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看護師から案内された病室へ入ると、機械に囲まれた中に、夏樹が横たわっていた。ベッドには『中山夏樹』と表示されている。
「……黒崎さん?」
夏樹の声が聞こえた。彼のそばへ行くと、微笑んでくれた。安心した顔をしていると思ったのは、俺の都合のいい解釈だろうか。去年怪我したときとは違う表情をしている。夏樹から握られた手が温かくて、自分の体温が下がっていたことを知った。
「……夏樹。温かい手をしている」
「……うん。手を握ってくれた人が居たんだ。黒崎さんだろ?」
「……いや、俺じゃない。やっと会えた」
「……誰だろう?あんたの代わりに握ってくれたんだね。覚えていないから、お礼が言えないよ。山崎さんへ電話を掛けても構わない?忙しいかな。アンが心配していると思うんだ。泣いていたみたいに思うからさ」
「……大丈夫だ。さっき山崎さんへ電話をかけて話した。アンは落ち着いて、お前のスリッパで遊んでいるそうだ。山崎さんも待っている」
「お父さんとお母さんを呼んでくれたんだね。ありがとう……」
「病状の説明は俺にしてもらえた。家族だと認めてもらえた」
「そっか。身内じゃないとできないことがあるんだね」
「ああ」
去年、夏樹が怪我をした日のことを思い出した。療養中は、なかなか俺のことを見てもらえなかった。今、彼は俺の名前を呼んで微笑み、励まされている。俺は気弱になった。それでも構わないと思う自分は、どう変化したのだろう。
「痛みはどうだ?」
「少しだけ。庭にコスモスを植えようかって思うんだ……」
夏樹が微笑んだ。夢でも見ているのだろうか。時々目を閉じている。
「もう種を蒔いてある。再来月には咲いているはずだ」
「……花言葉のとおりだね。調和、平和。the joys that love and life can bring。愛や人生がもたらす喜び」
「帰った後で水やりをしよう。花言葉の通り、美しい庭になった」
夏樹が微笑んで頷いた。手を握り返すと、スイーツが食べたいと呟かれた。心配かけないようにしているのか。あとで沢山持って来てやるとなだめて、寝かしつけた。自然と目を閉じるのではなく、もっと起きて話したいと、駄々をこねながらだった。俺の前で元気そうに振る舞っているのだろう。
「ありがとうございます……」
自然と礼をつぶやいた。姿の見えない人達への礼だ。そして、今はただ、夏樹のことを抱きしめた。
「……黒崎さん?」
夏樹の声が聞こえた。彼のそばへ行くと、微笑んでくれた。安心した顔をしていると思ったのは、俺の都合のいい解釈だろうか。去年怪我したときとは違う表情をしている。夏樹から握られた手が温かくて、自分の体温が下がっていたことを知った。
「……夏樹。温かい手をしている」
「……うん。手を握ってくれた人が居たんだ。黒崎さんだろ?」
「……いや、俺じゃない。やっと会えた」
「……誰だろう?あんたの代わりに握ってくれたんだね。覚えていないから、お礼が言えないよ。山崎さんへ電話を掛けても構わない?忙しいかな。アンが心配していると思うんだ。泣いていたみたいに思うからさ」
「……大丈夫だ。さっき山崎さんへ電話をかけて話した。アンは落ち着いて、お前のスリッパで遊んでいるそうだ。山崎さんも待っている」
「お父さんとお母さんを呼んでくれたんだね。ありがとう……」
「病状の説明は俺にしてもらえた。家族だと認めてもらえた」
「そっか。身内じゃないとできないことがあるんだね」
「ああ」
去年、夏樹が怪我をした日のことを思い出した。療養中は、なかなか俺のことを見てもらえなかった。今、彼は俺の名前を呼んで微笑み、励まされている。俺は気弱になった。それでも構わないと思う自分は、どう変化したのだろう。
「痛みはどうだ?」
「少しだけ。庭にコスモスを植えようかって思うんだ……」
夏樹が微笑んだ。夢でも見ているのだろうか。時々目を閉じている。
「もう種を蒔いてある。再来月には咲いているはずだ」
「……花言葉のとおりだね。調和、平和。the joys that love and life can bring。愛や人生がもたらす喜び」
「帰った後で水やりをしよう。花言葉の通り、美しい庭になった」
夏樹が微笑んで頷いた。手を握り返すと、スイーツが食べたいと呟かれた。心配かけないようにしているのか。あとで沢山持って来てやるとなだめて、寝かしつけた。自然と目を閉じるのではなく、もっと起きて話したいと、駄々をこねながらだった。俺の前で元気そうに振る舞っているのだろう。
「ありがとうございます……」
自然と礼をつぶやいた。姿の見えない人達への礼だ。そして、今はただ、夏樹のことを抱きしめた。
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