海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
154 / 259

12-15

しおりを挟む
 19時半。

 これからステージが始まる。司会者が今夜のバンドと、一曲目の紹介をした。とうとう演奏されようとしている。ツインギターは、植本さんと佐久弥だ。ステージから赤いライトが放射されている。ドラム音、ベース、ギタフレーズが鳴り響き、ヴォーカルが観客を煽った。

「ハロウィンイベント。今夜限定のバンドの登場です!」

 ワーーー!

 サクヤーー!

 ウエムラーー!

「……みんなでうたいましょう!Zero addressーー!」

 ド派手なフレーズを刻んでいるのは、毒々しい魔法使いスタイルの佐久弥だ。一気にステージが華やかになり、自然と目が惹きつけられた。植本さんが時計の針のように、正確なリズムを刻んでいる。その演奏に圧倒されて、あんぐりと口を開けた。

「あああ……どうしよう?」
「ゆうとくーん、それは感動?」
「裕理さん、騎士は魔法使いを守るよ。佐久弥も魔法使いだけど」
「……毒々しい魔法使いだ」
「ふん。裕理さんはインチキ魔法使いだよ。七変化男!」
「……はあ。可愛くないなあ」

 言い合いをしていたのが良かったようだ。緊張する間もなく、ステージ担当のスタッフから、スタンバイの声が掛かった。

 今回のステージでは、流れるようにして、メンバーの交代を演出する。俺は2曲目が始める直前に勢いよくステージに走って行き、スタンドに立ててセッティングされているギターを持ち、演奏が続いているドラムとベース音へ仲間入りすることになっている。

 演奏を聴いている間、胸がドキドキした。足も震えている。しかし、ここで後ろ向きな姿を見せるわけにはいかない。すると、ステージスタッフから支持が飛んできた。

「悠人君!入ってーー!植本さんの右側!」
「はーい!」

 真っ赤に光っているステージへ走って行った。真っ暗で何も見えないかと思って心配になったが、すぐに目が慣れてきて、メンバーの姿が視界に入った。そして、スタンドからギターを取った。さらにベースからのアイコンタクトを受けた後、植本さんが合図をしてきた。俺が演奏に入るタイミングになったからだ。

 ピックを握っている手には腕時計がある。このステージのためにプレゼントしてくれたのだろう。右利きの自分は左手でピックを持つからだ。早瀬もここにいる。そして、ラストの曲でも同じステージに立つ。

「ギターー!ユーート、ウエモトーー!」

 司会者の声の直後に、ギターフレーズを刻んだ。すると、目の前の観客が、真っ暗な夜空と一体化した。ステージ前方から上がった、4つの花火の効果によるものだ。演奏している側からは、同じ光に見える。

(ステージから下りたくない。ここも自分の居場所だ……)

 俺の演奏の出だしは成功しただろうか?高鳴る鼓動、観客の声援、夜空に振り上げられた腕が答えだった。

 ワーーー!

 ユーートーー!

 まるで夢のようだ。自分の名前を呼ばれている。頬に温かいものが流れてきた。すると、早瀬からの声が聞こえた。この歓声の中では聞こえづらいはずなのに。3曲目に入るから、スタンバイしていた。

「……まだ泣くのは早い。失敗して悔し泣きしろ!」
「……きいいいいいっ」
「……始まるぞ!」
「……おーーー!」

 3曲目に入った。これも流れるようにして始まった。今夜は早瀬と一緒に弾く。早瀬のフレーズが引き立つように、ベースと一緒に土台を支えるのが俺の役目だ。ドラムとベースが土なら、リズムギターが木の幹だ。ヴォーカルの高音が太陽の光だ。早瀬の華やかなフレーズが、その花を咲かせた。

 ダダダダ!

 すると、今夜のバンドが奏でる旋律の中に、新しい音が参加した。サイドから黒いマントを翻して、佐久弥が走り込んできた。ヴォーカルのそばに立ち、ギターをかき鳴らしている。その派手なギタープレイが華を添えて、ステージに舞い散る花びらになった。さらに、ヴォーカルが声を張り上げた。

「今夜の観客のみなさんへ!花束を贈りますーー!」

 ワーーー!

 一斉に歓声が上がった。それが風となり、さらに強い風になり、花を舞い散らせた。その直後、ステージからは、スモークが吹き出した。

 佐久弥がサイドに移動した。早瀬のフレーズに、ちょっかいをかけている。まるで会話のようにやり取りが始まり、観客から笑いが起こった。

 すると今度は俺のそばに来て、俺の腕を引っ張ってきた。そして、そのままステージの前方に連れて行かれて、ヴォーカルが位置を変えた。俺のことを目立たせるためだ。

 すると、今度は急に、佐久弥がリズムギターを弾き始めた。つまりは、俺に即興でアレンジして弾けということだ。アレンジは得意分野で、これなら負けないと思っている。もう迷うことなく、自分のフレーズを奏でた。


 ダダダダダ!

 最後の一音が怒涛のように鳴り響き、演奏を終えた。俺は早瀬のそばへ行き、ステージ前方へ引っ張った。そして、佐久弥が早瀬の頬へキスをした後、俺の唇を奪った。その瞬間、観客から大きな歓声が上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖
BL
溺愛ドS×天然系男子 俺様副社長から愛される。古い家柄の養子に入った主人公の愛情あふれる日常を綴っています。心臓に疾患を抱えながら、ロックバンドのボーカルとしてステージに立つ夏樹。彼を溺愛するのは、年上で俺様な副社長・黒崎圭一。夏樹は養子として名家に迎えられ、音楽と経営、二つの人生の狭間で揺れていた。それでも黒崎は、束縛と独占欲を隠すことなく、夏樹のすべてを受け止めようとする。ステージを降りる日が近づくかもしれない中、家族の問題、過去の傷、そして未来への不安が静かに忍び寄る。繋いだ手を、決して離さないと誓った二人の、溺愛と再生の物語。※本作からでもお読みいただけます。 黒崎家には黒崎の兄弟達が住んでいる。黒崎の4番目の兄の一貴に親子鑑定を受けて、正式に親子にならないかと、父の隆から申し出があり、一貴の心が揺れる。そして、親子鑑定に恐れを持ち、精神的に落ち込み、愛情を一身に求める子供の人格が現われる。自身も母親から愛されなかった記憶を持つ黒崎は心を痛める。黒崎家に起こることと、黒崎に寄り添う夏樹。 作品時系列:「恋人はメリーゴーランド少年だった。」→「恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編」→「アイアンエンジェル~あの日の旋律」→「夏椿の天使~あの日に出会った旋律」→「白い雫の天使~親愛なる人への旋律」→「上弦の月の天使~結ばれた約束の夜」→本作「青い月の天使~あの日の約束の旋律」

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

処理中です...