29 / 259
3-6
しおりを挟む
俺は頑張ると決めている。早瀬の笑顔が見たい。そう思っている。すると、早瀬が言った。
「俺も負けずに頑張るよ。悠人君に追い越されないように」
「裕理さんは頑張ってるじゃん?」
「これから頑張るよ」
「ふうん?」
彼は真面目な人だと思う。桜木さんから聞いた話では、社内では、早瀬のことは『腹黒なのに憎めない人』だと見られていると教えてくれた。常務であり部長である黒崎さんの怖さを和らげている分だけ、尊敬の目も向けられているとも言っていた。
「桜木さんは裕理さんのこと、すごい人だって言っていたよ」
「へえ、そうなのか。散々、イジメたのに」
「何かしたわけ?変質者!」
「前から不思議だったよ。桜木君にはヤキモチを焼かない」
「憧れの人だから別格!ギターだって上手いし」
「俺の方が焼いた。悠人君の視線を独り占めしているからだよ。週明けが楽しみだ」
「裕理さん、やめてよ!」
桜木さんは落ち着いていて、優しくてカッコいい人だ。変なことをされたくない。しかし、俺がどれだけ睨みつけようとも、早瀬は平然としてピザを食べている。喧嘩はしたくない。彼との口合戦で勝った試しがないし、美味しい料理に集中しておきたい。
「ん?」
「どうした?」
「こっちを見ている人がいるよ」
大人しく食べていると、少し離れたテーブルからの視線を感じた。早瀬のことを見て、女性客2人が囁き合っている。
(裕理さんがイケメンだからだろうなあ……)
そう思いながら、ロースト肉を口に運んだ。もう一口運ぼうとすると、女性客の一人が俺達の方へ歩いて来た。早瀬の反応からすると、職場の人だと分かった。しかし、俺に対して、とげとげしい視線を向けてきた気がする。『この子は誰なの?』という種類のものだ。女子大学生に見間違われた可能性がある。よくあることだから気にしない。
こういうぶしつけな人は相手にしない事だと、父からの言い付けが染みついている。知り合いに会った時に恥ずかしくないようにだ。そう躾けられては、息苦しい思いをして来た。しかし、こうして実際に役立ち、落ち着いていられる。
「こんにちは」
「偶然だね」
「早瀬室長も……」
「この店、枝川君から聞いたんだよ」
「お店のピザ職人は、イタリアのコンテストで入賞しているんです」
「2年連続だと聞いたよ。このソースが……」
軽快に会話が進む中、彼女が俺の方を向いた。早瀬から微笑み掛けられた後、控えめな笑顔を浮かべた。そして、両手を膝の上に置き、軽く背筋を伸ばした。『久田先生の息子』の出来上がりだ。
「黒崎製菓グループの顧問弁護士の久田さんの息子さんだ」
「こんにちは。久田です」
「そうだったんですねー。お友達でしたか……」
「この子はパートナーだよ」
「あら……。ふふふ」
正直に紹介されてしまった。しかし、彼女は驚くどころか笑っている。きっと冗談だと受け取ったのだろう。こんな年下の男の子が相手だから、信じなくてもおかしくない。早瀬の方は、余計な言葉を入れずに話している。彼女の方は、もっと知りたそうだ。
(そっか。仕事とプライベートを分けているのか。隙のない感じがするなー)
そう思っていると会話が終わり、彼女が席へ戻って行った。この店の雰囲気は、気軽に席を立てるような感じではない。よっぽど、同席している相手を知りたかったのだろう。連れの女性の反応は見なくてもいい。さっき、とげとげしい視線を感じていた。
(あーあ……。お父さんの考え方だ。微笑んだままで相手を観察しているからさ。嫌なのにやっている……)
父はいつも冷静だった。相手の反応を笑顔で受け止めて観察していた。それが俺にも移っていると思った。すると、早瀬が言った。
「悠人君。おまたせ」
「ううん。いいよー」
「メインのローストが気に入ったのか。あっという間に食べたね。ボリュームがあるのに」
「すごく美味しいよ。特にこのソースだよ。ビーフシチューみたいだよ」
「赤ワインを使ったソースが好きだからな。濃厚でも、スッキリしたものが気に入るね」
「へえ、意識していなかった。ビーフシチューが食べたくなったよ」
「期末試験期間中に作ってあげるよ。休みの日でもいいか?」
他愛のない会話が始まると、さっきの彼女と話している姿との違いを感じた。優しい雰囲気は同じでも、さっきの早瀬は隙のない様子だった。こうして話している間も、彼女からの視線を感じている。早瀬も視界に入っているはずなのに、特に気にする風はない。そして、料理を食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
「次はどこに行きたい?何でも言うことを聞くよ」
「えー?ホントに聞いてくれるわけ?何かの罠じゃないの?」
「そんなことはしないよ」
早瀬が笑いながら席を立った。後ろからついて行くときにも、彼女からの視線を感じていた。せっかく美味しい料理が食べられたのに、居心地が悪いなと思いながら。
「俺も負けずに頑張るよ。悠人君に追い越されないように」
「裕理さんは頑張ってるじゃん?」
「これから頑張るよ」
「ふうん?」
彼は真面目な人だと思う。桜木さんから聞いた話では、社内では、早瀬のことは『腹黒なのに憎めない人』だと見られていると教えてくれた。常務であり部長である黒崎さんの怖さを和らげている分だけ、尊敬の目も向けられているとも言っていた。
「桜木さんは裕理さんのこと、すごい人だって言っていたよ」
「へえ、そうなのか。散々、イジメたのに」
「何かしたわけ?変質者!」
「前から不思議だったよ。桜木君にはヤキモチを焼かない」
「憧れの人だから別格!ギターだって上手いし」
「俺の方が焼いた。悠人君の視線を独り占めしているからだよ。週明けが楽しみだ」
「裕理さん、やめてよ!」
桜木さんは落ち着いていて、優しくてカッコいい人だ。変なことをされたくない。しかし、俺がどれだけ睨みつけようとも、早瀬は平然としてピザを食べている。喧嘩はしたくない。彼との口合戦で勝った試しがないし、美味しい料理に集中しておきたい。
「ん?」
「どうした?」
「こっちを見ている人がいるよ」
大人しく食べていると、少し離れたテーブルからの視線を感じた。早瀬のことを見て、女性客2人が囁き合っている。
(裕理さんがイケメンだからだろうなあ……)
そう思いながら、ロースト肉を口に運んだ。もう一口運ぼうとすると、女性客の一人が俺達の方へ歩いて来た。早瀬の反応からすると、職場の人だと分かった。しかし、俺に対して、とげとげしい視線を向けてきた気がする。『この子は誰なの?』という種類のものだ。女子大学生に見間違われた可能性がある。よくあることだから気にしない。
こういうぶしつけな人は相手にしない事だと、父からの言い付けが染みついている。知り合いに会った時に恥ずかしくないようにだ。そう躾けられては、息苦しい思いをして来た。しかし、こうして実際に役立ち、落ち着いていられる。
「こんにちは」
「偶然だね」
「早瀬室長も……」
「この店、枝川君から聞いたんだよ」
「お店のピザ職人は、イタリアのコンテストで入賞しているんです」
「2年連続だと聞いたよ。このソースが……」
軽快に会話が進む中、彼女が俺の方を向いた。早瀬から微笑み掛けられた後、控えめな笑顔を浮かべた。そして、両手を膝の上に置き、軽く背筋を伸ばした。『久田先生の息子』の出来上がりだ。
「黒崎製菓グループの顧問弁護士の久田さんの息子さんだ」
「こんにちは。久田です」
「そうだったんですねー。お友達でしたか……」
「この子はパートナーだよ」
「あら……。ふふふ」
正直に紹介されてしまった。しかし、彼女は驚くどころか笑っている。きっと冗談だと受け取ったのだろう。こんな年下の男の子が相手だから、信じなくてもおかしくない。早瀬の方は、余計な言葉を入れずに話している。彼女の方は、もっと知りたそうだ。
(そっか。仕事とプライベートを分けているのか。隙のない感じがするなー)
そう思っていると会話が終わり、彼女が席へ戻って行った。この店の雰囲気は、気軽に席を立てるような感じではない。よっぽど、同席している相手を知りたかったのだろう。連れの女性の反応は見なくてもいい。さっき、とげとげしい視線を感じていた。
(あーあ……。お父さんの考え方だ。微笑んだままで相手を観察しているからさ。嫌なのにやっている……)
父はいつも冷静だった。相手の反応を笑顔で受け止めて観察していた。それが俺にも移っていると思った。すると、早瀬が言った。
「悠人君。おまたせ」
「ううん。いいよー」
「メインのローストが気に入ったのか。あっという間に食べたね。ボリュームがあるのに」
「すごく美味しいよ。特にこのソースだよ。ビーフシチューみたいだよ」
「赤ワインを使ったソースが好きだからな。濃厚でも、スッキリしたものが気に入るね」
「へえ、意識していなかった。ビーフシチューが食べたくなったよ」
「期末試験期間中に作ってあげるよ。休みの日でもいいか?」
他愛のない会話が始まると、さっきの彼女と話している姿との違いを感じた。優しい雰囲気は同じでも、さっきの早瀬は隙のない様子だった。こうして話している間も、彼女からの視線を感じている。早瀬も視界に入っているはずなのに、特に気にする風はない。そして、料理を食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
「次はどこに行きたい?何でも言うことを聞くよ」
「えー?ホントに聞いてくれるわけ?何かの罠じゃないの?」
「そんなことはしないよ」
早瀬が笑いながら席を立った。後ろからついて行くときにも、彼女からの視線を感じていた。せっかく美味しい料理が食べられたのに、居心地が悪いなと思いながら。
0
あなたにおすすめの小説
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
青い月の天使~あの日の約束の旋律
夏目奈緖
BL
溺愛ドS×天然系男子 俺様副社長から愛される。古い家柄の養子に入った主人公の愛情あふれる日常を綴っています。心臓に疾患を抱えながら、ロックバンドのボーカルとしてステージに立つ夏樹。彼を溺愛するのは、年上で俺様な副社長・黒崎圭一。夏樹は養子として名家に迎えられ、音楽と経営、二つの人生の狭間で揺れていた。それでも黒崎は、束縛と独占欲を隠すことなく、夏樹のすべてを受け止めようとする。ステージを降りる日が近づくかもしれない中、家族の問題、過去の傷、そして未来への不安が静かに忍び寄る。繋いだ手を、決して離さないと誓った二人の、溺愛と再生の物語。※本作からでもお読みいただけます。
黒崎家には黒崎の兄弟達が住んでいる。黒崎の4番目の兄の一貴に親子鑑定を受けて、正式に親子にならないかと、父の隆から申し出があり、一貴の心が揺れる。そして、親子鑑定に恐れを持ち、精神的に落ち込み、愛情を一身に求める子供の人格が現われる。自身も母親から愛されなかった記憶を持つ黒崎は心を痛める。黒崎家に起こることと、黒崎に寄り添う夏樹。
作品時系列:「恋人はメリーゴーランド少年だった。」→「恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編」→「アイアンエンジェル~あの日の旋律」→「夏椿の天使~あの日に出会った旋律」→「白い雫の天使~親愛なる人への旋律」→「上弦の月の天使~結ばれた約束の夜」→本作「青い月の天使~あの日の約束の旋律」
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる