眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 シン……。静まり返った寮の門のそばで、早瀬と向かい合っている。寮からの灯りで、辺りはぼんやりと光に包まれている。雲間からの月明かりが冴えたから見上げると、雲が途切れた半月が輝いていた。そして、月の灯りが差し込み、お互いの足元に影をつけた。

「あの……」
「うん……」 

 今更のように無言の時間が帰ってきた。何を言えばいいのだろう?喧嘩をしていないのに仲直りをしたくなった。俯いたままでいると、顎に手を掛けられて持ち上げられた。 

 見上げた視線の先には、優しい眼差しが存在している。怒ったり笑ったり、俺と同じように忙しい人だと思った。こうして俺は人の顔色を窺うことが習慣になっている。そういう自分が嫌いだった。今は早瀬の表情を見逃したくない気持ちになっている。好きなのかな?きっとそうだ。こうして唇が近づいて来ても嫌ではない。

「キスをしてもいい?」  

 触れるか触れないかのギリギリの距離で囁かれた。ほんの少し動けば触れ合ってしまう。こんな状態で質問されて恥ずかしくなった。

「聞くならするな!」 
「また逃げられたくないからだ」 
「変質者から逃げるのは相場だよ」
「変質者じゃないよ」
「だったら何だよ?いじめっ子!いじめっ子・イケメン!いじめっ子・ギタリスト!いじめっ子……」
「ありがとう」 
「いじめっ子の10乗!」
「累乗されたのか。いじめっ子の本望だよ」 
「もう……っ」

 何を言っても笑っている。何でもいいから言葉に出してやった。そんなやり取りを繰り返しているうちに、息切れがした。

「はあ……、疲れた」 
「もう黙っていろ」 
「ん……」 

 今度こそ逃げないようにと、両頬を包み込まれてキスをされた。そして、唇からの熱を感じてきた時に、ゆっくりと離れた。 

「帰ろう」 
「どこへ?」 
「俺の家。悠人君の新居。引っ越し先だよ」 
「勝手に決めるなよーー」
「もう決めた」
「わあああーっ」 

 まるで荷物のような扱いで抱き上げられた。そして、助手席に放り込まれてロックを掛けられた。

「行くなんて言ってない!」 
「聞こえないな~?」 

 早瀬がわざとらしく首を傾げながら、車を発進させた。カーナビには、行き先が表示されていない。

「何度も往復しているからだよ。渋滞も近道も記憶している」
「そっか……。今日はごめん。花屋の前で逃げ出したことと、さっきのこと」 
「いいよ。こうして一緒に居られるから」
「どうして俺なんだよ?」 
「可愛いから」
「それじゃ分からないよ」
「好きだという気持ちだけじゃ駄目なのか?」
「理由が知りたい」 
「何度も言ったよ。真面目で繊細で、真っ直ぐなところだ」
「桜木さんは……」 
「反対に質問をするよ?どうして電話に出たんだ?寮から出てきた理由は?寮生の子が一緒だったんだろう?俺のところに来なくても解決したじゃないか」 
「それは……」

 早瀬は怒っていないし、優しい口調で話しかけられている。それが余計に心に突き刺さった。早瀬の好意を分かっていて振り回している状況だ。拒否の言葉を投げても捕らえられているのだと、言い訳をしているだけだ。それが分かっているのに、何も言い出せない。何を言えばいいのかも分からない。すごく馬鹿だ。自分はこんな奴だったのか。
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