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13時。
午後の講義開始のアナウンスが流れた。この時間の講師が紹介された後、黒崎が壇上に上がった。最初と同じく中央のマイクの前に立った。
女の子達からため息が漏れた。珍しくないことだ。今回は男の声も聞こえてきたから驚いた。カッコいいと囁かれている。恋愛対象でないことを願っている。
「……この時間を担当いたします、黒崎です。午前中の『鬼』より予告がありましたとおり、リラックスした……。あの『鬼』は……。マーケティング推進室にて、室長をやっていた社員です。現場から離れてしまったのには、そういった社内事情によるものです……」
鬼とは早瀨さんのことだ。参加者だけでなく、壁の方で立っている社員さんも笑っていた。俺にとっては黒崎が『鬼』であり、早瀬さんの方が『優しくて面白い人』なのだと思っていたのに、実際は反対だった。
「……では始めます。この時間はマーケティングの仕組みをお話します。意味から説明をすると、売れる仕組みを考える仕事です。消費者の好みや傾向について情報を収集して分析します。開発部門との試作品のチェック、情報分析……」
簡潔に説明された後、黒崎がスクリーン脇へと移動した。ステージそばでは社員さんがパソコンを操作して、スライドを表示させた。それは、午前中の予告にもあった、ソフトクリームを持った男の子のイラストだった。これは黒崎が描いたものだ。つまりは俺のことがモデルになっていると察して、嫌な予感がした。
「今回は、絵本を開いているイメージで説明していきます。……まず、このイラストを見てください。ソフトクリームが大好きな少年がいます。普段買っているのは、駅の近くのテイクアウト専門の店や、近くにあるカフェです。他にもいろんな場所でソフトクリームを買うことができます。……どうして少年は、2箇所で買うのでしょう?それを選ぶ時には、何を大事にするでしょう?何度も食べるため、買いやすい価格の店を選んだわけです。もちろん味も大事です。いつも同じ店なので、少々飽きてきました。別の店はないのかな?そんなことを考えていると、アクシデントが起きました……」
スライドが変わり、ソフトクリームの上の部分を落として、ショックを受けているものが表示された。身に覚えがあるものだ。俺のことをモデルにしている。
「……少年がソフトクリームを落としてしまいました。もう一度買おうとしても、店が閉まっています。どうしても食べたい少年は、別のお店を探し始めます。それが新しいお店へ行く、きっかけです」
少年がスマホを眺めて思案しているイラストに変わった。3箇所の店が思い浮んでいる。
「……SNSで見つけたカフェが気になったものの、そこから遠いのがネックです。どうしようかな?日曜日に友達を誘って行こうかな?でも、すぐに食べたいという希望があります」
落としたソフトクリームを見ながらガッカリしていると、男の人が声を掛けて来たイラストに変わった。
「そこへ、知らない人が声をかけて来ました。通っているレストランに、美味しいソフトクリームがあるよと教えました。少年にとっては新しい世界です」
少年が男性の車に乗って、レストランへ向かうイラストに変わった。到着したのは、黒崎製菓が経営している店だった。店内に入り、少年がモジモジしているイラストに変わった。
「……少年は大人の雰囲気に臆して、タジタジになりました。しかし、そこで好奇心が芽生えました」
少年が将来を思い描いているイラストに変わった後、いくつかの店と人物のイラストが表示された。
「……これもきっかけのひとつです。価格、場所、入りやすさ。高校生の彼にとっては選ばないお店です。しかし大人になればそうではありません。……このようにターゲット層が……、選ばれた店には……、商品の提案と企画があります。 企画をする側として……」
会場内は真面目な空気に包まれている。いくらイラストが可愛らしくてもだ。ペンを走らせる音が聞こえている。すると、黒崎が参加者へ質問を投げかけた。でも、しんと静かなままだ。
「……今までの話の中で、少年は大きな間違いをしています。それは何だと思いますか?……D列の中村さん」
当てられた生徒の前にマイクが向けられた。思案している声が聞こえた後、返事があった。
「最初に買った場所の近くにも、同じ価格帯の店があったということですか?」
「それもある。もっと根本的なことだよ」
「座って食べれば、落とさずに済んだということですか?」
「それは言えている。少年に会った時に伝えるよ」
会場内から小さな笑い声が出た後、社員さんにも質問をした。それでも、正解にたどり着かなかった。黒崎がステージ脇へ手を振ると、スクリーンのイラストが変わった。あの男性に乗って出かけけている場面だった。
「……正解はね。『知らない人の車に乗ったら駄目だ』。そういうことだよ。連れ込まれなかったが、実はそういう人かも知れない」
会場内から笑いが起きた。確かにその通りだと囁く声も聞こえてきた。俺としては乾いた笑いが漏れた。自分のことを言っているのかな?と。そして、黒崎が端の方の列へ視線を向けた。誰かをイジるのだろうか。微笑みかけていた。
午後の講義開始のアナウンスが流れた。この時間の講師が紹介された後、黒崎が壇上に上がった。最初と同じく中央のマイクの前に立った。
女の子達からため息が漏れた。珍しくないことだ。今回は男の声も聞こえてきたから驚いた。カッコいいと囁かれている。恋愛対象でないことを願っている。
「……この時間を担当いたします、黒崎です。午前中の『鬼』より予告がありましたとおり、リラックスした……。あの『鬼』は……。マーケティング推進室にて、室長をやっていた社員です。現場から離れてしまったのには、そういった社内事情によるものです……」
鬼とは早瀨さんのことだ。参加者だけでなく、壁の方で立っている社員さんも笑っていた。俺にとっては黒崎が『鬼』であり、早瀬さんの方が『優しくて面白い人』なのだと思っていたのに、実際は反対だった。
「……では始めます。この時間はマーケティングの仕組みをお話します。意味から説明をすると、売れる仕組みを考える仕事です。消費者の好みや傾向について情報を収集して分析します。開発部門との試作品のチェック、情報分析……」
簡潔に説明された後、黒崎がスクリーン脇へと移動した。ステージそばでは社員さんがパソコンを操作して、スライドを表示させた。それは、午前中の予告にもあった、ソフトクリームを持った男の子のイラストだった。これは黒崎が描いたものだ。つまりは俺のことがモデルになっていると察して、嫌な予感がした。
「今回は、絵本を開いているイメージで説明していきます。……まず、このイラストを見てください。ソフトクリームが大好きな少年がいます。普段買っているのは、駅の近くのテイクアウト専門の店や、近くにあるカフェです。他にもいろんな場所でソフトクリームを買うことができます。……どうして少年は、2箇所で買うのでしょう?それを選ぶ時には、何を大事にするでしょう?何度も食べるため、買いやすい価格の店を選んだわけです。もちろん味も大事です。いつも同じ店なので、少々飽きてきました。別の店はないのかな?そんなことを考えていると、アクシデントが起きました……」
スライドが変わり、ソフトクリームの上の部分を落として、ショックを受けているものが表示された。身に覚えがあるものだ。俺のことをモデルにしている。
「……少年がソフトクリームを落としてしまいました。もう一度買おうとしても、店が閉まっています。どうしても食べたい少年は、別のお店を探し始めます。それが新しいお店へ行く、きっかけです」
少年がスマホを眺めて思案しているイラストに変わった。3箇所の店が思い浮んでいる。
「……SNSで見つけたカフェが気になったものの、そこから遠いのがネックです。どうしようかな?日曜日に友達を誘って行こうかな?でも、すぐに食べたいという希望があります」
落としたソフトクリームを見ながらガッカリしていると、男の人が声を掛けて来たイラストに変わった。
「そこへ、知らない人が声をかけて来ました。通っているレストランに、美味しいソフトクリームがあるよと教えました。少年にとっては新しい世界です」
少年が男性の車に乗って、レストランへ向かうイラストに変わった。到着したのは、黒崎製菓が経営している店だった。店内に入り、少年がモジモジしているイラストに変わった。
「……少年は大人の雰囲気に臆して、タジタジになりました。しかし、そこで好奇心が芽生えました」
少年が将来を思い描いているイラストに変わった後、いくつかの店と人物のイラストが表示された。
「……これもきっかけのひとつです。価格、場所、入りやすさ。高校生の彼にとっては選ばないお店です。しかし大人になればそうではありません。……このようにターゲット層が……、選ばれた店には……、商品の提案と企画があります。 企画をする側として……」
会場内は真面目な空気に包まれている。いくらイラストが可愛らしくてもだ。ペンを走らせる音が聞こえている。すると、黒崎が参加者へ質問を投げかけた。でも、しんと静かなままだ。
「……今までの話の中で、少年は大きな間違いをしています。それは何だと思いますか?……D列の中村さん」
当てられた生徒の前にマイクが向けられた。思案している声が聞こえた後、返事があった。
「最初に買った場所の近くにも、同じ価格帯の店があったということですか?」
「それもある。もっと根本的なことだよ」
「座って食べれば、落とさずに済んだということですか?」
「それは言えている。少年に会った時に伝えるよ」
会場内から小さな笑い声が出た後、社員さんにも質問をした。それでも、正解にたどり着かなかった。黒崎がステージ脇へ手を振ると、スクリーンのイラストが変わった。あの男性に乗って出かけけている場面だった。
「……正解はね。『知らない人の車に乗ったら駄目だ』。そういうことだよ。連れ込まれなかったが、実はそういう人かも知れない」
会場内から笑いが起きた。確かにその通りだと囁く声も聞こえてきた。俺としては乾いた笑いが漏れた。自分のことを言っているのかな?と。そして、黒崎が端の方の列へ視線を向けた。誰かをイジるのだろうか。微笑みかけていた。
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