海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 18時30分。

 ジュエリーショップへの道のりでは、他愛のない会話をしている。昨日からのすれ違いのことには触れずに、大喧嘩をしたねとだけ笑い合った。

 12月に入るこの時期に地面に転がって笑っていたから、すっかり身体が冷たくなった。繋いだ手の温かさが分かるからいいと思えた。

 外灯から光が俺たちの進む先に影をつけている。2人分になったり、1人分になったりしている。それが嬉しくて、胸がキュンと痛くなった。

「もうすぐ到着だ」
「どんなの?イニシャル付き?」
「英文を掘ってもらう。候補があるから選んでもらう」
「え?英文って……。書斎のメモに書いてあったやつ?」
「ああ、見たのか。そうだよ。候補は3つ……」
「やだよ!お別れの言葉だって勘違いしたんだよ!」
「んんー?どうして?」
「だってさ……」

 あの日に目撃したメッセージを口にした。書斎でのことを思い出しながら、どんな風に感じたかも詳しく。俺の方も口数が多くて、肝心な言葉が足りない奴だからだ。

(……I wish you happiness.……I'm really glad I met you.……あなたの幸せを祈る。……あなたに出会えて本当に良かった。……I don't want to lose you.……あなたを失いたくない。ええー?ディアドロップの曲のタイトルだ。裕理さん、佐久弥のことが忘れられないのかも……)

 こういう解釈をしたのだと話し終える前から、早瀬が吹き出して笑った。こっちとしては真剣なんだと、叱りつけてやった。早瀬の方からは、別れの言葉として選んでいないことと、楽曲タイトルなのは偶然だと言い切られた。気になるのなら、別の刻印を考えようとまで言われた。

「店に英文のサンプルがある。その中で連想してみようか?」
「あ……、絵本のタイトルがいいな。夏樹から教えてもらった絵本だよ。……Will not you like it?…You met on that day……あの日に出会ったキミ、僕のことを好きになってくれないかな?likeをloveに変えてさ……」
「僕のことを愛してくれないかな?……それにしようか」
「あっさり決まったね!」

 どうしよう?歩幅が合っている気がする。一緒に歩き始めた実感をした。早く店に入りたいのに、まだ到着しないようだ。

「裕理さーん。店はどこ?近くだよねー?」
「あああ……行き過ぎた」
「へへへ……、方向音痴まで似てきたんだね?」
「うるさい。引き返せばすぐだ。ほら、ここから見える」
「どこー?」
「……行けば早い」

 強引に手を引かれて歩いて行くと、ジュエリーショップの前に到着した。ショーウィンドウにはモデルの写真が展示されており、出入口にはシャッターが下りている。
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