アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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16-7(黒崎視点)

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 花屋に到着した。店の客と店員が話していた。ここが父の通っている店なのかと、店内の様子を見て納得した。賑やかな雰囲気の店だ。父は静まり返った場所よりも、人の話し声がする方を好むようだ。店内へ入ると、夏樹が大きく手を振った。

「ああー、聡太郎君!」
「いらっしゃいませ」

 桜木聡太郎が俺達を出迎えた。桜木とは初めて会う。夏樹とのビデオ通話中に、簡単に挨拶を交わしたのみだ。インターンシップ生として受け入れ予定だから、早く会ってみたかった。夏樹と話している姿を見て、画面越しでは分からなかった印象の強さを、目の当たりにすることができた。伊吹のパートナーだとは思えないほど、落ち着いている人だと思った。

「聡太郎君って、花に負けていないよね。目立っているよ」
「そう?花とお客さんが主役なのに。俺が光ってもねえ」
「聡太郎君に会いたくて来るお客さんもいるんじゃないかな?」
「そう?夏樹君は俺に会いたかったの?」
「もちろんだよ」
「そう。ありがとう」

 桜木のことを見ていると、夏樹のことが可愛くて堪らないのだと感じた。そして、俺の方へ向き直り、落ち着いた声で話しかけられた。どこかで会ったことがあると思った。そして、それがテレビ画面で見たことのある人物だということに気づいた。身内だろうか。しかし、いきなり質問するのはやめておこうと思った。

「初めまして。桜木聡太郎です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。黒崎圭一です」
「あ……」

 ガシャン!

 自己紹介をした後、大きな物音がした。視線を向けると、女性客が展示してあった物を落としていた。そして、スタッフ達が動くよりも早く、聡太郎が向かった。その後の対応と、客の表情など、一連の光景を観察した。素晴らしい対応だと思った。

「なるほど。父が見込んだだけはある」
「大学では遠巻きに見ている人がいるけど、実際は違うんだよ」
「どんな感じだ?」
「あのね……」

 夏樹から桜木のエピソードを聞かされた。ますます興味が出てきた。その桜木ともっと話したいと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。桜木のそばからだ。

「ソータ、仲直りをしてくれ!」
「バカー!」

 それは、伊吹の声だった。店に来ていたようだ。桜木が先程までの落ち着いたイメージを崩して、鬼のような形相に変わっている。そして、伊吹の頭を、セイヨウヒイラギで叩き始めた。店内の客が笑い転げている。客が夏樹に言った。この店でなじみの光景なのだそうだ。

「ソータ、やきもちを妬いただけだ!」
「うるさい」
「連れ去られないか心配なんだ」
「営業企画部内には社員が大勢がいるよ。心配ないからね」
「マーケティング推進部の枝川氏と同じフロアだろう。どういうことだ!?」
「同じ営業企画部だからだよ」
「昨日も枝川氏が来ていたじゃないか!」
「俺のせいじゃないよ」
「ソータ、愛している!」
「応えられないよ」
「どうしてだ?ラヴァー!恋人同士だぞ!?」
「勘違いするな」
「仲直りの食事をしよう!」
「だったら伊勢海老が食べたい。松宮でね!」
「高級店だ!」
「だったら言うなーー」
「……あれ?」

 桜木からセイヨウヒイラギで追い払われた伊吹が、俺達のことに気づいた。そして、彼が俺達に言葉を掛けるよりも早く、夏樹が冷たく言い放った。

「お兄ちゃん。クリスマスイブに生まれたのに、セイヨウヒイラギで追い払われているの?悪魔とか妖精が悪いことをしないようにって、家の中で飾られる植物なのに」
「夏樹っ。何ていう嫌味を言うんだ。いつから悪い子になったんだ!?」
「聡太郎君。花を受け取って帰るよ」
「はい。おまたせしました。白い花でコーディネートさせてもらったよ」
「じゃあね、ありがとう」
「またのお越しを。……いぶきー、しつこい。弟の誕生日ぐらいは静かにしろ」
「黒崎さーん。行こうよ~」
「夏樹、ハッピーバースデー!」
「はいはい……」

 伊吹から声を掛けられた夏樹が眉間に皺を寄せた。その夏樹から手を引かれて、店を後にした。伊吹が聡太郎へ追いすがっている姿を見ると、尻に敷かれているのが分かった。普段の伊吹の嫌味さは欠片も感じられない。夏樹がこう言っていた。伊吹お兄ちゃんの素の顔が、さっきの姿だよと。
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