『あるものがたり』

世藍

文字の大きさ
1 / 1
1章 ※名称未定

第1話

しおりを挟む
 薄明りに、影が二つ。もう21時を回り、夜空で無数の星がきらめいている。

「ほら、寝る時間ですよ」

 穏やかな女性が呼びかけると、小さな子どもは布団から顔を出した。

「        。   、      !」

「えぇ…下が騒がしくて眠れない?」

 ジト目で女性を見、子どもは首を大きく振った。

「   !」

「なんだい?」

「   !」

 子どもが布団の中から取り出したのは、年季の入った一冊の本だ。くすんだ藍色の表紙に、一つの星が特徴的な本。それだけで、表紙には一言も書かれていない。作者の名だけでなく、題名でさえ。

「本?……あぁ、この本を読んで欲しいのか」

 女性は(なるほど)というように子どもから本を受け取ると、パラリ…とページをめくりだした。

「これはこれは懐かしいもんを…」

「      ?」

「あぁ、もちろん読んでやろう。」

 パラ…

 またページをめくり始める。

「ん”ん…『それは、とある星の、ひどく日の照りつける昼を忘れさせるような、雪がしんしんと降る夜のことでした』」

「  、    」

「ちょっと黙ってなさい、今は読んでるんだから。不満げな顔をしない!後で聞いたげるから…えぇ…『それはそれは美しい女と、屈強で大変気難しそうな男が二人して、ある店を訪れたのはちょうどその日でした』…」

 「おやすみなさいの本」は、まだ始まったばかりである。









 女は雪道をひたすら走り、明かりの灯った店を見つけたのです。辺鄙な土地にある、たった一軒の店。女は迷うことなくその取っ手に手を掛け、力強く扉を開けました。店の扉はギィィ…と嫌な音を立てましたが、彼女は何も気にしていないようでした。

「どなたか…どなたかいらっしゃいませんか!!」

 声を張り上げる女に、店主と思われる中年の男は落ち着いた様子で

「おやお嬢ちゃん、どうしたんだい?こんな遅くに」

 なんて言うのですから、女は少し狼狽えたようでしたが…

「あの…!とても怖い人が」

「襲い掛かってきたのかい?」

「いえ、そうではなく…」

 なかなか本題に入らせてくれないようです。

「とにかく、男性が道端に倒れてらしたの!でも、私では運ぶこともできなくて…彼は『なにもしなくていい』の一点張りなのだけれど」

「なら放っておけばいいだろう?」

「えぇ…?この吹雪の中ですよ?」

「本人が何もしなくていいと、そう言うなら問題なかろう?」

「でも…!血を流して一晩だなんて、それを放っておくだなんて無理な話でしょう?」

「そうかい、血を…」

「そうです、血!あの、一応医学を少々嗜んでおりまして応急手当をしてはいるのですが、なにせこの吹雪ですし、手持ちでは限界がありまして…!」

 女は続けます。

「あの、店主さんとお呼びすればいいのかしら。もしお嫌でなければ…いえ、ほぼ強制なのですが…!どうか、一緒に運んでくださいませんか?こんな話、放っておけば寝覚めも悪いでしょう?」

 女は懇願するようにこちらを見て、情に訴えかける魂胆のようでした。まぁ、放っておくのは少し残った良心が痛むというものなので。

「仕方がない…それで?どの辺りだ。案内してみろ」

 そう言うと、女は目を輝かせました。

「えぇ!すぐ案内します!!」









 女が案内したのは、店からそう遠くない雪道の途中でした。先ほどの吹雪はどこへやら、寒々とした空は変わりないものの、人捜しにはいくらかましな天候へと変わったようです。

「この辺りだった気が…」

 女の指差す方は雪が一面を覆い尽くしており、人ひとり見えません。雪に埋まってしまったのだろうかと小屋から持ってきたシャベルで雪かきをするものの…

「なんにもないが?…お嬢さん、あんた、さては方向音痴じゃあないだろうな?」

 そう言うと、女は焦ったように「そんなことはないはずです…」と力なく言います。なんだか申し訳なくなって(これは彼女も同じかもしれないが)、少しからかいすぎたかと反省し、大人しく女とともに場所を移していきました。









 そうこうしていると、女は何かを見つけたようで、突然走り出します。

「危ないから走るんじゃないぞ…!」

「はい!すみません、でも…あ、ほら!この布切れは私が彼に…」

 そういわれて女の手を見れば小さな布があり、その白い布は真紅で染められていた。

「なら、この周辺にいるか、化け物じみた回復力の持ち主か…ってところか」

 そう言うと、女はますます不安そうな顔をした。

「心配です。一刻も早く捜さなくては…」

「…見ず知らずの人間にそこまでするとは。あんた、物好きだなぁ」

 皮肉ったはずなのだが、女は嬉しそうに笑うだけだった。

「えぇ、よく言われます。でも、人に優しくするようにと教育されてきましたからね。…あ!」

 女の目線を追うと、背丈が高い人影がたしかに見えたものだから、「お、探していた人間か?」なんて。(少しテンションが上がってしまったのはバレていないだろうか)と店主がどぎまぎしているのに気づきもせず、「そうかもしれないです!」と女は安堵の笑みを浮かべました。まだ確証はないのですが。





「行くか」

「はい!」




『あるものがたり』1章—1話 つづく・・・

****************************************

はじめまして、世藍(ぜいりゃん)といいます。
名前に由来等はありませんし、どのように読んでくださっても構いません。
①話が脱線しがち・②書きたいお話(シーン)を優先して書き、その間を埋めるのによく苦労する作者です。よろしくお願いいたします。

今回は初めての投稿なのですが、これからシリーズものを作成する予定です(自己満足)。
この作品はシリーズの一部といいますか、作者が世界観を掴んだり、アイデアを書き留めるためのお試しストーリーです。
そのため、「本編」とされる作品(シリーズ本編)を執筆する際には、全く異なる世界観のこともあれば、現在の構想が一部、あるいはほぼ全て採用することもあるでしょう。
そのため、「お試し」と称される今作では世界観がくるくる変わることもあり得ます。ご了承ください。

今回の『あるものがたり』編は上記のような意図があって作られたものです。

思い付きで書いているため、編集・訂正を繰り返す予定です。
おそらく更新時は会話が多くなると思われますが、順次追加されていくと思われます。
また、容姿についての記述は一切されていませんが、今後追加される予定です。
今回は「この先、主人公となりそうな女性」と「店主さん」しか出てきていませんからね…!

また、今回書いていてナレーション(特に、1つ目の*以降)を主に丁寧語「です」「ます」にすることで書きづらさと表現の難しさを感じましたので、もしかすると次話からは「だ」「である」調でいくかもしれませんね…
その場合、後日1話を修正することになります。

よかったら、今後もお付き合いくださいm(__)m
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...