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39話
しおりを挟む「ここどこ?」
「俺の部屋だ」
「キンケイド家ってこと?」
「寮の部屋だ」
寮の部屋と聞き、自分の部屋の間取りを思い出す。前世でいうところの、六畳一間にベッドと勉強机、それに洋服ダンスが置かれた殺風景な部屋と、この部屋とは天と地ほど違う。
「僕の部屋の隣、こんな部屋だったの!?」
全くもって何もかもが違った。置いてある家具もだか、壁紙や天井、窓枠すら違う。ここがキンケイド家の屋敷だと言われたら素直に信じてしまっただろう。寮の部屋と言われた方が信じられない。
「広さも全然違う。あ、ナイジェル様が工事の音してたってこれか……」
そりゃあ、この部屋を作るためなら工事が必要だろう。この寮は出る時に元通りに戻せば在学中に家具を持ち込んだりすることは可能だった。僕はほとんど身一つ時でここにきたので、備え付けの家具をありがたく使わせて貰っている。
「キンケイド家の部屋とは見劣りする」
「そーなんだ……」
僕の部屋なんて家畜小屋みたいなものかもしれない。よくルーファスは毎日僕の部屋に来ていたなと思う。僕の部屋にルーファスは似合わない。
僕は起き上がって体を見下ろした。真新しいシャツを着ているが、その下には包帯が巻かれていた。
「包帯?」
「……痛みはないか?」
「へ? 痛み?」
キスっていうのはどこか痛くなるのだろうかと思っていると、自分が気を失う前に何があったのかを思い出す。
「あ、僕……階段から落とされ……、いや、落ちたんだった」
あれは白い何かに落とされたのだが、ルーファスにそれを話す事は出来ない。優しいルーファスは、僕が誰かに階段から落とされたなんて知ったら、相手にどんな報復をするのかわからないからだ。自分の問題にもうルーファスを巻き込みたくなかった。
「僕、足を滑らせて落ちちゃったんだね」
ルーファスは僕の言葉を信じていないような目をしていたが、何も言わなかった。
「それで、痛みは?」
「え? あ、ないよ! あ、包帯巻かれてるけど、僕怪我したの?」
怪我をしていると考えた途端、痛みが出てきたような気がした。痛くないと言った手前、僕はそれを我慢したがルーファスには見抜かれていた。
「痛み止めを処方して貰っている。飲んでくれ」
薬なんて高価なものはこの世界に生まれてから飲んだことはない。僕は躊躇しながらルーファスから丸薬とコップに注がれた水を貰って飲み干した。
「苦ーい」
「すまない」
こちらの世界の薬は味が全く改良されていないのか、苦味と渋みとなんだか甘ったるい味がした。舌を出して不味さを散らそうとしているとルーファスが謝ってくる。
「えー、この苦い薬、わざとなの? もっと美味しい薬ある?」
「そうじゃない。サッシャが怪我したことだ」
「なんで僕が階段から落ちて怪我したことに、ルーファスが謝るのさ。それより僕を運んでくれたのもルーファス?」
「ああ」
頷かれた僕は、ルーファスに飛びついた。
「ありがとう、ルーファス!」
僕は昨日のキスに悩んで、ルーファスを避けて登校したのに、部屋にいない僕を心配して学園まで探しに来てくれたのだろう。大切にされているようで嬉しくなる。だらしない笑い顔を浮かべながら、僕は抱きついたルーファスの匂いを嗅ぐ。温かくて優しい匂いがした。
「起きないから、不安、だった」
「あ……っ」
抱きしめ返してくれたルーファスは、小さな声で呟く。階段から落ちて気を失い、ここに運んで暮れたのならすごく驚いただろう。意識がなくなる前に聞いた声はルーファスだったような気がする。
ちょっと階段から落ちただけで目覚めなかった理由なんて簡単だ。昨日よく眠れなくて、眠かったからだ。起きた今は少し体が痛いくらいで、きちんと睡眠を取ったからか、すごく元気だ。
「ごめんね」
「心配した」
ルーファスの胸から顔を上げて見つめれば、眉間の皺は二本あった。そっと指を伸ばして、その皺に触れる。
「ルーファス、眉間に皺があっても綺麗だよね」
「……」
反省してないと思われたのか、ルーファスは何も言わずにキスしてくる。
このキスがルーファスにとって何の意味もないことくらいわかっている。これは練習だ。
「んんっ……これって練習?」
「……練習」
「……もう少し練習、する。王子に下手くそだと思われたくないし」
これは練習であって本物のキスじゃない。王子とのキスがヒロイン(♂)にとって本物のキスに決まってる。
でも僕にとってはこのキスは本物だ。ルーファスとする、本物で、本当で、真実のキスだ。僕は、ルーファスとキスしたい。
どうしてルーファスをキスしたいのか考えると、身悶えしたくなるような答えに辿り着きそうで僕は思考をやめた。考えている時間なんて、勿体無い。このチャンスを一回も逃したくなかった。
「ルーファス、キスして」
ルーファスはもちろん僕のお願いを聞いてくれる。温かくて優しい心の持ち主だ。キスもとても上手かった。
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