夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
149 / 348

13-2

しおりを挟む
 今朝の朝ご飯は洋食にした。しらすと大葉のチーズトースト、ハムエッグ、サラダ、ミネストローネスープだ。黒崎製菓から発売しているドレッシングを使い、茹でたじゃがいもと和えた。我が家の大魔王が早食いしている。それを止めながら、2枚目のトーストにバターを塗った。

「早食いをやめろよ~」
「……空腹だ」
「まだ時間があるだろ?トーストは逃げないよ」
「美味いからだ」
「ウヘヘ……」

 それを口にされると弱い。最近、どうも口が上手くなっている。ここで手綱を握るには自分だと主張しよう。

「そんなことを言っても無駄だよ。外食先だと、ゆっくり食べているんだよ?家でもそうしろよ。喉に詰まったらさ~」
「まだそんな年じゃない」
「あんたの大柄を抱えて、病院へ連れていけないよ。……あれ?電話が鳴っているよ」
「めずらしいな。親父からだ。……もしもし」

 黒崎が眉をひそめて話している。この時間の電話は珍しくて、白澤さんの件かと思った。しかし、会話の端々で二葉の名前が出ているから、今日の食事の約束の件だと分かった。今日は俺と二人でランチに行く予定をしている。

「……やめておけ。こっちへ来たばかりだ。79歳になるのは知っている。仕事中とは大違いだな。よく考えてくれ」
 
 電話を切った後、黒崎が呆れた顔をしていた。会話の端々から予想するに、お義父さんが二葉に会いたがっているようだ。トーストの皿をテーブルに置くと、さっそく食べ始めた。そして、一気に食べ終わり、やっとこっちを向いた。

「……二葉に会わせろと言っている。父親だとは名乗らない。『圭一お兄ちゃんのお父さん』だと名乗るそうだ。ビジネスコンテストを見て興味を持ち、勉強に来ないか?と誘ってきた社長だというスタンスだ。その建前で会うと約束すると言っていた。……当たり前だと言い返した」
「お義父さん、言い出したら聞かないよ?」
「だから困っている。勝手に会いに行きそうだ。プライベートでは強引すぎる。責任を取るから会わせろと……」
「どこかの息子と同じこと言っているね。怖いよ~」
「……親父が一緒に行くといっても断れ。俺から怒られると言え」
「うん。まだ早いよね。でもさ~、具合が悪いだろ?……11月に入院したし」
「……あれは念のためだった。検査の異常はない」

 それでも不安があるだろう。早く会わせてあげたいと思う。しかし、二葉の気持ちを考えると、まだ会わないほうがいいと思った。昨日電話で話した時、黒崎製菓で勉強したいと言っていたけれど。しかし、そうはいかないと思った。

「黒崎製菓で頑張ることを選択する前に、お義父さんと会った方がいいよ。どんな人か分からないのに選べないよ。……今日は、お義父さんも連れて行こうか?勝手に俺について来たんだよっていう口実は?……ランチの後後で用事があるから、すぐに退散するけどって」
「そうか……」

 黒崎が考え始めた。これも彼の変化のひとつだ。俺の意見など聞かない人だったのに、参考にしている。今年俺が20歳になるからだろうか。大きな差がある。縛られた立場や状況の中にいても、心としては自由になっている。

 黒崎が腕を組んで目を閉じた。こういう時には向かい合って待つのではなく、適当に何かをして気にしていないふりをするのがいい。しーんと静まりかえった空間を、黒崎は苦手としているからだ。本人は否定しているけれど、そういうことだ。

「このリンゴ、美味しいなあ。アン、どう?」
「……」
「そうだよね。これはね、フジりんご。特売だったんだ」
「……」
「ええ?言わなくてもいい?高いやつが美味しいとは限らないんだよ?パパから教えてもらったんだ。テレビを見たいんだね。ウンウン、星占いだね……」

 椅子から立ち上ってリビングの方へ向かうと、アンが黒崎の足元に座った。寄り添っている。りんごを用意したのは俺なのに。後片付けもしたのに。

「アン。おいで……」

 黒崎が声をかけて抱き上げると、膝の上に座らせて、モフモフした背中を撫で始めた。また無言になった後、アンに話しかけた。こんなことも初めてのことだ。

「……パパは迷っている。……夏樹」
「うん?決まった?」

 俺のことを見て、軽く頷いた。黒崎製菓へ寄って、お義父さんのことを迎えに行くように頼まれた。

「ママ達が滞在しているホテルのレストランで、ブュッフェをやっている。二葉が好きだそうだ。たまたま会って、強引についてきたと言え。二葉なら察するとは思うが、口実が出来る分だけ、気がまえしなくて済む。両方にとってだ」
「うん!まかせてよ」
「親父に電話をする」

 すぐにお義父さんに電話をかけ始めた。その会話の中で注意事項を口にしていたのが面白かった。お義父さんも黒崎の意見を聞くようになったらしい。そして、朝ご飯を食べ終わった後は、普段通りに日課を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け 完結しました。 たまに番外編更新予定です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...