273 / 348
24-2
しおりを挟む
午前9時半。
通学の途中だ。今朝、黒崎が出張に出た。今夜はお義父さんの家で泊まることと、ラインを忘れずに入れると約束した。電車が大学の最寄り駅に到着した。ここで降りるのは学生ばかりだ。顔なじみの子と挨拶を交わし合って、ゆっくりと階段を降りていった。
2時限目の授業にはまだ時間がある。悠人が来ていれば楽曲の歌詞を見てもらおう。そう思っていると、後ろの方から、バタバタと足音が聞こえてきた。
「黒崎くーーん!」
「んん?」
「まってーー」
ホームから走ってくる足音が聞こえてきた。振り返ると山下が立っていた。入学当初に喧嘩を吹っかけてきた相手だ。授業がかぶっていないから、ほとんど話したことがない。ああやって駆け寄って来るなら、よっぽどのことがあるのだろう。山下が頬を紅潮させている
「おはよう~。どうしたんだよ?」
「IKUエンタテイメントから出てきただろ?デビューするの!?」
「バンドコンテストの手伝いがあるんだよ。ステージスタッフのバイトだよ」
「なんだー。噂になってるからさー」
「どんな噂だよ?」
「昨夜、回ってきたんだよ。経済学部の奥村さんが発信元らしい。黒崎君と久田が、IKUから出てきたって。久田もバイト?」
「そうだよ。IKU主催のコンテストに2回も出たから、段取りが分かっているし、俺の家から近いしさ……」
「そうだったのかー」
山下が残念そうに笑った。IKUとの契約事項があり、デビューのことをオープンにできない。デビューの1か月前から送迎が始まり、メディアで告知する。仕事を受けた以上はルールを守る。その時、山下には、そういう理由で言えなかったのだと説明するしかないだろう。この流れで一緒に駅から出て行き、大学の門をくぐった。
SNSでも話題が出ているそうだ。その画面を見せてもらうと、食事をしている佐久弥の写真が出てきた。シャルロットキッチンだ。テーブルに置いてある料理に覚えがある。チキンサンドとリンゴのタルトだ。理久と一緒に会った時だと思った。
(5月の分だ。佐久弥が、俺と理久を写さないでくれって頼んでいたなあ……)
「これに黒崎君が写っているって話でさー」
「ええー?」
「佐久弥の向かいに座っている人のことだよ。黒崎君じゃない?パーカーの柄が変わってるし」
「んん?」
「この牛柄のパーカーだよ。白黒の。黒崎君しか着ないだろ?」
「うん……」
佐久弥の向かいに座り、白黒模様の服を着た人がポテトに手を伸ばしている。手の甲にうっすらと傷跡があり、薬指には指輪もある。誤魔化しようがない。
佐久弥とのプライベートでの付き合いのことは、隠さなくてもOKだと言われている。伏せておくのは、バンド参加のことに限っている。
「……思いだしたよ。それは俺だよ。佐久弥の弟も一緒にいたんだ~」
「マジで佐久弥と知り合いなんだ!?」
「コンテストの審査員だったから、感想を聞かせてもらったんだ。弟とはインターンシップで一緒になって、友達になったよ」
「そうだったのかー。だから噂が大きくなっているのか」
「人気ミュージシャンだもんね。ファンが書いているの?」
「うちの大学の子だよ。教えてよ。どんな人?寝起きみたいなんだけど……」
「うん。この時は徹夜明けだったと思う。忙しかったみたい。気さくな人だよ」
「へえ、いいなあ。今回は奥村さんが出どころだったんだ。まだ久田のことを追いかけてるのかって、呆れている子が多くてさー」
「なにそれ……」
それは去年の6月頃の出来事だ。奥村が”久田君のことが好きだ”と、自分から噂を広めていた。おかげで悠人が肩身の狭い思いをしていた。寮から大学までの道のりや、大学内でのつきまといが繰り返されて、俺と森本とでガードをしていた。
通学の途中だ。今朝、黒崎が出張に出た。今夜はお義父さんの家で泊まることと、ラインを忘れずに入れると約束した。電車が大学の最寄り駅に到着した。ここで降りるのは学生ばかりだ。顔なじみの子と挨拶を交わし合って、ゆっくりと階段を降りていった。
2時限目の授業にはまだ時間がある。悠人が来ていれば楽曲の歌詞を見てもらおう。そう思っていると、後ろの方から、バタバタと足音が聞こえてきた。
「黒崎くーーん!」
「んん?」
「まってーー」
ホームから走ってくる足音が聞こえてきた。振り返ると山下が立っていた。入学当初に喧嘩を吹っかけてきた相手だ。授業がかぶっていないから、ほとんど話したことがない。ああやって駆け寄って来るなら、よっぽどのことがあるのだろう。山下が頬を紅潮させている
「おはよう~。どうしたんだよ?」
「IKUエンタテイメントから出てきただろ?デビューするの!?」
「バンドコンテストの手伝いがあるんだよ。ステージスタッフのバイトだよ」
「なんだー。噂になってるからさー」
「どんな噂だよ?」
「昨夜、回ってきたんだよ。経済学部の奥村さんが発信元らしい。黒崎君と久田が、IKUから出てきたって。久田もバイト?」
「そうだよ。IKU主催のコンテストに2回も出たから、段取りが分かっているし、俺の家から近いしさ……」
「そうだったのかー」
山下が残念そうに笑った。IKUとの契約事項があり、デビューのことをオープンにできない。デビューの1か月前から送迎が始まり、メディアで告知する。仕事を受けた以上はルールを守る。その時、山下には、そういう理由で言えなかったのだと説明するしかないだろう。この流れで一緒に駅から出て行き、大学の門をくぐった。
SNSでも話題が出ているそうだ。その画面を見せてもらうと、食事をしている佐久弥の写真が出てきた。シャルロットキッチンだ。テーブルに置いてある料理に覚えがある。チキンサンドとリンゴのタルトだ。理久と一緒に会った時だと思った。
(5月の分だ。佐久弥が、俺と理久を写さないでくれって頼んでいたなあ……)
「これに黒崎君が写っているって話でさー」
「ええー?」
「佐久弥の向かいに座っている人のことだよ。黒崎君じゃない?パーカーの柄が変わってるし」
「んん?」
「この牛柄のパーカーだよ。白黒の。黒崎君しか着ないだろ?」
「うん……」
佐久弥の向かいに座り、白黒模様の服を着た人がポテトに手を伸ばしている。手の甲にうっすらと傷跡があり、薬指には指輪もある。誤魔化しようがない。
佐久弥とのプライベートでの付き合いのことは、隠さなくてもOKだと言われている。伏せておくのは、バンド参加のことに限っている。
「……思いだしたよ。それは俺だよ。佐久弥の弟も一緒にいたんだ~」
「マジで佐久弥と知り合いなんだ!?」
「コンテストの審査員だったから、感想を聞かせてもらったんだ。弟とはインターンシップで一緒になって、友達になったよ」
「そうだったのかー。だから噂が大きくなっているのか」
「人気ミュージシャンだもんね。ファンが書いているの?」
「うちの大学の子だよ。教えてよ。どんな人?寝起きみたいなんだけど……」
「うん。この時は徹夜明けだったと思う。忙しかったみたい。気さくな人だよ」
「へえ、いいなあ。今回は奥村さんが出どころだったんだ。まだ久田のことを追いかけてるのかって、呆れている子が多くてさー」
「なにそれ……」
それは去年の6月頃の出来事だ。奥村が”久田君のことが好きだ”と、自分から噂を広めていた。おかげで悠人が肩身の狭い思いをしていた。寮から大学までの道のりや、大学内でのつきまといが繰り返されて、俺と森本とでガードをしていた。
0
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
完結しました。
たまに番外編更新予定です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる