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俺は男からナンパされることがある。中学時代には電車で痴漢に遭い、バス通学に切り替えた。駅構内での付きまといもある。だから男に触られるのは大の苦手だ。高校時代のトラウマも存在する。
ごめんねと言いながら、早瀬が指先から唇を離した。手は握ったままだ。図々しいと思い、呆気に取られて振り払えない。ここまで堂々とされると、悪い事をされた気にならない気分になる。
「僕はヴァイオリンを弾くんだよ。楽器をやっている分、手の傷が気になる性分でね」
「やめてください」
「ごめんね」
やっと手を離そうとしたタイミングで振り払った。早瀬は平然としたままで、モップの装置を使って、あっさりと絞った。
「はい。出来たよ」
「ありがとうございます……」
それを受け取りながらお礼を言って、言葉に詰まった。また顔を覗き込まれていたからだ。
「な、何ですか?」
「あんなことがあったんだ。食事をして仲直りしようよ」
「はあー?」
「いいだろう?この店の営業時間は、20時までだよね?待っているよ」
「いや、あの……」
嘘でもいいから約束があると言えばいいのに、慌ててしまって言葉が出なかった。すっかり彼のペースに呑まれて、肩まで抱かれた。
「引き止めたね。入ろう」
「離してください。食事には行きませんから!約束があるんです!」
「何時に?」
誰とどこへ行くのか?そう質問されると思っていたのに、想定外の質問をされて言葉が出ない。アタフタしているうちに、早瀬から話を詰められていった。こうなると自分のペースを保てなくて、もどかしい思いをした。
「嘘が下手だね。こういう時は『あなたには関係ない』と言うべきだよ?」
「『あなたには関係ない!』」
「もう遅いよ」
早瀬がクスクスと笑った。その笑顔は爽やかで、嫌な感じはしなかった。肩を抱く手が離れないから、思わず声を荒げた。
「離せよ!」
「約束してくれるまで離さないよ」
「変質者!」
「勘違いだと認めていただろう?」
「うん。勘違いだった。それは置いておいて、あんたのことは変質者だと思ってるから!」
「……誤解だ」
「何度も言わせるなよ。変質者かどうかは、本人が決めるものじゃないから」
するとその時だ。桜木さんが俺達のそばに来て、早瀬に言った。
「早瀬さん。そこでやめておいたらどうですか?」
「食事に誘っているだけだ」
早瀬が俺の手を引いた。俺はそれを振り払うように後ろに下がると、今度は肩を抱かれた。それを見た桜木さんが眉を寄せた。今度は俺が守られる番のようだ。桜木さんを困らせたくない。すると今度は黒崎さんが来て、早瀬のことを止めた。それを見て、俺も大声を上げて悪かったと思った。
「あの……、俺も悪かったんです」
「いや、早瀬が悪い。ひと回りも年下の子を追い込んだ。謝れ」
「……悠人君、食事に行こう。お詫びをさせてくれ」
早瀬から下の名前で呼ばれてしまった。みんなが止めているのに、早瀬が俺のことを誘うのをやめようとしない。
「はああ?悠人君って?どうして下の名前を?」
「ゆうとー。いいから。仲直りしてよ」
「夏樹。……食事の時間がなくなる。出よう」
「うん……」
「夏樹君。俺がいるから大丈夫だよ。話を聞いておくから」
「聡太郎君……。ありがとう」
夏樹から仲直りしろと言われてしまった。それを黒崎さんが止めて、夏樹のことを連れ出した。二人はこの後も予定があるようだ。俺のそばでは桜木さんが寄り添うように立ってくれて、さっき何があったのかを聞いてくれた。その様子を早瀬が微笑みながら見ていた。楽しそうに笑う男を前にして、何を言っても無駄だと悟った。
ごめんねと言いながら、早瀬が指先から唇を離した。手は握ったままだ。図々しいと思い、呆気に取られて振り払えない。ここまで堂々とされると、悪い事をされた気にならない気分になる。
「僕はヴァイオリンを弾くんだよ。楽器をやっている分、手の傷が気になる性分でね」
「やめてください」
「ごめんね」
やっと手を離そうとしたタイミングで振り払った。早瀬は平然としたままで、モップの装置を使って、あっさりと絞った。
「はい。出来たよ」
「ありがとうございます……」
それを受け取りながらお礼を言って、言葉に詰まった。また顔を覗き込まれていたからだ。
「な、何ですか?」
「あんなことがあったんだ。食事をして仲直りしようよ」
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「いいだろう?この店の営業時間は、20時までだよね?待っているよ」
「いや、あの……」
嘘でもいいから約束があると言えばいいのに、慌ててしまって言葉が出なかった。すっかり彼のペースに呑まれて、肩まで抱かれた。
「引き止めたね。入ろう」
「離してください。食事には行きませんから!約束があるんです!」
「何時に?」
誰とどこへ行くのか?そう質問されると思っていたのに、想定外の質問をされて言葉が出ない。アタフタしているうちに、早瀬から話を詰められていった。こうなると自分のペースを保てなくて、もどかしい思いをした。
「嘘が下手だね。こういう時は『あなたには関係ない』と言うべきだよ?」
「『あなたには関係ない!』」
「もう遅いよ」
早瀬がクスクスと笑った。その笑顔は爽やかで、嫌な感じはしなかった。肩を抱く手が離れないから、思わず声を荒げた。
「離せよ!」
「約束してくれるまで離さないよ」
「変質者!」
「勘違いだと認めていただろう?」
「うん。勘違いだった。それは置いておいて、あんたのことは変質者だと思ってるから!」
「……誤解だ」
「何度も言わせるなよ。変質者かどうかは、本人が決めるものじゃないから」
するとその時だ。桜木さんが俺達のそばに来て、早瀬に言った。
「早瀬さん。そこでやめておいたらどうですか?」
「食事に誘っているだけだ」
早瀬が俺の手を引いた。俺はそれを振り払うように後ろに下がると、今度は肩を抱かれた。それを見た桜木さんが眉を寄せた。今度は俺が守られる番のようだ。桜木さんを困らせたくない。すると今度は黒崎さんが来て、早瀬のことを止めた。それを見て、俺も大声を上げて悪かったと思った。
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