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今朝の朝ご飯は洋食にした。しらすと大葉のチーズトースト、ハムエッグ、サラダ、ミネストローネスープだ。黒崎製菓から発売しているドレッシングを使い、茹でたじゃがいもと和えた。我が家の大魔王が早食いしている。それを止めながら、2枚目のトーストにバターを塗った。
「早食いをやめろよ~」
「……空腹だ」
「まだ時間があるだろ?トーストは逃げないよ」
「美味いからだ」
「ウヘヘ……」
それを口にされると弱い。最近、どうも口が上手くなっている。ここで手綱を握るには自分だと主張しよう。
「そんなことを言っても無駄だよ。外食先だと、ゆっくり食べているんだよ?家でもそうしろよ。喉に詰まったらさ~」
「まだそんな年じゃない」
「あんたの大柄を抱えて、病院へ連れていけないよ。……あれ?電話が鳴っているよ」
「めずらしいな。親父からだ。……もしもし」
黒崎が眉をひそめて話している。この時間の電話は珍しくて、白澤さんの件かと思った。しかし、会話の端々で二葉の名前が出ているから、今日の食事の約束の件だと分かった。今日は俺と二人でランチに行く予定をしている。
「……やめておけ。こっちへ来たばかりだ。79歳になるのは知っている。仕事中とは大違いだな。よく考えてくれ」
電話を切った後、黒崎が呆れた顔をしていた。会話の端々から予想するに、お義父さんが二葉に会いたがっているようだ。トーストの皿をテーブルに置くと、さっそく食べ始めた。そして、一気に食べ終わり、やっとこっちを向いた。
「……二葉に会わせろと言っている。父親だとは名乗らない。『圭一お兄ちゃんのお父さん』だと名乗るそうだ。ビジネスコンテストを見て興味を持ち、勉強に来ないか?と誘ってきた社長だというスタンスだ。その建前で会うと約束すると言っていた。……当たり前だと言い返した」
「お義父さん、言い出したら聞かないよ?」
「だから困っている。勝手に会いに行きそうだ。プライベートでは強引すぎる。責任を取るから会わせろと……」
「どこかの息子と同じこと言っているね。怖いよ~」
「……親父が一緒に行くといっても断れ。俺から怒られると言え」
「うん。まだ早いよね。でもさ~、具合が悪いだろ?……11月に入院したし」
「……あれは念のためだった。検査の異常はない」
それでも不安があるだろう。早く会わせてあげたいと思う。しかし、二葉の気持ちを考えると、まだ会わないほうがいいと思った。昨日電話で話した時、黒崎製菓で勉強したいと言っていたけれど。しかし、そうはいかないと思った。
「黒崎製菓で頑張ることを選択する前に、お義父さんと会った方がいいよ。どんな人か分からないのに選べないよ。……今日は、お義父さんも連れて行こうか?勝手に俺について来たんだよっていう口実は?……ランチの後後で用事があるから、すぐに退散するけどって」
「そうか……」
黒崎が考え始めた。これも彼の変化のひとつだ。俺の意見など聞かない人だったのに、参考にしている。今年俺が20歳になるからだろうか。大きな差がある。縛られた立場や状況の中にいても、心としては自由になっている。
黒崎が腕を組んで目を閉じた。こういう時には向かい合って待つのではなく、適当に何かをして気にしていないふりをするのがいい。しーんと静まりかえった空間を、黒崎は苦手としているからだ。本人は否定しているけれど、そういうことだ。
「このリンゴ、美味しいなあ。アン、どう?」
「……」
「そうだよね。これはね、フジりんご。特売だったんだ」
「……」
「ええ?言わなくてもいい?高いやつが美味しいとは限らないんだよ?パパから教えてもらったんだ。テレビを見たいんだね。ウンウン、星占いだね……」
椅子から立ち上ってリビングの方へ向かうと、アンが黒崎の足元に座った。寄り添っている。りんごを用意したのは俺なのに。後片付けもしたのに。
「アン。おいで……」
黒崎が声をかけて抱き上げると、膝の上に座らせて、モフモフした背中を撫で始めた。また無言になった後、アンに話しかけた。こんなことも初めてのことだ。
「……パパは迷っている。……夏樹」
「うん?決まった?」
俺のことを見て、軽く頷いた。黒崎製菓へ寄って、お義父さんのことを迎えに行くように頼まれた。
「ママ達が滞在しているホテルのレストランで、ブュッフェをやっている。二葉が好きだそうだ。たまたま会って、強引についてきたと言え。二葉なら察するとは思うが、口実が出来る分だけ、気がまえしなくて済む。両方にとってだ」
「うん!まかせてよ」
「親父に電話をする」
すぐにお義父さんに電話をかけ始めた。その会話の中で注意事項を口にしていたのが面白かった。お義父さんも黒崎の意見を聞くようになったらしい。そして、朝ご飯を食べ終わった後は、普段通りに日課を始めた。
「早食いをやめろよ~」
「……空腹だ」
「まだ時間があるだろ?トーストは逃げないよ」
「美味いからだ」
「ウヘヘ……」
それを口にされると弱い。最近、どうも口が上手くなっている。ここで手綱を握るには自分だと主張しよう。
「そんなことを言っても無駄だよ。外食先だと、ゆっくり食べているんだよ?家でもそうしろよ。喉に詰まったらさ~」
「まだそんな年じゃない」
「あんたの大柄を抱えて、病院へ連れていけないよ。……あれ?電話が鳴っているよ」
「めずらしいな。親父からだ。……もしもし」
黒崎が眉をひそめて話している。この時間の電話は珍しくて、白澤さんの件かと思った。しかし、会話の端々で二葉の名前が出ているから、今日の食事の約束の件だと分かった。今日は俺と二人でランチに行く予定をしている。
「……やめておけ。こっちへ来たばかりだ。79歳になるのは知っている。仕事中とは大違いだな。よく考えてくれ」
電話を切った後、黒崎が呆れた顔をしていた。会話の端々から予想するに、お義父さんが二葉に会いたがっているようだ。トーストの皿をテーブルに置くと、さっそく食べ始めた。そして、一気に食べ終わり、やっとこっちを向いた。
「……二葉に会わせろと言っている。父親だとは名乗らない。『圭一お兄ちゃんのお父さん』だと名乗るそうだ。ビジネスコンテストを見て興味を持ち、勉強に来ないか?と誘ってきた社長だというスタンスだ。その建前で会うと約束すると言っていた。……当たり前だと言い返した」
「お義父さん、言い出したら聞かないよ?」
「だから困っている。勝手に会いに行きそうだ。プライベートでは強引すぎる。責任を取るから会わせろと……」
「どこかの息子と同じこと言っているね。怖いよ~」
「……親父が一緒に行くといっても断れ。俺から怒られると言え」
「うん。まだ早いよね。でもさ~、具合が悪いだろ?……11月に入院したし」
「……あれは念のためだった。検査の異常はない」
それでも不安があるだろう。早く会わせてあげたいと思う。しかし、二葉の気持ちを考えると、まだ会わないほうがいいと思った。昨日電話で話した時、黒崎製菓で勉強したいと言っていたけれど。しかし、そうはいかないと思った。
「黒崎製菓で頑張ることを選択する前に、お義父さんと会った方がいいよ。どんな人か分からないのに選べないよ。……今日は、お義父さんも連れて行こうか?勝手に俺について来たんだよっていう口実は?……ランチの後後で用事があるから、すぐに退散するけどって」
「そうか……」
黒崎が考え始めた。これも彼の変化のひとつだ。俺の意見など聞かない人だったのに、参考にしている。今年俺が20歳になるからだろうか。大きな差がある。縛られた立場や状況の中にいても、心としては自由になっている。
黒崎が腕を組んで目を閉じた。こういう時には向かい合って待つのではなく、適当に何かをして気にしていないふりをするのがいい。しーんと静まりかえった空間を、黒崎は苦手としているからだ。本人は否定しているけれど、そういうことだ。
「このリンゴ、美味しいなあ。アン、どう?」
「……」
「そうだよね。これはね、フジりんご。特売だったんだ」
「……」
「ええ?言わなくてもいい?高いやつが美味しいとは限らないんだよ?パパから教えてもらったんだ。テレビを見たいんだね。ウンウン、星占いだね……」
椅子から立ち上ってリビングの方へ向かうと、アンが黒崎の足元に座った。寄り添っている。りんごを用意したのは俺なのに。後片付けもしたのに。
「アン。おいで……」
黒崎が声をかけて抱き上げると、膝の上に座らせて、モフモフした背中を撫で始めた。また無言になった後、アンに話しかけた。こんなことも初めてのことだ。
「……パパは迷っている。……夏樹」
「うん?決まった?」
俺のことを見て、軽く頷いた。黒崎製菓へ寄って、お義父さんのことを迎えに行くように頼まれた。
「ママ達が滞在しているホテルのレストランで、ブュッフェをやっている。二葉が好きだそうだ。たまたま会って、強引についてきたと言え。二葉なら察するとは思うが、口実が出来る分だけ、気がまえしなくて済む。両方にとってだ」
「うん!まかせてよ」
「親父に電話をする」
すぐにお義父さんに電話をかけ始めた。その会話の中で注意事項を口にしていたのが面白かった。お義父さんも黒崎の意見を聞くようになったらしい。そして、朝ご飯を食べ終わった後は、普段通りに日課を始めた。
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