67 / 514
8-14(黒崎視点)
しおりを挟む
12時半。
親族や古い付き合いの出席者が、法要の会場内に着席している。施主としての挨拶を終えた後、隣の会館で食事の用意があることを伝えた。
何度も出席しているため、勝手が分かっている。親族が会場を出ている間に、古い付き合いの出席者へ改めて礼を伝えた。
全て終えた後、会食の場へ向かった。”気兼ねのない親族関係”だ。少々遅れようが構わない。そつなくこなす方が、文句の囁き声が上がる。
父は先に向かい、ふんぞり返って着席してもらった。”圭一に任せてある。私のことは置き物だと思ってくれ”と、親族達に話していた。その通りにしているだろう。
(ああいう風になりたい。だから30年以上も持ち越えられたんだろう……)
その意味合いでは憧れの人だ。息子ばかり増やした件では苛立ちすら起きない。82歳になろうとしている人を、責めてどうする?しかも、優しい父になった。ただし二葉の件は別だ。夫婦関係が破綻していたはずが、二葉のことを妊娠した。想像した通りのことが起きたに違いない。最悪のことだ。
昨日、二葉からこう聞かれた。私が生まれて来なかったら、お腹に出来なかったら……。お兄ちゃんとお母さん達は家族でいられたのよね?と。
父を恨みたくなった。母のこともだ。俺のことを朝陽に置き換えて可愛がった。二葉のことは放置だ。年末のホテルで話した時に知ったことだ。二葉のことは分からないと言われた。何を理解できないというのか?と、あえて聞くことはしなかった。聞きたくもない。
彼女は育ての父親を追いかけ続けた。母が関係するのか?優しいふりをしていたのか?中山の義母の元へ向かった日の、背中に添えられた手は温かった。
(夏樹にどう話すか……)
今日の欠席を決めたのは、夏樹の中学時代のことが理由だ。人脈を使い、メディアに売ったものがいる。中山の義父が担当した弁護で、暴力事件の冤罪を勝ち取った事が引き合いに出された。圧力を掛けても浮き上がってくる。いくら口を閉じさせても、夏樹には伝わる。
「圭一。どうした?」
そばから名前を呼ばれて我に返った。誰かが近づいても気づかない程に、考えこんでいたのか。俺らしくない。
そばに立っていたのは晴海兄さんだった。疲れているだろう?お兄ちゃんが交代すると言われた。そして、驚く間もなく言葉を遮られた。そして、晴海兄さんが嫌がっていた役目を果たすと言い出した。
「今日の会食から施主をやる。当主の役目を交代する。お前は黒崎製菓グループに集中してくれ」
「華道の方がいい方向へ進んでいるだろう。無理をするな」
「会社関係は不向きだったのは自覚している。……うるさい親戚関係には強い方だ。役立たずだと虐げられたような歴史が長い。……いい子でいなかった分、誰も俺には期待しない。少々の何かがあっても、晴海がやったことだと呆れる程度だ。……つまりはだな。お前や一貴君のような人間には、何をやっても納得する気がない。揚げ足を取って、その時だけ留飲をさげる。……年一回の祭りだからだ。先祖は呆れるだろうが」
「心の方はどうなんだ?せっかく体調が良くなった。カウンセラーへも通っていないだろう」
「弟には肩の荷を持たせたくない。やっと決心がついた。北岡先生のところで自信がついたからだ。……そりゃあ、打ちのめされたぞ?俺よりも年下の奴が伸びて、アシスタント仲間からも一目を置かれている。……そんな時に、北岡先生から励まされた。年齢がなんだ、ゆっくり大きくなれと……」
「それでいいのか?」
「そういう事だ。分かったか!」
鼻息を荒くして言い切られた。そして、俺のことを抱き寄せた。頬に触れた肩は力強そうで、子供時代の憧れだった。
「圭一。俺が悪かった。ずっと堪えてきただろう」
「兄さん……」
「二葉ちゃんが泣いていた。お前に黙っているのは悪いと。夏樹君は堪えてきた」
「何の話だ?……黙っていたのか」
「お前に荷物を持たせたくないからだ」
それは二年前のことだと教えられた。父が二葉と初対面をした後、その日の夜、二葉が泣きながら夏樹に電話をかけた。”お父さんに会いたいから協力してくれ”と。都内での生活が落ち着くまでは、現金もキャッシュカードも持たせなかった時期だ。
「夏樹君はお前に黙っていた。二葉ちゃんをここにいるように説得した後、罪悪感を持っていたはずだ。あの頃は、心が切羽詰まっていたんだろう?お前の顔色が悪かった。母親を奪った男のことで……」
もう我慢するな。そう言われた後、頭を撫でられた。こうしたかったんだぞと呟きながら。
この年でどういうことだ?嬉しいという気持ちが起きた後、胸のつっかえが消え去った。
親族や古い付き合いの出席者が、法要の会場内に着席している。施主としての挨拶を終えた後、隣の会館で食事の用意があることを伝えた。
何度も出席しているため、勝手が分かっている。親族が会場を出ている間に、古い付き合いの出席者へ改めて礼を伝えた。
全て終えた後、会食の場へ向かった。”気兼ねのない親族関係”だ。少々遅れようが構わない。そつなくこなす方が、文句の囁き声が上がる。
父は先に向かい、ふんぞり返って着席してもらった。”圭一に任せてある。私のことは置き物だと思ってくれ”と、親族達に話していた。その通りにしているだろう。
(ああいう風になりたい。だから30年以上も持ち越えられたんだろう……)
その意味合いでは憧れの人だ。息子ばかり増やした件では苛立ちすら起きない。82歳になろうとしている人を、責めてどうする?しかも、優しい父になった。ただし二葉の件は別だ。夫婦関係が破綻していたはずが、二葉のことを妊娠した。想像した通りのことが起きたに違いない。最悪のことだ。
昨日、二葉からこう聞かれた。私が生まれて来なかったら、お腹に出来なかったら……。お兄ちゃんとお母さん達は家族でいられたのよね?と。
父を恨みたくなった。母のこともだ。俺のことを朝陽に置き換えて可愛がった。二葉のことは放置だ。年末のホテルで話した時に知ったことだ。二葉のことは分からないと言われた。何を理解できないというのか?と、あえて聞くことはしなかった。聞きたくもない。
彼女は育ての父親を追いかけ続けた。母が関係するのか?優しいふりをしていたのか?中山の義母の元へ向かった日の、背中に添えられた手は温かった。
(夏樹にどう話すか……)
今日の欠席を決めたのは、夏樹の中学時代のことが理由だ。人脈を使い、メディアに売ったものがいる。中山の義父が担当した弁護で、暴力事件の冤罪を勝ち取った事が引き合いに出された。圧力を掛けても浮き上がってくる。いくら口を閉じさせても、夏樹には伝わる。
「圭一。どうした?」
そばから名前を呼ばれて我に返った。誰かが近づいても気づかない程に、考えこんでいたのか。俺らしくない。
そばに立っていたのは晴海兄さんだった。疲れているだろう?お兄ちゃんが交代すると言われた。そして、驚く間もなく言葉を遮られた。そして、晴海兄さんが嫌がっていた役目を果たすと言い出した。
「今日の会食から施主をやる。当主の役目を交代する。お前は黒崎製菓グループに集中してくれ」
「華道の方がいい方向へ進んでいるだろう。無理をするな」
「会社関係は不向きだったのは自覚している。……うるさい親戚関係には強い方だ。役立たずだと虐げられたような歴史が長い。……いい子でいなかった分、誰も俺には期待しない。少々の何かがあっても、晴海がやったことだと呆れる程度だ。……つまりはだな。お前や一貴君のような人間には、何をやっても納得する気がない。揚げ足を取って、その時だけ留飲をさげる。……年一回の祭りだからだ。先祖は呆れるだろうが」
「心の方はどうなんだ?せっかく体調が良くなった。カウンセラーへも通っていないだろう」
「弟には肩の荷を持たせたくない。やっと決心がついた。北岡先生のところで自信がついたからだ。……そりゃあ、打ちのめされたぞ?俺よりも年下の奴が伸びて、アシスタント仲間からも一目を置かれている。……そんな時に、北岡先生から励まされた。年齢がなんだ、ゆっくり大きくなれと……」
「それでいいのか?」
「そういう事だ。分かったか!」
鼻息を荒くして言い切られた。そして、俺のことを抱き寄せた。頬に触れた肩は力強そうで、子供時代の憧れだった。
「圭一。俺が悪かった。ずっと堪えてきただろう」
「兄さん……」
「二葉ちゃんが泣いていた。お前に黙っているのは悪いと。夏樹君は堪えてきた」
「何の話だ?……黙っていたのか」
「お前に荷物を持たせたくないからだ」
それは二年前のことだと教えられた。父が二葉と初対面をした後、その日の夜、二葉が泣きながら夏樹に電話をかけた。”お父さんに会いたいから協力してくれ”と。都内での生活が落ち着くまでは、現金もキャッシュカードも持たせなかった時期だ。
「夏樹君はお前に黙っていた。二葉ちゃんをここにいるように説得した後、罪悪感を持っていたはずだ。あの頃は、心が切羽詰まっていたんだろう?お前の顔色が悪かった。母親を奪った男のことで……」
もう我慢するな。そう言われた後、頭を撫でられた。こうしたかったんだぞと呟きながら。
この年でどういうことだ?嬉しいという気持ちが起きた後、胸のつっかえが消え去った。
0
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
没落令息はクラスメイトの執着に救われる
夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。
「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。
アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる