27 / 164
4-11
しおりを挟む
黒崎と優衣さんの電話が終わった。夢の中の出来事だったら良いのにと思っていた俺に、現実が扉をノックして開かれた。黙ったままでいると、聞こえていたのか?と、問いかけられた。その声は落ち着きを取り戻していた。下を向いて黙って頷いたのは、泣きそうな顔を見せたくないからだ。
「もう俺のことを見ないでほしい」
「夏樹……」
優しく名前を呼んでほしくない。俺の前に膝をついて、黒崎が俺の顔を覗き込んできた。嫌な会話を聞かせておいて、今更機嫌を取っているのだろうか。さっきの会話はその程度のことなのだろうか。ますます距離が遠のくばかりだ。肩に置かれた手を乱暴に払いのけた。
「守ってくれる手は……、必要ないから」
「待て、誤解したのか?」
「聞こえていたよ。聞くつもりはなかったけど。静かだから仕方がなかった。別れた彼女からの電話だったよね?やり直したいって泣いている人の家へ、何かを取りに行くんだよね?その日は映画を観に行くはずだよね?用事が出来たなら、仕方がないね」
「受け取った後、映画を観に行く。予定通りだ。聞き分けのいいふりをするな」
「……」
すぐに見抜くのか。この偽物の笑顔を。どういう力が働いているのだろう?その力はもう不要だ。優等生の笑顔を消して、真っ直ぐに黒崎の目を見つめた。
「大人の女性には負けるよ。あんたには出会いがある。もう疲れたんだ」
「勘違いをするな」
「嫌いになるなら、勝手に嫌えばいい。俺のことをどう思おうと、相手の勝手だよ。他人の心は見えないから信じられないんだ。……俺は自分の力しか信じない。信じられるのは自分だけだよ。人の力なんか借りたくもないし、必要ない。俺の考え方だから。……タイムマシーンで、あの夜、トイレに行くタイミングを、遅らせたことにした。だから、俺達は出会っていない。あの日に出会った”夏樹”は、存在しない。あんたに出会ってから弱くなった。こんな俺は要らない!」
「何を言ったのか、自覚しているのか?目を逸らすな。俺の目を見てから言え」
まるで撃ち殺されそうな視線を向けられた。これほど怒らせる事を口にしたのか。もう取り返しのつかない話だ。もう一度、拒絶しよう。どうしてだろう?身体中が痛んで、息がしづらい。
「あんたのことは知らない人だと思うことにするよ。今からね。知らないお兄さん……、そんなに怖い顔をしないでよ。知らない高校生と観覧車に乗っているから、びっくりしているんだね?俺も同じだよ。降りるまで、我慢をしてくれないかな?……せっかくだから、何か話しませんか?お兄さんの名前は?どこから来たの?」
「説明しなかった俺が悪かった。去年の秋頃まで付き合っていた女性だ。……正直に話す。観覧車に乗る前の、電話の相手だ。……パンフレットを取りに来いという話だ。ゴミで捨てろと言ったが、面倒くさいそうだ。来週の水曜日に映画を観に行く前に、受け取りに行く前提で話していた」
「どうして電話を取ったの?」
「かけて来たからだ」
「付き合っていた人の連絡先を消したんだよね?知らない番号からの電話を取るの?」
「仕事関係の可能性があるからだ」
「それはありそうだね。でもさ、あんたは記憶力がいいから、番号を覚えているだろ?その人だって分かるはずだよ。その度に番号を変えていたの?」
現実を知りたくないのに、勝手に質問が出て来た。黒崎が溜息をついた後、やれやれと笑いながら隣に座った。何もかも黒崎のせいだ。誰かの肩にもたれ掛かることを覚えてしまった。
強引に抱き寄せられた後、身じろぐようにして、向かい側へ逃げた。狭い場所だから意味がないのに。すぐに追いつかれて、腕の中に閉じ込められた。恋しかった温もりから、離れる気になれなくなり、大人しく胸の鼓動を聴いた。
「俺も同じことする。あの日、席を立つタイミングを変えた。……天使がトイレを探していた。案内した後、新作デザートを食べて欲しいと頼んだ。天使は性別がないが、人間の男の子に化けたということにする。それが、夏樹だ」
「優しくしないでいいから……」
「そういうわけにはいかない。放っておけない」
この落差が厄介だ。黒崎のことが好きだということを思い知ったのに、素直になれない。優しくされて気持ちがほぐれても、黒崎が黙っていたのが許せない。俺には隠させないようにしたのにだ。
「もう俺のことを見ないでほしい」
「夏樹……」
優しく名前を呼んでほしくない。俺の前に膝をついて、黒崎が俺の顔を覗き込んできた。嫌な会話を聞かせておいて、今更機嫌を取っているのだろうか。さっきの会話はその程度のことなのだろうか。ますます距離が遠のくばかりだ。肩に置かれた手を乱暴に払いのけた。
「守ってくれる手は……、必要ないから」
「待て、誤解したのか?」
「聞こえていたよ。聞くつもりはなかったけど。静かだから仕方がなかった。別れた彼女からの電話だったよね?やり直したいって泣いている人の家へ、何かを取りに行くんだよね?その日は映画を観に行くはずだよね?用事が出来たなら、仕方がないね」
「受け取った後、映画を観に行く。予定通りだ。聞き分けのいいふりをするな」
「……」
すぐに見抜くのか。この偽物の笑顔を。どういう力が働いているのだろう?その力はもう不要だ。優等生の笑顔を消して、真っ直ぐに黒崎の目を見つめた。
「大人の女性には負けるよ。あんたには出会いがある。もう疲れたんだ」
「勘違いをするな」
「嫌いになるなら、勝手に嫌えばいい。俺のことをどう思おうと、相手の勝手だよ。他人の心は見えないから信じられないんだ。……俺は自分の力しか信じない。信じられるのは自分だけだよ。人の力なんか借りたくもないし、必要ない。俺の考え方だから。……タイムマシーンで、あの夜、トイレに行くタイミングを、遅らせたことにした。だから、俺達は出会っていない。あの日に出会った”夏樹”は、存在しない。あんたに出会ってから弱くなった。こんな俺は要らない!」
「何を言ったのか、自覚しているのか?目を逸らすな。俺の目を見てから言え」
まるで撃ち殺されそうな視線を向けられた。これほど怒らせる事を口にしたのか。もう取り返しのつかない話だ。もう一度、拒絶しよう。どうしてだろう?身体中が痛んで、息がしづらい。
「あんたのことは知らない人だと思うことにするよ。今からね。知らないお兄さん……、そんなに怖い顔をしないでよ。知らない高校生と観覧車に乗っているから、びっくりしているんだね?俺も同じだよ。降りるまで、我慢をしてくれないかな?……せっかくだから、何か話しませんか?お兄さんの名前は?どこから来たの?」
「説明しなかった俺が悪かった。去年の秋頃まで付き合っていた女性だ。……正直に話す。観覧車に乗る前の、電話の相手だ。……パンフレットを取りに来いという話だ。ゴミで捨てろと言ったが、面倒くさいそうだ。来週の水曜日に映画を観に行く前に、受け取りに行く前提で話していた」
「どうして電話を取ったの?」
「かけて来たからだ」
「付き合っていた人の連絡先を消したんだよね?知らない番号からの電話を取るの?」
「仕事関係の可能性があるからだ」
「それはありそうだね。でもさ、あんたは記憶力がいいから、番号を覚えているだろ?その人だって分かるはずだよ。その度に番号を変えていたの?」
現実を知りたくないのに、勝手に質問が出て来た。黒崎が溜息をついた後、やれやれと笑いながら隣に座った。何もかも黒崎のせいだ。誰かの肩にもたれ掛かることを覚えてしまった。
強引に抱き寄せられた後、身じろぐようにして、向かい側へ逃げた。狭い場所だから意味がないのに。すぐに追いつかれて、腕の中に閉じ込められた。恋しかった温もりから、離れる気になれなくなり、大人しく胸の鼓動を聴いた。
「俺も同じことする。あの日、席を立つタイミングを変えた。……天使がトイレを探していた。案内した後、新作デザートを食べて欲しいと頼んだ。天使は性別がないが、人間の男の子に化けたということにする。それが、夏樹だ」
「優しくしないでいいから……」
「そういうわけにはいかない。放っておけない」
この落差が厄介だ。黒崎のことが好きだということを思い知ったのに、素直になれない。優しくされて気持ちがほぐれても、黒崎が黙っていたのが許せない。俺には隠させないようにしたのにだ。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる