなに不安になるな」

「玩具を欲しがる子どもじゃないんですから、不安になんてなってませんよ。まあ、個人的興味は、もちろんありますけど」

 シーレ国で栽培されている薬草は北国で育つ特殊な薬草が多く、しかも輸出に制限を掛けているのでかなり貴重なものだ。種や苗木が手に入れば良いが、難しいだろう。その代わりとして、我が家の調薬技術を求められるかもしれない。

 僕的には薬師同士の情報は開示して、新たな調薬が出来れば良いと思ってるんだけど、国や家といったしがらみがあると簡単にはいかない。

「僕もシーレに行きたいな」

 自分の目で今まで見たことのない薬草を見てみたかった。世の中には自分の知らない薬草が山ほどあるだろう。本で見ただけのものも、その存在すら知らないものも沢山あるはずだ。僕はオメガとはいえ、普通とは違う変わったオメガなので、あまり制約のない自由な三男だった。領地でも自由に歩き回れたのだから、国外への遊学くらい許されないだろうか。

「ねえ、シルフィード。シメオン公爵令息のフェロモンを感じることはないの?」

「全然わかりません」

 本当のことなのできっぱり伝える。僕はオメガとしては容姿も能力も落ちこぼれだ。オメガのフェロモンは微弱過ぎてアルファに認知されないそ、フェロモン受容体が壊れているのか、アルファのフェロモンを認識することも出来ない。だからアルファであるノア・シメオン公爵令息と結婚したとしても子どもが出来るかもわからないのだ。

 僕って本当にポンコツ。 

「そう……」

「母上、医師も運命の番ならばわかるかもしれないとおっしゃっていたではありませんか。シメオン公爵令息は運命ではないのです。あまりシルフィードを追い詰めないであげてください」

「ええ、わかっているのだけど」

 僕はオメガとしてポンコツだから、フェロモンもわからないし、微量すぎて相手に感じてもらうことも出来ない。だから何度も行ったお見合いを意味するパーティーに出席しても、婚約の打診すらなかったのだ。僕は僕の相手にと言われた人には、正直に自分の体のことを話していた。
 がっかりした母を長兄が諌めてくれた。本当に出来た兄である。

「さあ、暗い話はここまでだ。メインを頂こう」

 会話が途切れた隙を見逃さず、本日のメイン料理が運ばれてきた。美味しい夕食のはずなのに、なんだか布でも噛んでいる気分になってしまった。








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