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15時30分。
病院のロビーにいる。母とマデリン、教頭先生達がこれからのことを話している。男達が他の生徒を脅したことが分かり、警察が呼ばれた。沙耶さんと黒崎が俺の隣に座っている。黒崎から抱き寄せられて、沙耶さんから手を握られた。ずっと前は誰の手も怖かったのに、ちゃんと握り返せた。温かくて気持ちがいい。黒崎の身体も安らげる場所だと思った。
万理は男から掴まれた腕が痛くて、医者に診てもらっている。森本は男達の一人に殴られた時に避けきれなくて、頬を切ってしまった。
手当を受けた後、警察から話を聞かれた。校長先生からの指示で、被害届を出すためだ。 藤沢は斎藤に付き添っている。俺達を殴ってきた男達を殴りたいという衝動を抑えているからだ。田中先生が様子を見に行き、心を落ち着かせるように励ましている。俺もさっきそばにいた。一緒に深呼吸しているうちになんとか気持ちが落ち着いたところだ。
警察官が到着した時、何台ものパトカーからサイレンを鳴ったしたことで、会場内が大きく騒ぎ出した。しかし、開明の生徒が騒ぎを起こした思った人はいないそうだ。毎年のように因縁をつけくる存在の方が有名だからだ。
保護者以外はシャットアウトすればいい。そういう意見も出ているが、校長先生や学校の経営陣の人たちがNOだと言った。俺達生徒が孤立する体験をさせないためだ。
「夏樹。こっちを向いてくれ」
「うん……。いたたた!」
黒崎から頬をつねられて、沙耶さんが庇って引き離そうとしたが、かえって悪い結果になった。なかなか手を離してくれないから、余計に痛かった。
「やめろって……。泣いていないよ」
「痛いだろう?大泣きしろ」
「平気だよ。あれぐらい」
「……それは違う。俺が頬をつねって痛いからだ。だから泣け」
黒崎に心の中を見破られてしまった。まるで心の中を覗き込まれているからのようだ。バリアを取り去って、思い切り感情を吐き出せと言われた。俺達の前でなら泣けるだろうと。
躊躇っていると、沙耶さんから黒崎君の前で泣いてあげてと声を掛けられた。でも、みんなが心配するから泣けないと思った。沙耶さんこそ驚いて怖っただろう。彼女の手を握り返すと、軽く首を振られた。
「私は大丈夫よ。黒崎君ね……。お母さんに会いに行く決心が着いたの」
「よかった……。ここから遠いのかな?一緒に行きたい。どこに住んでいるの?」
黒崎の方を向こうとすると、そのまま腕の中に閉じ込められた。顔を見ないでくれという意味なのか?大人しくしていると、黒崎の低い声が聞こえて来た。何度も後ろから頬ずりをしては、抱き直された。落ち着くまで待っていると言われた。
「黒崎君。早く話してあげて」
「黒崎さん。教えてよ」
「マンションの窓から観える場所だ。対岸にある街で、車で20分もあれば着く」
「そんなに近くにいたの?早く言えよ……っ。寂しかったよね?眺めているだけでも寂しいだろ?話してくれたら、一緒に眺めたのに。どうして黙っているんだよ?そっか……、あんたも引っ込み思案だったのか……」
そういう事にしてよと頼むと、笑い声を立てられた。すっきりした感じなのは、気のせいではない。黒崎の心のドアが全開になる、また一歩が踏み出せたからだ。
足元へ視線を落とすと、スニーカーの靴紐が視界に入った。黒崎が結んでくれたものだ。あれだけ動き回ったのに、ビクともしていない。黒崎と俺の繋がりも同じだろうか?
この靴紐がギチギチに絡み合い、結び目まで出来た後、時間をかけて解いていったことがある。黒崎がしてくれた。その靴ひもをハサミで切る発想なんて浮かばなかった。
お母さんのことも、同じだと思う。記憶から断ち切らずに、絡まったものを解いていたのだろう。時間がかかって疲れても、途中で休憩しながら続けた。その手伝いをすると決めた。
「離れた場所で母のことを見る。姿が見られたら構わない」
「会ってくれないのかな?」
「……さようならだけを伝える。遠くから。聞こえなくても構わない」
「一緒に行くよ……っ。お手伝いさせてよ……」
「だったら泣け。泣き止む手伝いをする」
「うん……っ」
黒崎の胸にすがって泣いた。一緒に頑張ろうね。今日のこともありがとう。心の中で、そう呟いた。
病院のロビーにいる。母とマデリン、教頭先生達がこれからのことを話している。男達が他の生徒を脅したことが分かり、警察が呼ばれた。沙耶さんと黒崎が俺の隣に座っている。黒崎から抱き寄せられて、沙耶さんから手を握られた。ずっと前は誰の手も怖かったのに、ちゃんと握り返せた。温かくて気持ちがいい。黒崎の身体も安らげる場所だと思った。
万理は男から掴まれた腕が痛くて、医者に診てもらっている。森本は男達の一人に殴られた時に避けきれなくて、頬を切ってしまった。
手当を受けた後、警察から話を聞かれた。校長先生からの指示で、被害届を出すためだ。 藤沢は斎藤に付き添っている。俺達を殴ってきた男達を殴りたいという衝動を抑えているからだ。田中先生が様子を見に行き、心を落ち着かせるように励ましている。俺もさっきそばにいた。一緒に深呼吸しているうちになんとか気持ちが落ち着いたところだ。
警察官が到着した時、何台ものパトカーからサイレンを鳴ったしたことで、会場内が大きく騒ぎ出した。しかし、開明の生徒が騒ぎを起こした思った人はいないそうだ。毎年のように因縁をつけくる存在の方が有名だからだ。
保護者以外はシャットアウトすればいい。そういう意見も出ているが、校長先生や学校の経営陣の人たちがNOだと言った。俺達生徒が孤立する体験をさせないためだ。
「夏樹。こっちを向いてくれ」
「うん……。いたたた!」
黒崎から頬をつねられて、沙耶さんが庇って引き離そうとしたが、かえって悪い結果になった。なかなか手を離してくれないから、余計に痛かった。
「やめろって……。泣いていないよ」
「痛いだろう?大泣きしろ」
「平気だよ。あれぐらい」
「……それは違う。俺が頬をつねって痛いからだ。だから泣け」
黒崎に心の中を見破られてしまった。まるで心の中を覗き込まれているからのようだ。バリアを取り去って、思い切り感情を吐き出せと言われた。俺達の前でなら泣けるだろうと。
躊躇っていると、沙耶さんから黒崎君の前で泣いてあげてと声を掛けられた。でも、みんなが心配するから泣けないと思った。沙耶さんこそ驚いて怖っただろう。彼女の手を握り返すと、軽く首を振られた。
「私は大丈夫よ。黒崎君ね……。お母さんに会いに行く決心が着いたの」
「よかった……。ここから遠いのかな?一緒に行きたい。どこに住んでいるの?」
黒崎の方を向こうとすると、そのまま腕の中に閉じ込められた。顔を見ないでくれという意味なのか?大人しくしていると、黒崎の低い声が聞こえて来た。何度も後ろから頬ずりをしては、抱き直された。落ち着くまで待っていると言われた。
「黒崎君。早く話してあげて」
「黒崎さん。教えてよ」
「マンションの窓から観える場所だ。対岸にある街で、車で20分もあれば着く」
「そんなに近くにいたの?早く言えよ……っ。寂しかったよね?眺めているだけでも寂しいだろ?話してくれたら、一緒に眺めたのに。どうして黙っているんだよ?そっか……、あんたも引っ込み思案だったのか……」
そういう事にしてよと頼むと、笑い声を立てられた。すっきりした感じなのは、気のせいではない。黒崎の心のドアが全開になる、また一歩が踏み出せたからだ。
足元へ視線を落とすと、スニーカーの靴紐が視界に入った。黒崎が結んでくれたものだ。あれだけ動き回ったのに、ビクともしていない。黒崎と俺の繋がりも同じだろうか?
この靴紐がギチギチに絡み合い、結び目まで出来た後、時間をかけて解いていったことがある。黒崎がしてくれた。その靴ひもをハサミで切る発想なんて浮かばなかった。
お母さんのことも、同じだと思う。記憶から断ち切らずに、絡まったものを解いていたのだろう。時間がかかって疲れても、途中で休憩しながら続けた。その手伝いをすると決めた。
「離れた場所で母のことを見る。姿が見られたら構わない」
「会ってくれないのかな?」
「……さようならだけを伝える。遠くから。聞こえなくても構わない」
「一緒に行くよ……っ。お手伝いさせてよ……」
「だったら泣け。泣き止む手伝いをする」
「うん……っ」
黒崎の胸にすがって泣いた。一緒に頑張ろうね。今日のこともありがとう。心の中で、そう呟いた。
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