アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 午前10時。

 大学へ到着した。正門を入り、真っ直ぐに7号館へ入った。741教室へ向かうのは、お馴染みの子ばかりだ。普段から近くの席に座っている子と話すようになった。

 今から受けるドイツ語クラスの授業では、並川さんや聡太郎から教えてもらった通りの状況になった。生徒同士が団結するようになり、仲良くなってきた。授業のレポート課題が多くて、その評価で単位取得が決まるからだ。法学系の授業でも、生徒同士が仲良くなった。7月と2月の定期試験一発勝負だ。試験対策メンバーが問題集を作り、助け合って試験クリアを目指す。将来目指すものがある子は、それに向かって突き進んでいるから、人のことに構っている状況ではない。もちろん学食で賑やかに話すし、サークル活動も楽しそうだ。

(大学生は遊べるって聞いたけど、高校よりも忙しいよ。学部選択があるし、インターンへ出るし……)
 
 3年生から学部が決まる。そこへ入るためには成績が影響する。学部学科ごとに分かれていて、理学部や工学部を目指す子は狭き門を目指す。在籍学生数が極端に少ないからだ。

 大学院へ進学した子は研究機関へ就職することが多いそうだ。法曹界を目指す法学部の生徒は、なりふり構わずに勉強付けになる。卒業までノンストップだ。

(将来、どうしようかな……)

 将来のことを考えながら、廊下を歩いた。まだ授業までに時間に余裕がある。741教室へ入ると、悠人から手を振られた。軽く振り返して、彼の元へと行った。長い机が並べられた教室内では、真ん中から後ろにかけての場所に生徒が集まっている。

(黒崎さんが面食らっていたなあ。もっと遊べって。自分は遊んでいないのにさ……)

 ここでは『中山君』と呼ばれることが多い。高校では『夏樹先輩』と呼ばれていた。大学以外では『夏樹君』と呼ばれる。そして、たまに『黒崎さん』と呼ばれることもある。こうして自分の名字を耳にして、新鮮な気分を味わっている。すると、同級生達から声を掛けられた。

「おはよう~」 
「中山君、この間は助かったよ」 
「ああ、いいんだよ」 
「わらび餅アイスを奢るよ。期間限定だから」
「ありがとう」
「あのさー、この授業のー」
「そこはねーー。……悠人、おはよう」
「夏樹、おはよう」

 いつものように、悠人の隣に腰かけた。いつもギターケースが足元に置いてあったのに、最近は見なくなった。キャンパス内の学生ホールの部屋で弾けるから常連のようになっていたのに。バイトが忙しいからだそうだ。

 悠人は珈琲が好きで、全国チェーンのマリーズカフェに通っている。俺も好きだ。悠人は好き嫌いがなくて良く食べる子だ。甘い物も好きだから、近所の店で買ったドーナツやマフィンを差し入れしている。手作りもある。さっそく、そのお礼を言われた。

「あのドーナツ、美味しかったよーー」 
「よかった。マリーズカフェの新作なんだよ。金曜日から発売していたよ」 
「そうだったんだ?知らなかったよ」 
「んー?珍しいね?マリーズカフェの常連なのに」
「あ……、バイトが忙しくてさっ」 

 悠人が慌てたように教科書を開いた。上下さかさまだ。何かあったのだろうか。脳裏に浮かんだのは、悠人に誘いをかけている、経済学部の奥村さんのことだ。悠人のことが好きになったそうで、何度もデートに誘ってきている。告白を断っても逆効果だった。まるで付きまといのようなことまでするようになってしまったから、俺と森本と山崎とでガードしている状態だ。 

「何かあった?経済学部の奥村さんのことだよ。最近は何もなかったよね?」
「うん!何もないよ。夏樹達のおかげだよ」
「そう?」

 確かに奥村さんは姿を見せない。早瀬さんのことだろうか。気になりつつも、口にしていいものか躊躇った。どんなに仲が良くても、触れられたくない部分があるからだ。
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