恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 何を言えばいいだろうか。俺が無言だからなのか、黒崎まで無言になった。お互いの視線が交わり、見つめ合う形になった。黒崎が笑っていた。だからはっきり言ってしまった。優しく笑うなと。すると、黒崎からさらに微笑み返しを受けて、もっと顔が赤くなった。優等生のふりが消えてよかったそうだ。俺は褒められて落ち着かない。

「そんなに笑うなよ!うちの親は黒崎さんのことが大好きだよ。信用していなかったら、今日ここには来られていないよ」
「信用されていてよかった。泊まりに来ることを許してもらえた。お前も俺のことを信用しているだろう?」
「あんたはヤバい人じゃないだろ?だから大丈夫だと判断したんだ。俺が……」
「なんだと?」
「俺が判断したんだ。お父さんはあんたのことを信じているし、俺もそうだけど。たまにヤバいことを言うから警戒しているんだ。それは最初から変わらないよ」 
「嫌みを言うな」
「いた!」

 てっきり嫌みを返されると思っていたら、予想外のことが起きた。頬をつねられてしまった。軽くだったけれども、けっこう痛かった。俺がやめてくださいと言うと、ちゃんと言えたじゃないかと黒崎から褒められた。今度は尻を叩こうとするから、黒崎から逃げようと思い、ソファーの端に移動した。さらにまた彼から尻を叩かれそうになった。それを避けて移動していく内に、元の位置に戻って、お互いに笑い出した。

「お母さんから頼まれた。憎まれ口を叩いて目に余るようなら、尻を叩いてくれと」
「言い返しが出来ないよ」
「暴れてもかまわない。防音がしっかりしている」
「困らないんだね」
「お前を見ていると飽きない」
「腹たつーー!」

 俺が地団駄を踏もうとしたら、黒崎から止められた。そろそろやめてくれと言っている。そして、そろそろ買い物に出ようと言われた。

「お前が教えてくれたショッピングモールに行きたい。必要だと思うものを選んでくれ。お前が過ごしやすい環境を作ればいい」
「黒崎さんが必要ないなら、そのままにしておけばいいよ。持って来るからさ。無駄がないだろ?買い物の荷物が多いときはお父さんが手伝ってくれるそうだよ。お礼がしたいって言っていたんだ」
「お父さんこそ忙しいだろう」
「うん。忙しい時期があるよ。そういう時は家族で助け合っているんだ。お父さんの肩に湿布を貼ったり、事務所の掃除を手伝ったりしているよ」
「そうか。親子の会話が出来ている家だな。根は素直なのは家庭環境か。俺の実家とは大違いだ。お前と暮らしたら楽しそうだ。ここに住んでみるか?話すたびに、お前のことが好きなる」
「ありがとう」

 黒崎から次々と質問された。話さないと相手のことが分からないからだそうだ。俺のことをもっと知りたいと言われた。家のことを話した後、今度は学校の話題になった。

「開明高校は個性派集団だな。面白いか?」
「面白いよ。少し不満があるんだ。先生の理屈が多いんだ」
「環境が整った学校へ通わせてもらえるのは有難いことだぞ」
「分かっているよ。でもさー、話も長いよ」
「説明してくれることは良いことだ」
「そうだよね。世話をかけているって思うよ」
「いい学校じゃないか。生徒達が生き生きとしている」

 黒崎が笑っていた。たしかに彼の言うとおりだと思う。中学生までは心を閉ざしていた子達が、開明高校に入った後で他の生徒達と笑い合いながら登校するようになるそうだ。藤沢もそうだったらしい。当時のことをよく覚えていないけれど、彼は最初から社交的だったと思う。みんなが大人になってきたのだと思った。
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