恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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10-6(夏樹視点)

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 18時。

 晩ご飯を食べ終えたところだ。大浴場も気持ちがよかった。これからイルミネーションで彩られた公園を見に行くために、黒崎と二人で旅館から出た。外は散歩をしている人が多かった。玄関から竹林の中を抜けて大きな通りに出ると、周囲の建物が温かい色の灯りに照らされていた。この先に見えているのが、大勢の人で賑わっている商店街だ。昼間のように明るかった。この辺りは旅館やホテルが多いから、祭りの他にもイベントをやっていると教えてもらった。

 肩が触れあうぐらいに近くを歩いているからなのか、ときどき黒崎の匂いが鼻をくすぐった。いい匂いだと思った。もっと近くにいたいと思ってそばを歩くようにすると、急に心拍数が上がった。すると、黒崎から心配そうに振り向かれた。そして、寒いのかと聞かせてくれた。海が近いからなのか、涼しい風が吹いているからだと思う。

「どうしたんだ?寒いのか?」
「ううん。平気だよ。黒崎さんって、いろんな場所を知っているんだね。知り合いが多いから?」
「それもある。情報が集まる分、詳しくなる」
「クリエイティブな仕事だよね。黒崎さんはお洒落だもん」
「お前からそういう事を初めて言われた」
「今まで失礼だったよね。ごめんなさい。俺って変な奴だよね」
「変な奴じゃない。理解されないと思って、肝心なことが話せなくなる。俺の前では言いたい放題にしておけ。練習だ」
「ありがとう。晩御飯、美味しかったね。ここって昼間に通ったよね。夜は全然イメージが違うんだね」
「観光スポットだからな。これから行くところは公園だ。ライトアップされて、いい雰囲気だと聞いた。本当に退屈をしていないのか?」
「ううん。せっかく黒崎さんと来ているんだから」
「ああ。旅館の人から良いスポットを教えてもらった。イベント会場近くの海が綺麗だそうだ。少し歩くらしい。疲れていなければ行ってみよう」
「楽しみだよ。あ、あれは何の店かな?」

 のんびり歩いていると、団子屋の看板を見つけた。眺めながら歩いていると、足下の石ころに気づかずに転びそうになった。しかしすぐに黒崎から抱き留められたから転ばずに済んだ。いきなりのことに胸がドキドキして、背中に汗が流れた。そして、ホッとしてため息をついた。お礼を言わないといけないと思った。

「黒崎さん。ありがとう」
「さっきからどうしたんだ?」
「綺麗な建物だなって思って見ていたんだ。観光地だね。楽しいよ。あ、また転びそうになった」
「ゆっくり歩こう。お前らしくない。緊張しているのか?」
「だって、あんたが優しいからだよ。俺が嫌みを言っても怒らないし、デコピンもしてこないし」
「それはお前が素直だからだ。怒らなくて済んでいる。少し休もう。そこの裏通りで落ち着け」
「黒崎さん!手を握らなくていいってばーーー」
「危ないからだ。こっちに来い」
「うん」

 優しく手を握られて、通りから一本離れた場所へ促された。黒崎の温かい手の体温が伝わってきた後、胸がキュンとした。そして、苦しくなってきた。この胸の痛みの理由は何だろうかと思った。彼のことを意識しているからに違いない。黒崎から告白されたことが原因だ。友達同士の付き合いでかまわないと言っていたのに、告白される前とは大違いに、彼から嫌みを言われることが少なくなった。今はまるで恋人同士のようになっている。俺は心の中で何度も否定しながら、黒崎から手を引かれるままに歩いて行った。
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