青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
702 / 938

20-23(夏樹視点)

しおりを挟む
 午前9時。

 東京都南青山にあるフラワーショップ、ベル・パッソネに到着した。ここが北岡さんのお店だ。近くにある駐車場に車を停めて、みんなで歩いてきた。ここの近くには俺と黒崎の好きなイタリアンレストランのレストランテ森下がある。

 その森下を通り過ぎて、道路から2本入った通りを歩いて行くと、フラワーショップがあった。一見、うっそうとしたジャングルのような外観をした店だ。ウッドデッキにはベンチが置いてあり、社長時代のお義父さんがよく座っていたと聞いている。
 
「おはようございますーーーー」

 営業時間は午前10時からだ。しかし、裏の事務所が開いている。俺達は店では無く、その事務所の方に歩いて行き、出入り口で声を掛けた。すると、奥から北岡さんが出てきた。今日はお店に1日いるということで、黒いエプロンを着けていた。

「おはよう。みんな無事か?」
「無事だよ。ありがとう。お義父さん、こっちだよ」

 俺は後ろにいるお義父さんの腕を引いた。一貴さんが何かをして迷惑をかけようとしているから止めようとしていた。俺はそれを止めた。後でまとめて謝れば良いことだ。そう考えるほどに俺の心は緊張していた。悪戯かも知れないメールとはいえ、気持ちの良い物ではない。そして、警察と話して避難することを選んだわけで、何も起きなければ良いのにと願った。

 すると、お義父さんが杖を付いていなくても歩けるようになっていると北岡さんに伝えて、足を見せた。そして、北岡さんが微笑んだ。

「黒崎さん。中にどうぞ」
「すまないね」
「朝ご飯は食べてきましたか?喉を通らなかったのでは無いですか?お手伝いさん達は自宅待機ということですが……」
「ああ。今日の夕方までいない。昨夜は一貴がざるそばを茹でてくれた。今朝もトーストを焼いてくれた。コーヒーは夏樹がコーヒーメーカーをセットしてくれたから、それを飲んだ」
「それだけですか!」
「ああ。たまには小食がいい」
「なんでことだ。何か買ってくるという選択肢はなかったんですか?」
「私は戦時中に小さい頃を過ごした。食べ物が無い時を経験したのは覚えていない年ぐらいだったが、戦争の後も食べ物が無くて、いつも空腹だった。この通り、その時の経験は生かされている。息子達には我慢を強いたが、たまにはいい」
「……」

 北岡さんが何も言わなくなった。お義父さんがそうすると言えば、俺達は従う。というか、付き合うことになる。だから、俺達が空腹なのだと知り、お饅頭があると言ってくれた。お茶も珈琲もあるという。それにはありがたいと思った。

「さあ、みんな入ってくれ。晴海君も出勤してある」
「どうもすみません」

 さっきまで事務所の出入り口に置いてあったディスプレイのクリスマスリースのような物に触れて、葉っぱを引っ張って遊んでいた一貴さんが、急に大人になった。はいはいと言いながら俺の背中を押し、中に入らせた。それはまるで町内会のおじさんを彷彿させる物であり、ヨークに切り替わったのだと分かった。

 そして、中に入ると、花や葉っぱの匂いが立ちこめていた。今から店内に飾るための花がバケツに入って置かれている。それはたくさんあり、これだけの花が1日で完売するのかと驚いた。お義父さんの家のように、家に出張して花を生けるサービスもあるからだろう。

 俺達が通されたのは、応接セットだ。そこそこの広さがある事務所の中で、どんと置かれていたセットだ。テーブルは片付けられていて、すでにお饅頭が置かれていた。そして、晴海さんがキッチンでお茶の支度をしてくれていた。黒いエプロン姿だ。家で料理はしないというが、本来持って生まれた手先の器用さで華麗にみんなの分のお茶を煎れて、それぞれに配ってくれた。

「ありがとう」
「まあ、座れ。師匠。師匠はブラック珈琲でしたね」
「ああ。砂糖もミルクも抜きにしてくれ、ありがとう」

 北岡さんが俺達と一緒にソファーに座った。俺の隣はお義父さんだ。俺の手を握っている。そして、何も怖いことは無いのだと言ってくれた。アン達はキャリーケースに入ったままで、北岡さんが、出してあげてと言ってくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。

処理中です...