アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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32-1 黒崎夏樹になる日

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 10月29日、日曜日。午前9時。

 ミライ・アマチュアバンドコンテストの日から、2か月が経った。夏の盛りを過ぎて涼しくなり、朝晩の寒暖差が起こり、今では庭の木々が紅葉している。そんな秋の穏やかな朝を過ごしている。

 黒崎家の庭にて、紅葉したナツツバキの隣で発声練習をやった。すっかり俺のマストアイテムになった、うちわをマイク代わりにしている。

「黒崎さんのーー、背中にはー、シップーシップー、酒の匂いーー、オジサンー、もうすぐ誕生日だねーー、おめでとうーー、オジサンーー、イエーー!あ、黒崎さん!」

 仕事の書類を読み終えたのだろうか。黒崎がテラスから歩いてきた。俺の足元にいるアンが迎えに行った。

「……オジサンを連呼するな」
「ふふん。オジサンだろ?」
「……うるさい。19歳」
「その19歳に、何をやっているんだっけ?」
「いやらしいことだ。他には……」
「もう言わないでいいよ」

 黒崎が自分のエロさを認めて言い切った。あと1か月半で誕生日を迎える黒崎が35歳になる。すっかり親父化して、エロさが増している。

 エロい発言は毎日の活力だと堂々と口にした時、一緒にいた早瀬さんから苦笑されていた。悠人が顔を赤くして、げえええっと悲鳴を上げた光景を忘れられない。黒崎の寡黙なところと優しさに触れて、彼のことを理想の男だと言っていた。それが台無しになってしまった。

 さあ入ろうと促されてリビングに戻ると、テレビでは朝のニュースをやっていた。黒崎製菓のテロップが出たから、テレビの前に行って画面を見た。

「……FNAAニュースの時間です。……東京証券取引所でピークを迎えた企業の半期決算発表がされました。黒崎製菓が好調の波。……黒崎製菓とワタベ電機が業務提携を行いました。生産、産業用ロボットの大手です。……今年度も売り上げ、利益ともに過去最高を更新する見込みで……」
「黒崎さーん。会社の業績アップなんだね!」 

 思わず声を上げた。そして、黒崎と深川さんが画面に映っていて、さらに驚いた。すると、本社ビルの画像が出て、さらに会議室のような場所に変わった。黒崎達が大きな机に並んで座っている。その向かいには、ワタベ電機側の人が座っていた。

「……ワタベ電機、渡部幸次氏。両社の代表としての……」

 良いニュースのようだ。それぞれのインタビューが終わり、次の話題に移った。経済の授業を受けているうちに、ニュースを見聞きして理解できることが増えていった。そして、黒崎から教えてもらうことが役に立っている。もっと知るようになるだろう。しかし、不安もある。短期インターンシップのことだ。周りについていけるだろうか。

「黒崎さーん」
「どうした?」
「インターンシップ、足手まといにならないかな?もちろんやる気だし、頑張るけど」
「心配ない。慣れていないのは当たり前だし、参加者同士、緊張しているのはお互い様だ。おかげで社内には活気が生まれる。新しい流れができるからだ」
「そっか。あっさりとモヤモヤを晴らせるんだね……」
「大丈夫だ。自信を持て」
「うん!」

 黒崎から元気を貰った。いつもそうだ。どこかで溺れそうになっても、こうして引き上げて助けてもらっている。
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