聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 コンビニへ入ると、島川さんがすぐに向かったのが、お弁当のコーナーだ。昼ご飯はデリバリーを頼むのに。島川さんが”ざるそば”を手に取った。手土産の話をしていなかった。信州のそば乾麺、めんつゆ付きだと話すと、帰って食べると言い出した。このざるそばも買うそうだ。よっぽど好きなのか。

「どうして?ご飯やパンの感覚なの?」
「すぐに食べられるからだ。めんつゆと、冷凍ネギと海苔をトッピングだ。習慣になっていたよ」
「ふむふむ……。カズさんは忙しいもんねー」

 島川さんのことを愛称で呼ぶことにした。照れくさそうに笑ったから、気に入ったようだ。すると社長の顔に変わり、甘い言葉を囁かれて逃げ出した。

「ひいいいっ。俺の黒髪はほっといてよー」
「クセがなくて素敵だ。ブルーベースだから、青み系統の服が似合う。ナチュラルテイストで……。ああ、トラのユーリ!」

 島川さんがお菓子のコーナーへ行き、あっと声を上げた。すぐに向かうと、男性が尻餅をついていた。モップの水分か?床が濡れている。しかも床が反射しすぎている。これは危険だ。楽器店でバイトをした時に、モップを掛けていたから分かる。ここは彼に任せて、店員へ声を掛けに行った。

「すみません。モップを掛けた場所で人が転びました。もっと絞った方がいいですよ」
「すみませんでした。あ……店長!」
「……わざとぶつかって来ましたね」

 転んだ男性が声を荒げている。俺は見ていないが、島川さんは手前にいたのに。フォローしに行くと、島川さんが社長の顔になっていた。ホッとしたが、険悪な空気が漂っている。大人の世界は理解しがたい。

(防犯カメラに映っていると思うけど……)

 仕事関係の繋がりがあるのか、お互いの名前を知っていた。名刺交換をした後、男性が店から出て行った。島川さんは心配ないと言った。

「言いがかりをつけられないかな?」
「大丈夫だよ。当たっていない。ざるそばも無事だ」
「ふむふむ……。写真を撮っておこうね」

 床の水分が擦れていない。汚れてもいない。花壇に居たから靴の底が汚れているのに。ぶつかっていないだろう。

「悠人君。クジだ!」
「ふむふむ」

 くじ引きが出来るそうで、俺が引かせてもらった。その結果、トラのユーリの人形を当てた。裕理君だと喜んでいる男の手を引いて、さっさと黒崎家へ戻った。
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