上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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8-14(黒崎視点)

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 12時半。

 親族や古い付き合いの出席者が、法要の会場内に着席している。施主としての挨拶を終えた後、隣の会館で食事の用意があることを伝えた。

 何度も出席しているため、勝手が分かっている。親族が会場を出ている間に、古い付き合いの出席者へ改めて礼を伝えた。

 全て終えた後、会食の場へ向かった。”気兼ねのない親族関係”だ。少々遅れようが構わない。そつなくこなす方が、文句の囁き声が上がる。

 父は先に向かい、ふんぞり返って着席してもらった。”圭一に任せてある。私のことは置き物だと思ってくれ”と、親族達に話していた。その通りにしているだろう。

(ああいう風になりたい。だから30年以上も持ち越えられたんだろう……)

 その意味合いでは憧れの人だ。息子ばかり増やした件では苛立ちすら起きない。82歳になろうとしている人を、責めてどうする?しかも、優しい父になった。ただし二葉の件は別だ。夫婦関係が破綻していたはずが、二葉のことを妊娠した。想像した通りのことが起きたに違いない。最悪のことだ。

 昨日、二葉からこう聞かれた。私が生まれて来なかったら、お腹に出来なかったら……。お兄ちゃんとお母さん達は家族でいられたのよね?と。

 父を恨みたくなった。母のこともだ。俺のことを朝陽に置き換えて可愛がった。二葉のことは放置だ。年末のホテルで話した時に知ったことだ。二葉のことは分からないと言われた。何を理解できないというのか?と、あえて聞くことはしなかった。聞きたくもない。

 彼女は育ての父親を追いかけ続けた。母が関係するのか?優しいふりをしていたのか?中山の義母の元へ向かった日の、背中に添えられた手は温かった。

(夏樹にどう話すか……)

 今日の欠席を決めたのは、夏樹の中学時代のことが理由だ。人脈を使い、メディアに売ったものがいる。中山の義父が担当した弁護で、暴力事件の冤罪を勝ち取った事が引き合いに出された。圧力を掛けても浮き上がってくる。いくら口を閉じさせても、夏樹には伝わる。

「圭一。どうした?」

 そばから名前を呼ばれて我に返った。誰かが近づいても気づかない程に、考えこんでいたのか。俺らしくない。

 そばに立っていたのは晴海兄さんだった。疲れているだろう?お兄ちゃんが交代すると言われた。そして、驚く間もなく言葉を遮られた。そして、晴海兄さんが嫌がっていた役目を果たすと言い出した。

「今日の会食から施主をやる。当主の役目を交代する。お前は黒崎製菓グループに集中してくれ」
「華道の方がいい方向へ進んでいるだろう。無理をするな」
「会社関係は不向きだったのは自覚している。……うるさい親戚関係には強い方だ。役立たずだと虐げられたような歴史が長い。……いい子でいなかった分、誰も俺には期待しない。少々の何かがあっても、晴海がやったことだと呆れる程度だ。……つまりはだな。お前や一貴君のような人間には、何をやっても納得する気がない。揚げ足を取って、その時だけ留飲をさげる。……年一回の祭りだからだ。先祖は呆れるだろうが」
「心の方はどうなんだ?せっかく体調が良くなった。カウンセラーへも通っていないだろう」
「弟には肩の荷を持たせたくない。やっと決心がついた。北岡先生のところで自信がついたからだ。……そりゃあ、打ちのめされたぞ?俺よりも年下の奴が伸びて、アシスタント仲間からも一目を置かれている。……そんな時に、北岡先生から励まされた。年齢がなんだ、ゆっくり大きくなれと……」
「それでいいのか?」
「そういう事だ。分かったか!」

 鼻息を荒くして言い切られた。そして、俺のことを抱き寄せた。頬に触れた肩は力強そうで、子供時代の憧れだった。

「圭一。俺が悪かった。ずっと堪えてきただろう」
「兄さん……」
「二葉ちゃんが泣いていた。お前に黙っているのは悪いと。夏樹君は堪えてきた」
「何の話だ?……黙っていたのか」
「お前に荷物を持たせたくないからだ」

 それは二年前のことだと教えられた。父が二葉と初対面をした後、その日の夜、二葉が泣きながら夏樹に電話をかけた。”お父さんに会いたいから協力してくれ”と。都内での生活が落ち着くまでは、現金もキャッシュカードも持たせなかった時期だ。

「夏樹君はお前に黙っていた。二葉ちゃんをここにいるように説得した後、罪悪感を持っていたはずだ。あの頃は、心が切羽詰まっていたんだろう?お前の顔色が悪かった。母親を奪った男のことで……」

 もう我慢するな。そう言われた後、頭を撫でられた。こうしたかったんだぞと呟きながら。

 この年でどういうことだ?嬉しいという気持ちが起きた後、胸のつっかえが消え去った。
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