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7-1 ホテルでの年越し
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12月31日、火曜日。15時。
今日は大晦日だ。ホテルの部屋からの眺めを楽しんでいる。下には広い公園の緑が広がり、向こうにはビル群が見えている。夕暮れになれば夜景が広がるだろう。
今年はこのホテルで年越しをする。カウントダウンコンサートや落語などが、施設内で楽しめる。正月プランだからだ。今夜のイベントから待ち遠しい。
一時間前にチェックインした。ディナーの時間まで、黒崎が部屋で過ごしたいと言っていた。てっきり寝転がるかと思いきや、さっそくルームサービスが届いた。おつまみ類と、ワイン数本だった。俺には、少なめの量のアフタヌーンティーが届いた。今から食べるとディナーが入らなくなるからだという。俺はこれでは誤魔化されない。
「黒崎さーん。外を眺めようよ。お酒は夜にしろよ」
「アフタヌーンティーだ。気に入らないのか?」
「美味しそうだけどさ。一口サイズのタルトも……。へえ、珍しいサンドイッチだね。定番だけかと思ったのに……」
「好きな具材を伝えておいた。明日の朝食も希望通りだ。だから機嫌を直せ」
ワインを傾けながらテレビを眺めている姿は、親父そのものでしかない。チーズとスモークサーモンが似合っている。二泊の滞在中は、お酒三昧の予感がした。
ロビーを歩いていた時、昔のことが思い浮かんだ。付き合い始めの高校生の時、ホテルのレストランへ連れて行かれていた。スタッフと顔なじみになる頻度だ。
着慣れない格好をして、不安がないようにエスコートされた。黒崎が仕事の電話中には、スタッフがそばについていた。施設内でイベントがあり、興味がある素振りを見せると連れて行かれた。何でも言うことを聞くし、楽しませたいと、黒崎が言っていた。
あれが異常っぽかったのは、今なら分かる。その人は今、俺の方を見ていない。一緒に館内を散歩しようと誘っても、乗ってこない。一人で出歩きたいと言いながらも、こうして一緒に行こうと誘っているのは矛盾している。それも分かっている。
(だって、束縛と関心は別物だもん……)
「黒崎さん。俺の方を見てよ」
「分かっている。明日の午後は寄席を楽しむし、縁日イベントにも付き合う。北岡さんの個展にも。このホテルで全てを済ませられる。だからここを選んだ」
「3階の牡丹の間で、ミニチュア展をやっているんだ」
「ディナーの前に連れて行く。一人で行きたいのか?ロビーマネージャーから迷子扱いされるぞ。本日2回目の」
「なんだよー。おっと……」
黒崎がソファーに座ったままで腕を伸ばしてきて、腰を抱かれた。ここへ座れと言いながら。ワインの匂いが鼻をかすめたと思うと、口の中に広がった。両足を膝の上に乗せられると、簡単には逃れられない。不安定な体制だと文句を言うと、微笑みだけを返された。悔しくて足をバタつかせると、笑い声を立てて抱き直された。
「なんだよ、もう……」
「反射神経の違いだ。逃がすわけがないだろう。……爪が伸びてきたか」
ふいに左手を取って視線を向けられた。指先で撫でられた時に、チクッと痛みが起きた。ささくれが出来ていて、当たったようだ。今から整えようかと言われが、大したことがないから、後でいいよと答えた。
「ハンドマッサージを受けるといい」
「マジで言ってるだろ?女性の中に混ざりたくないよ。え?この部屋で受けられるの?やだよ、あんたから磨かれてるから十分だよ……」
微笑みながら左手の甲へキスをする仕草を眺めた。すると突然、嫌なことはないか?と聞かれた。黒崎家のことだ。もうすぐで法事があるからだろう。そう思って首を振ると、”親父からお節介なことを言われていないか”と、追加が返って来た。
今日は大晦日だ。ホテルの部屋からの眺めを楽しんでいる。下には広い公園の緑が広がり、向こうにはビル群が見えている。夕暮れになれば夜景が広がるだろう。
今年はこのホテルで年越しをする。カウントダウンコンサートや落語などが、施設内で楽しめる。正月プランだからだ。今夜のイベントから待ち遠しい。
一時間前にチェックインした。ディナーの時間まで、黒崎が部屋で過ごしたいと言っていた。てっきり寝転がるかと思いきや、さっそくルームサービスが届いた。おつまみ類と、ワイン数本だった。俺には、少なめの量のアフタヌーンティーが届いた。今から食べるとディナーが入らなくなるからだという。俺はこれでは誤魔化されない。
「黒崎さーん。外を眺めようよ。お酒は夜にしろよ」
「アフタヌーンティーだ。気に入らないのか?」
「美味しそうだけどさ。一口サイズのタルトも……。へえ、珍しいサンドイッチだね。定番だけかと思ったのに……」
「好きな具材を伝えておいた。明日の朝食も希望通りだ。だから機嫌を直せ」
ワインを傾けながらテレビを眺めている姿は、親父そのものでしかない。チーズとスモークサーモンが似合っている。二泊の滞在中は、お酒三昧の予感がした。
ロビーを歩いていた時、昔のことが思い浮かんだ。付き合い始めの高校生の時、ホテルのレストランへ連れて行かれていた。スタッフと顔なじみになる頻度だ。
着慣れない格好をして、不安がないようにエスコートされた。黒崎が仕事の電話中には、スタッフがそばについていた。施設内でイベントがあり、興味がある素振りを見せると連れて行かれた。何でも言うことを聞くし、楽しませたいと、黒崎が言っていた。
あれが異常っぽかったのは、今なら分かる。その人は今、俺の方を見ていない。一緒に館内を散歩しようと誘っても、乗ってこない。一人で出歩きたいと言いながらも、こうして一緒に行こうと誘っているのは矛盾している。それも分かっている。
(だって、束縛と関心は別物だもん……)
「黒崎さん。俺の方を見てよ」
「分かっている。明日の午後は寄席を楽しむし、縁日イベントにも付き合う。北岡さんの個展にも。このホテルで全てを済ませられる。だからここを選んだ」
「3階の牡丹の間で、ミニチュア展をやっているんだ」
「ディナーの前に連れて行く。一人で行きたいのか?ロビーマネージャーから迷子扱いされるぞ。本日2回目の」
「なんだよー。おっと……」
黒崎がソファーに座ったままで腕を伸ばしてきて、腰を抱かれた。ここへ座れと言いながら。ワインの匂いが鼻をかすめたと思うと、口の中に広がった。両足を膝の上に乗せられると、簡単には逃れられない。不安定な体制だと文句を言うと、微笑みだけを返された。悔しくて足をバタつかせると、笑い声を立てて抱き直された。
「なんだよ、もう……」
「反射神経の違いだ。逃がすわけがないだろう。……爪が伸びてきたか」
ふいに左手を取って視線を向けられた。指先で撫でられた時に、チクッと痛みが起きた。ささくれが出来ていて、当たったようだ。今から整えようかと言われが、大したことがないから、後でいいよと答えた。
「ハンドマッサージを受けるといい」
「マジで言ってるだろ?女性の中に混ざりたくないよ。え?この部屋で受けられるの?やだよ、あんたから磨かれてるから十分だよ……」
微笑みながら左手の甲へキスをする仕草を眺めた。すると突然、嫌なことはないか?と聞かれた。黒崎家のことだ。もうすぐで法事があるからだろう。そう思って首を振ると、”親父からお節介なことを言われていないか”と、追加が返って来た。
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