眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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12-1 結ばれた約束

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 6月30日、土曜日。21時。 

 近所のレストランで食事をした帰り道だ。散歩がてら歩いている。新居が決定した。人口の島のような場所に建っているマンションだ。遊覧船などの水辺で楽しめるスポットもある。しかも、夏樹達が都内に引っ越して来た時に住んでいた場所だ。話を聞いた時に興味があった。 

「裕理さん。いいマンションが見つかったね」 
「そうだね。羽柴アイランドだ。四方を運河で囲まれているから景色がいいよ」 
「早く引っ越したいなー」 
「悠人君。お父さんからは連絡は?」
「特にないよ。先週、お母さんと2回目の話し合いをしたって聞いた」 
「そうか」 

 こうして、早瀬からフォローされている。何も言わなくても、自然と気持ちをほぐされている。他愛のない会話、笑い声、軽い言い合いによって。今では当たり前になったことが、ほんの2か月までは憧れていたものだった。 

「裕理さん。両親のことは気にしていないよ。こう思うようになったんだ。それぞれが幸せになるしかないって。両親はそうなれなかった。俺がいなかったら、別れていたと思う。ズルズル引きずっていたのは、そういう理由もあったのかなって……」
「そうやって自分を否定するな」
「うん。今は大丈夫だよ。家族がバラバラになっても、それぞれが元気ならいいよ。裕理さんだって、親元を出てきただろ?そんな感じに思えばいい」 
「まったく……」 

 早瀬が苦笑した後、抱き寄せられた。大きな公園のそばだから、この時間は人が少ない。敷地からの灯りだけが、ぼんやりと道を照らしている。お互いに何も言わないまま、見つめ合うだけの時間が過ぎていった。

「そうやって平気なふりをするな」 
「していないよ?」 
「だったらどうして、こんな顔をしているんだ?俺がいるから寂しくない」 
「うん、分かっているよ」
「ここからがスタートだ。たくさん喧嘩をして、仲直りをしよう。その繰り返しで、お互いのことを知ることが出来る。ネガティブに考えないでほしい」 
「ケンカするほど仲がいいっていうやつだよね?」 
「その通りだ」 
「うん……」 

 自然と顔が近づき、唇同士が重なった。何度もキスをして、お互いの想いを交換し合った。言葉がなくても通じる。こんなに素敵な日々が待っていたんだ。 

「悠人君。まだ早いかもしれないけど、伝えたい言葉がある」 
「なに?」 
「逃げるなよ?」 
「うん、平気。エロイ発言にも慣れたし」 
「はあ……」 

 早瀬が大きくため息をついて笑った。そして、両頬を包み込んで見つめられた。まるでスローモーション映像のように、早瀬の唇が動いた。 

「出会って、2か月しか経っていなくても関係ない。悠人、愛している」
「……」
「君はどう?」 
「えーっと……」 

 どうしよう? 愛しているなんて言われると思いもしなかった。難易度の高い言葉だ。それでも頑張る必要がある。俺が勢いよく踵を上げて、早瀬と同じ目線の位置まで伸び上がった。そして、今度は自分から早瀬の頬を包み込んで見つめた。 

「裕理さん。俺のこと愛してくれないかな?」 
「とっくにそうなっている」 

 お互いに微笑み合って、また唇を重ねた。空を見上げると、真っ暗なスクリーンが広がっていた。夏の大三角を構成する、七夕の織姫星と彦星を見つけることが出来た。毎年、こうして星を眺めよう。そう囁き合って、手を繋いで歩き始めた。

 恋人になった瞬間がゴールではない。これからが新しいスタートだ。あの日に出会ったキミとなら、デコボコ道でも進んで行ける。喧嘩をして仲直りをする。あの絵本の魔法使いと少年のように。いつまでも。

<END>
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