恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 14時。 

 昼ご飯を食べた後、ショッピングモールにやって来た。いつもお客さんでいっぱいだけれど、今日も沢山の人が歩いていた。黒崎は混雑した場所が苦手だろうかと気になった。彼に聞くと大丈夫だと返事が返ってきた。

 さっきから無言だから心配になっている。俺が誰かと肩が当たらないように気をつけてくれているからだと思う。俺からすると過保護のように感じる。黒崎が俺の肩を抱いて、人の流れから救い出してくれた。このショッピングモールには滅多に来ないと言っていったけれど、事前にホームページを見ていて、どこにどんな店があるのか覚えるようにしてきたそうだ。だから、人が多い場所を分かっていた。俺よりも詳しいと思って驚いた。

「俺は大丈夫だってば」
「こっちだ。こっちが歩きやすい」
「あ、ありがとう」

 黒崎から手を繋がれた。優しい力だった。彼から誘導されるようにして端の方を歩き出すと、スムーズに前に進めるようになった。今日は特別混雑していると思う。セールが始まっていたのかも知れないと思った。

 しばらく一緒に歩いていると、おしゃれな雑貨を売っている店の前に来た。黒崎が入りたそうにしたから、一緒に店に入った。

「可愛いぬいぐるみだね」
「ああ」

 この店にはぬいぐるみが置いてあった。黒崎がぬいぐるみが好きだと言い出したから驚いた。さらにプレゼントを買ってやると言われて遠慮したけれど、黒崎から強引に筆記用具のセットを選ばされた。何か欲しいものは無いのかと聞かれて思いつかなかった。すぐに選べと言うから強引な人だと思った。でも、黒崎の気持ちが嬉しいから、ノートやペンを選んで楽しんだ。

「次はどこの店に行きたい?」
「夏樹。疲れていないか?向こうの店に行ってみたい」
「俺は大丈夫だよ。行ってみようよ」

 買い物を終えて店を出た後、次はどこの店に行こうかと話し合った。そして、さっきぬいぐるみを見ていたとき、俺が似合わないとからかったことに腹を立てていないのかと聞いてみると、黒崎が首を振った。気にしていないそうだ。

「黒崎さんって腹を立てないんだね」
「ああ。ぬいぐるみが似合わない男だと思ったんだろう。溶け込めない場所に来たらこうなる。昔からそうだ」
「ショッピングモールは苦手じゃないんだろ?忙しくて来たことがなかったの?」
「そうだ。桂川さんのことを覚えているか?一緒に来られるとしたら彼女しかいない。俺は友達が少ない」
「そっか。ごめんね。沙耶って呼んでいたね。仲がいいんだね」
「ああ。中学時代からの友人だ。沙耶が食事に行こうと誘っていた。今度行こう」
「うん!ありがとう」
「夏樹。マンションで使う物はどうする?」
「もう買ってあるよ。マグカップ。それにしても、たくさん買うものがあるんだね」
「俺も欲しいものがある。ちょうどよかった。この店に入ろう」
 
 黒崎に連れられてキッチングッズの店に行った。彼が手早く買いたい物を選び始めた。その間、店員からのお勧めも聞いていた。そして、あっという間に会計に進み、二人で持ちきれないほどの荷物量になった。こんなに物が無かったのかと驚いた。普段の買い物はどうしていたのかと聞くと、ほとんどが宅配だと教えてくれた。
 
「黒崎さん。ここに来てよかったね。楽しそうにしているからさ」
「初めて来たからだ。来てよかった」
「普段の買い物はどこ?スーパーにはいかないの?ここのモールなら一度に揃うけど」
「スーパーへ行った事がない。他にも欲しいものはないのか?お前が使いたいものを選ぶと良い。俺の家は過ごしづらいだろう。買い物に付き合ってもらった礼をしたい」
「もういいよ。ペンも何本も買ってもらったし」

 そろそろ帰ろうという話をした。このままだとまた何か買ってもらうことになりそうだったからだ。その時だ。出口に向かおうと歩いていると、万理の好きな雑貨店が近づいてきた。入浴剤や石けんを売っている店だ。ここで売っているバスボムを、万理へのお土産にしようと思った。

「黒崎さん。ここは万理が好きなお店なんだ」
「石鹸の専門店か?」
「うん。バスボムもあるよ。うちのお母さんも好きなんだ。お土産にするよ。黒崎さんへのプレゼントも買いたいんだ」
「気にするな」
「いいよ。それこそ気にしないでよ。黒崎さんも気に入ってもらえると思う。さっきのプレゼントのお返しをしたいからさ」

 この店には大人の男性も買いに来ている。今も商品を選んでいる人がいる。今月のお勧めというコーナーに歩いて行くと、黒崎の手が俺の肩に触れた。混雑しているから、反対方向から行った方がいいということだった。その通りに行くと、おかげでスムーズに見たいコーナーに行くことができた。黒崎のことを頼りになる人だと思った。かっこいいとも思った。
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