上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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9-1 2人の休日

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 1月26日、土曜日。22時。

 まとまりついて来た ”スケベじじい” を書斎へ連れて行き、リビングへ降りてきた。やる気を出せば、ムードのある触り方をするくせに、いやらしく腰を撫で上げられたからだ。俺の気持ちを和ませて、コントロールしてくれているのだろう。黒崎にとっては大事なことに違いない。

 俺の部屋は通称 ”絵本部屋” という。書斎のようなプライベート空間だ。机を置いてあるから勉強ができる。しかしそうせずに、リビングの住人になっている。俺まで部屋に籠ると、すれ違いそうだからだ。一番の理由はこれだ。キッチンが近いから便利だし、何よりも落ち着く。居心地がいい。

「るるるー、2年8カ月前に引っ越してきた~。お婿にきたんだよー、石頭と一緒に~、バックオーライー」

 今朝から喉の調子がいい。発声練習をした時も伸びがよく、身体も軽かった。何とか維持していきたい。何かがいいのだと思って探っている。温まる食材、天気、お風呂の時間、軽いウォーキング。畑の世話は、午後の日の高い時間にやっている。どれを組み合わせても変わりない。

「収録の後は調子がいいかも。黒崎さんが纏わりつくからかな……」

 レコーディング収録後の、喉を休ませた後だからいいのかな?今日はその3日後に当たる。それらを羽音さんへ聞いているところだ。ラインや電話を気軽に出来るようになった。先輩なのに気軽に接してもらえる。来月には悠人との3人で、観光スポット紹介の番組収録がある。お互いに楽しみにしている。

 よいしょっと。絵本の原稿を書き終えた後、お茶を淹れに行った。悠人から貰ったほうじ茶の缶を開けた。香ばしい匂いが広がり、ため息をついた。

「ふう。ひと段落ついたなぁ。ウーーン」

 大きく伸びをした後、ラインの着信が聞こえた。マネージャーの長谷部さんか悠人だろう。さっそく見に行くと、羽音さんからだった。それを読んだ後、一気に顔が熱くなってしゃがみ込んだ。お見通しというのか。こう書いてあったからだ。

(収録した2、3日後にイチャついた?それが理由だと思う)

「ヒャーーッ。なんてことを言うんだよ~。“イチャついたのは、少しだけでした”。送信……。ああ、もう返信がきたのか……」
「ええ?ああー。”精神的に落ち着くという意味だよ。それも有効だと思うけど。ほどほどに”……だってさ。ヒャーーーッ」

 さらに顔が熱くなった。自己申告するなんて、恥ずかしすぎる。しかもスタンプまで返って来た。グッドだった。あっけらかんとした性格に助けられたのか、そうでないような。

 こういう時には顔を冷やすにかぎる。頭の温度が上がって危ないそうだ。ふらふらしたから、急がないといけない。布きんを濡らして手早く絞り、顔を覆った。こういう使い道があるから、多めにストックしてある。すぐに温まったから、新しい布きんで覆った。匂いが付いているから、煮沸消毒がいいかも知れない。

(溜まったなあ。明日やるか……)

 キッチンの端にあるカゴを見つめた。実家に居るときは面倒だったが、すっかり板についた。それもこれも、黒崎の苦手分野だからだ。バターを塗ろうとして、床に落とすことは珍しくない。そういうところも可愛い。

(ふふん。俺がついていないとさ~)

 胸がキュンとした後、一昨日のことを思い出した。加湿器の水タンクを洗っていると、黒崎に取られてしまった。これぐらいなら洗うぞと。俺の指先にささくれがあったからだ。綺麗な手を大事にしたいと言われた。

「ヒョーーッ。手だけじゃないってさ~」

 バシバシ。感極まり布きんでカウンターを叩いた。いっそう全身が熱くなり窓辺に立った。何となく煉瓦道を眺めると、プランターの三つ葉が風に揺れていた。
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