【完結】この悪役令息は、僕が育てました!

きたさわ暁

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26話

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 いきなりドアが開けられ、入ってきたのは担任のラツェリ・デューダーだった。デューダーはベッドの上で揉み合っている二人を見て、固まってしまう。

「あ、の……」

 なんと言っていいのかわからず、でもこのままじゃいけないと僕は先生に声をかける。その声で我に返ったのか、先生はルーファスに向かって厳しい表情を向けていた。

「……キンケイド君、不純異性……、いえ同性交遊は構内で禁止されてます。私は教師として、きみを止めなければなりません。たとえきみが高位貴族子息だとしても、強姦は犯罪です。けれど不思議ですね、清廉潔白と誉れ高いきみが、真面目で勤勉な特待生であるサッシャ・ガードナー君を手籠にするなんて。私はこの目で見たことしか信じませんが、それでも……」

 先生はいつもの落ち着きをなくし、口早に離している。ルーファスは僕の腰から手を離し、そしてそんな先生に対してとんでもないことを口にした。

「見たのか?」
「ええ、この目でしっかりと。きみがガードナー君に対して不埒な行いをしようとしたところをね。私は生徒を守る教師として……」
「サッシャの肌を見たのかと聞いている」
「は?」
「わ――っ先生、違うんです。僕たちは、その、僕が転んだんで、その、怪我の様子を見ようとして、そんな不埒な真似なんてしてません!」
「え?」

 恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。同じように先生の顔も赤くなり、僕とルーファスを交互に見ている。

「転んで尻餅をついたんですっ! だから、怪我していないか見るって言ってて、ルーファスは僕に不埒な真似なんてしてませんっ」
「そうなんですか?」
「サッシャが転んだのは事実だ」
「あれ? じゃあ私の勘違いですか?」
「そうです、そうです。勘違いです。ルーファスが……いや、キンケイド侯爵令息様が僕なんかに劣情を抱くはずがありませんから!」
「そうなんですね。勘違いしてすみません。ところで怪我なら私が診ましょうか?」
「イエ、結構デス」

 お尻を見られるのなんて誰にだって嫌だ。少し痛みはあるが、別に命に関わるほどじゃない。前世、病院にずっといた僕は今世保健室が苦手だった。入学前に健康診断を受けた時も早くそこから逃げ出したくてたまらなかった。

 ルーファスが外したボタンを留め、ベルトを付け直すと制服の上着の裾を元に戻す。早く教室に戻らなければ午後の授業が始まってしまう。
 僕はルーファスを押し除けてベッドから降り、出口に向かおうとした。その時、またドアが開いて今度は養護教諭が戻ってくる。

「あら、お客さんがたくさん。ごめんなさいね。女性特有の用があったのよ。あらあら、デューダー先生、また怪我をしたんですか?」
「はい、指を。それでこちらのガードナー君なんですが、転んで尻餅をついたそうです」
「そうなの? ちょっと下を脱いで見せてみて」
「いえ、僕はもう全然痛くないですし、午後の授業が始まってますのでこれで失礼いたします。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでし……っ」
「脱いで見せて?」

 養護教諭は僕の腕を掴んでにっこりと微笑む。

「え、でも……」
「キンケイド君、そこから降りて、部屋を出てくれる? あ、デューダー先生も、そこにバンソーコーがあるの知ってますよね。一枚あげますから、それ持って出ていってくださいね。さあ、ガードナー君、脱ぎましょうね」
「え、あの、その、……」
「あら、お肌スベスベね。若いっていいわあ」
「ルーファス、僕やっぱりルーファスに手当てして貰いたい。寮に戻ってからでいいからっ!」

 恐怖のあまり僕はルーファスに手を伸ばす。ここにいたら確実に何かを失いそうで怖くなる。なりふり構っていられない。そんな僕をルーファスはすぐさま助けてくれた。抱え上げて養護教諭から引き離し、すぐ様保健室を飛び出してくれる。

 部屋の中から残念だわーという声が聞こえてきて、自分の判断は間違ってなかったと胸を撫で下ろす。今度はルーファスの腕に座るように縦にだき抱えられ、教室へ向かう。

「ルーファス、もう降ろして。教室までこんな格好で行けない」
「だが……」
「お尻が痛くなったら言うから」

 ちゃんと正直にルーファスに申告すると約束すれば、ルーファスも黙って床に下ろしてくれた。ほっとして息を吐き出してから、ルーファスを見上げる。

「ありがとう、ルーファス」

 授業が始まって人気のない廊下は、声が響く。僕は口を手で押えて誰もいないことを確認するように周囲を見渡した。

「大丈夫だ。誰もいない」
「本当?」
「ああ、サッシャには嘘は言わない」
「ルーファスは誰にだって嘘は言わないでしょ」

 僕の為に悪役令息になってくれているが、本当のルーファスは優しくてかっこよくて、頼りがいのあるとても良い人だ。こんなことがなければ、友達になって欲しいくらいの。そこまで考えて、今の僕たちの関係はいったいなんだろうと思う。僕はルーファスの優しさに甘えているだけだ。いつかルーファスの為になにか出来ればいいのに。

「サッシャ?」
「なに?」
「もう教室まで着いたが……やはり少し保健室で休んでいた方が良かったんじゃないか」
「いやっ、僕は本当に大丈夫!」

 慌てて答えればルーファスは納得していないような表情を浮かべながらも、それでもそれ以上保健室に戻ろうと促すことはなかったことに安心する。誰もいない廊下を歩きながら、僕は隣を歩くルーファスをちらりと見上げる。ルーファスはそんな僕に気づいて、そっと手を取ってくれた。こんなに優しい人に、僕は何をさせているんだろう。

「サッシャ、ドアを開けても良いか」
「うん!」

 ドアを開ける前に手を離す。教室にはすでに担当教科の教師が来ていて、僕たちふたりに気づいて入るように促してくれた。

「ガードナーが怪我をして保健室に行ったと聞いている。席に着きなさい」
「はい、ご迷惑をおかけいたしました」

 静々と頭を下げると、僕は自分の席へ座った。ルーファスも席に着く。身分がものすごく違うからか、僕の席は一番後ろの出入り口側、ルーファスたちは一番前の窓側だ。視力も聴力も人一倍良い健康体は素晴らしい。どんな場所からでも教師の声が聞こえるし、黒板に書く文字も見える。

 僕は一番後ろの席にポツンと用意されている席に座って、授業の教科書を出そうとした。バッグから取り出そうとした教科書があまりにも軽くてびっくりした。

 取り出した教科書はビリビリに破かれており、見るも無惨な姿になっていたのだった。




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