153 / 348
13-6
しおりを挟む
カタカタ……。
トレーに乗せたお皿には、色とりどりの料理を乗せてある。朝ご飯が洋食だったから、和食系メインで選んできた。細かな仕切りのあるプレートを使ったから取りやすかった。二葉からは、幕の内弁当みたいねと言って、感心された。
テーブルに戻って来た。すでにお義父さんの前には料理が並んでいた。いつもと変わらない量だ。二葉は違う。少なすぎる量だ。
「二葉ちゃん、足りないだろ?おかわりするよね?」
「これでいいのよ」
「野菜しか取ってないね。ステーキがあったのに」
「私だって女の子よ。いくらおじいちゃんの前でも、見栄を張りたいの。……あ、失礼しました」
おじいちゃんと言ってしまったことで、二葉が慌てていた。頬が赤くなっているのを見て、お義父さんが笑った。軽く首を振っている。
「夏樹ちゃんがいけない。女性に失礼だ。もっと食べるといい」
「そうだよ~」
「たくさん食べると圭一から聞いている」
「二人とも。恥ずかしいから……」
「ごめんね……」
二葉から叱られたことで、空気が軽くなった。お義父さんから、大学のことや、ビジネスコンテストのこと、黒崎製菓のインターンシップに参加しないかという話題が出てきた。
「隆さん。今日はその話はしないんだろ?黒崎さんからも言われているよね?」
「注意事項だ。約束はしていないよ」
「隆さん……」
いつものお義父さんのはずなのに、急に違う姿を見せ始めた。今日は初めて会う席だ。普段の面白くて優しい人でいればいいのに。どうしてこんな時に、黒崎社長になるのか?すると、お義父さんと二葉が見つめ合った。
「二葉さん。察しがついているだろう?」
「はい……」
「黒崎家からのサポートの申し出を受けてほしい」
「単刀直入ですね」
「君はまわりくどいことを嫌うだろう」
二葉が眉を寄せた後、静かな表情で頷いた。お義父さんから見つめられても動揺しないし、さらに堂々とした雰囲気に変わった。
「この場でお返事をします。その前に、私の話を聞いていただけますか?聞き苦しいことですが……」
「もちろんだ。時間はたっぷりある」
「ありがとうございます。私の父が母に暴力を振るいました。それは以前からのことです。小さな頃から、父には可愛がられました。母は圭一お兄さんのことを可愛がらなかったと聞きました。それなのに、私たちのことを可愛がれたのは、心に余裕があったからだと思います。幸せだったからです」
「二葉ちゃん……」
「私には本当の父親がいると、昨日母から聞かされました。近いうちに会いたいと言われていることも。……私としては会う気はありません。父は一人しかいないからです。母がつらい思いをしているのに守れなかった人を、どうして父と呼べるでしょうか?……これが私の家庭環境と考えです」
「ああ……」
お義父さんが表情を変えずに頷いた。二葉の結論を待つしかない。自分が出来るのは、この話が終わった後だ。きっと傷ついている2人のことを、それぞれの帰る場所に送り届けることだ。
二葉が目を閉じて深呼吸をした後、もう一度、お義父さんのことを見つめた。まるでスローモーション映像を観ているかのようだ。
お義父さんがわずかに俯いた。この後に告げられる言葉を待ち、怖がっている気がした。こんなに弱い人だったろうか。俺が大けがをして入院した病室では泣いていた。今のお義父さんは、それすらも出来ないのだと思った。
「お返事を申しあげてよろしいですか?」
「ああ。聞かせてくれ」
「お世話になります」
「ああ……」
思わず声をあげたのは、お義父さんも同じだった。今までの話の流れからは、とても予想できないものだったからだ。
「……理由があります。黒崎製菓グループのことに興味があり、勉強をしたいからです。いずれは圭一お兄さんの力になりたいことと、朝陽のことがあります。弟は医学部志望です。合格すれば、たくさんの学費が必要です。しっかり勉強してもらいたい。……お世話になるなら、都内の大学へ入り直すことになりますよね?学費を出して頂けると聞きました。そうですか?」
「生活費もだ。それ以外に必要なものがあれば出させてもらう」
「それはお断りします。金銭的なサポートは、学費のみにしてください」
「いや、それは……」
「それなら、このお話をお断りします。私にもプライドがあります。小さなものでしょうけれど、自分にとっては大事にしているものです」
「分かった。ありがとう……」
最後はお義父さんの声が震えていた。膝の上で握りしめている手の甲には、涙が落ちている。その手に、自分の手を重ねた。
トレーに乗せたお皿には、色とりどりの料理を乗せてある。朝ご飯が洋食だったから、和食系メインで選んできた。細かな仕切りのあるプレートを使ったから取りやすかった。二葉からは、幕の内弁当みたいねと言って、感心された。
テーブルに戻って来た。すでにお義父さんの前には料理が並んでいた。いつもと変わらない量だ。二葉は違う。少なすぎる量だ。
「二葉ちゃん、足りないだろ?おかわりするよね?」
「これでいいのよ」
「野菜しか取ってないね。ステーキがあったのに」
「私だって女の子よ。いくらおじいちゃんの前でも、見栄を張りたいの。……あ、失礼しました」
おじいちゃんと言ってしまったことで、二葉が慌てていた。頬が赤くなっているのを見て、お義父さんが笑った。軽く首を振っている。
「夏樹ちゃんがいけない。女性に失礼だ。もっと食べるといい」
「そうだよ~」
「たくさん食べると圭一から聞いている」
「二人とも。恥ずかしいから……」
「ごめんね……」
二葉から叱られたことで、空気が軽くなった。お義父さんから、大学のことや、ビジネスコンテストのこと、黒崎製菓のインターンシップに参加しないかという話題が出てきた。
「隆さん。今日はその話はしないんだろ?黒崎さんからも言われているよね?」
「注意事項だ。約束はしていないよ」
「隆さん……」
いつものお義父さんのはずなのに、急に違う姿を見せ始めた。今日は初めて会う席だ。普段の面白くて優しい人でいればいいのに。どうしてこんな時に、黒崎社長になるのか?すると、お義父さんと二葉が見つめ合った。
「二葉さん。察しがついているだろう?」
「はい……」
「黒崎家からのサポートの申し出を受けてほしい」
「単刀直入ですね」
「君はまわりくどいことを嫌うだろう」
二葉が眉を寄せた後、静かな表情で頷いた。お義父さんから見つめられても動揺しないし、さらに堂々とした雰囲気に変わった。
「この場でお返事をします。その前に、私の話を聞いていただけますか?聞き苦しいことですが……」
「もちろんだ。時間はたっぷりある」
「ありがとうございます。私の父が母に暴力を振るいました。それは以前からのことです。小さな頃から、父には可愛がられました。母は圭一お兄さんのことを可愛がらなかったと聞きました。それなのに、私たちのことを可愛がれたのは、心に余裕があったからだと思います。幸せだったからです」
「二葉ちゃん……」
「私には本当の父親がいると、昨日母から聞かされました。近いうちに会いたいと言われていることも。……私としては会う気はありません。父は一人しかいないからです。母がつらい思いをしているのに守れなかった人を、どうして父と呼べるでしょうか?……これが私の家庭環境と考えです」
「ああ……」
お義父さんが表情を変えずに頷いた。二葉の結論を待つしかない。自分が出来るのは、この話が終わった後だ。きっと傷ついている2人のことを、それぞれの帰る場所に送り届けることだ。
二葉が目を閉じて深呼吸をした後、もう一度、お義父さんのことを見つめた。まるでスローモーション映像を観ているかのようだ。
お義父さんがわずかに俯いた。この後に告げられる言葉を待ち、怖がっている気がした。こんなに弱い人だったろうか。俺が大けがをして入院した病室では泣いていた。今のお義父さんは、それすらも出来ないのだと思った。
「お返事を申しあげてよろしいですか?」
「ああ。聞かせてくれ」
「お世話になります」
「ああ……」
思わず声をあげたのは、お義父さんも同じだった。今までの話の流れからは、とても予想できないものだったからだ。
「……理由があります。黒崎製菓グループのことに興味があり、勉強をしたいからです。いずれは圭一お兄さんの力になりたいことと、朝陽のことがあります。弟は医学部志望です。合格すれば、たくさんの学費が必要です。しっかり勉強してもらいたい。……お世話になるなら、都内の大学へ入り直すことになりますよね?学費を出して頂けると聞きました。そうですか?」
「生活費もだ。それ以外に必要なものがあれば出させてもらう」
「それはお断りします。金銭的なサポートは、学費のみにしてください」
「いや、それは……」
「それなら、このお話をお断りします。私にもプライドがあります。小さなものでしょうけれど、自分にとっては大事にしているものです」
「分かった。ありがとう……」
最後はお義父さんの声が震えていた。膝の上で握りしめている手の甲には、涙が落ちている。その手に、自分の手を重ねた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?
甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。
だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。
魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。
みたいな話し。
孤独な魔王×孤独な人間
サブCPに人間の王×吸血鬼の従者
11/18.完結しました。
今後、番外編等考えてみようと思います。
こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない
二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者
12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。
「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。
だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。
好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。
しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく――
大事だから傷つけたくない。
けれど、好きだから選べない。
「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。
「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、
一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる