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14時。
荷解きや片づけは、ほぼ完了した。後は暮らすうちに並べ替えるぐらいだ。まずはひと休憩しようと、買ってきたお茶を飲んでいる。
まだ冷蔵庫が冷えていないから、クーラーボックスに冷たい飲み物を入れてある。真羽は自炊派だ。この新居の周辺には飲食店が多いから、たまには外食すると言って、楽しそうにしている。
大学寮は家具が用意されていたし、真羽自身が荷物の少ないタイプだ。夕方までかかる予定で来たけれど、すぐに荷物が片付き、手持ち無沙汰になった。
片付けは伊吹の得意分野だから、早く終わった。俺との息も合った。実家では分担して家事をやっていたから、お互いのリズムを掴んでいることも理由だ。
(顔も似ているし、片付けのやり方も、動き方も似ているって言われた。否定できないよー)
そんなことはないだろうと思っても、同じ答えが出てくる。嫌っていないし尊敬もしている。かなわない存在だと思っている。しかし、それでも、この暑苦しさには倒れそうだ。黒崎に話しかけている。
「夏樹はっ。片付けが得意なんです。小さい頃から教えたからでしょう。保育園児のうちからハンカチのたたみ方を教えておけば、習慣化しますから」
「……有り難いことだ。おかげで物が多い我が家が片付いている」
「黒崎さんは荷物が少ないタイプでしょう?その点うちの弟は、整頓上手な分だけ荷物が多い。それをクリアする腕を育てたのは俺です。いやーー、どこへ出しても恥ずかしくない子でして」
「……黒崎家としても同じ意見だ。近所の女性達から可愛がられている」
「夏樹はっ。俺の後ろを追いかけてくる子でして。井戸端会議のコツを知らず知らずのうちに身に着けたのでしょう。うひゃひゃ。三輪車に乗り込み、集まりに参加してですね……」
「やめろって。真羽、真に受けるなって」
真羽は納得している様子だ。弟思いのいい兄貴で羨ましいと言っている。すると、伊吹が気を良くして、俺に聞いてきた。理学部での様子はどうだ?いじめっ子はいないのか?と。そして、量子学の神仙教授はクセが悪いが、決して悪い人物ではない。俺がそうさせたからだと言った。
「お兄ちゃん、何かしたのかよ?」
「夏樹!兄として当然のことだ。お前の話題を出して、会食の場を盛り上げている。これぐらいのサポートはさせてもらいたい」
「何の話をしているんだよ~」
「ドイツの出版社でも話題になった。……バーテルス氏の従兄弟が留学しているのか!?ノア君というのか。真羽、ぜひとも紹介してくれたまえ。同じ学科なのか」
「本人は人見知りでして」
さすがに空気を読んだのか、真羽がやんわりと断ってくれた。ノアは伊吹の評判を知っていて、ドン引きしていた。あまり会いたくないだろう。しかし、バーテルスさんの方は伊吹に興味深々であり、プライベートで会いたいと話していた。
それを盗み聞きしたのか、伊吹は知っていた。弟子の二葉が会いたがっているという、断りづらい口実まで持ち出した。たしかに俺にも言っていたから、否定してツッコめない。
「黒崎さんっ。バーテルス氏を紹介してください。来月、ドイツへ向かうので」
「彼は多忙だ。すれ違いが多い」
「羽音さんが、バーテルス氏との会食の席を予定していると、情報を得ましたが」
「ええ?」
「ひいいいいっ」
伊吹の情報量に悠人が悲鳴を上げた。まさかその会食に割り込むつもりだろうか。できれば静かにしていてもらいたいのに。すると、悲鳴を上げた悠人に伊吹が微笑みかけた。
「悠人君!俺としては喜ばしい評価だ。……25歳の若き経営者は、古狸から下手に見られる。最近はメディアが持ち上げてきたけどな!……君たちとの繋がりで、佐伯久弥氏への顔つなぎをしてもらいたい。……黒崎製菓グループと千尋製菓さんには圧力をかけたから、俺一人の力でお前達を守り、ビビらせたいわけだ!」
「リスペクトするよーー」
悠人が感激した。まるで伊吹の独演会の状況になった。そろそろお開きにして帰るべきだろう。タイミングを見計らうことなどない。
「お兄ちゃんの演説は、もうお腹いっぱいだよ。ここでお開きにしようね」
「夏樹!いつからそんな悪い子になったんだ?お兄ちゃんの話を聞きたがっていたじゃないか。小学校に上がった時、どんな風なのかと……」
「諸行無常だよ。あの時の俺は、あの時に存在したのであって、今の俺ではないんだ」
「うぬぬぬ……」
「せっかくだ。みんなで食事に行こう」
「はーい!やったー」
黒崎が皆のことを食事に誘い、上手く矛先を変えることに成功した。
そして、エントランスを出て、マンションを見上げた。
名前は“ニュームーン”だ。
引越し作業が無事に終わり、新しい生活が始まる。
荷解きや片づけは、ほぼ完了した。後は暮らすうちに並べ替えるぐらいだ。まずはひと休憩しようと、買ってきたお茶を飲んでいる。
まだ冷蔵庫が冷えていないから、クーラーボックスに冷たい飲み物を入れてある。真羽は自炊派だ。この新居の周辺には飲食店が多いから、たまには外食すると言って、楽しそうにしている。
大学寮は家具が用意されていたし、真羽自身が荷物の少ないタイプだ。夕方までかかる予定で来たけれど、すぐに荷物が片付き、手持ち無沙汰になった。
片付けは伊吹の得意分野だから、早く終わった。俺との息も合った。実家では分担して家事をやっていたから、お互いのリズムを掴んでいることも理由だ。
(顔も似ているし、片付けのやり方も、動き方も似ているって言われた。否定できないよー)
そんなことはないだろうと思っても、同じ答えが出てくる。嫌っていないし尊敬もしている。かなわない存在だと思っている。しかし、それでも、この暑苦しさには倒れそうだ。黒崎に話しかけている。
「夏樹はっ。片付けが得意なんです。小さい頃から教えたからでしょう。保育園児のうちからハンカチのたたみ方を教えておけば、習慣化しますから」
「……有り難いことだ。おかげで物が多い我が家が片付いている」
「黒崎さんは荷物が少ないタイプでしょう?その点うちの弟は、整頓上手な分だけ荷物が多い。それをクリアする腕を育てたのは俺です。いやーー、どこへ出しても恥ずかしくない子でして」
「……黒崎家としても同じ意見だ。近所の女性達から可愛がられている」
「夏樹はっ。俺の後ろを追いかけてくる子でして。井戸端会議のコツを知らず知らずのうちに身に着けたのでしょう。うひゃひゃ。三輪車に乗り込み、集まりに参加してですね……」
「やめろって。真羽、真に受けるなって」
真羽は納得している様子だ。弟思いのいい兄貴で羨ましいと言っている。すると、伊吹が気を良くして、俺に聞いてきた。理学部での様子はどうだ?いじめっ子はいないのか?と。そして、量子学の神仙教授はクセが悪いが、決して悪い人物ではない。俺がそうさせたからだと言った。
「お兄ちゃん、何かしたのかよ?」
「夏樹!兄として当然のことだ。お前の話題を出して、会食の場を盛り上げている。これぐらいのサポートはさせてもらいたい」
「何の話をしているんだよ~」
「ドイツの出版社でも話題になった。……バーテルス氏の従兄弟が留学しているのか!?ノア君というのか。真羽、ぜひとも紹介してくれたまえ。同じ学科なのか」
「本人は人見知りでして」
さすがに空気を読んだのか、真羽がやんわりと断ってくれた。ノアは伊吹の評判を知っていて、ドン引きしていた。あまり会いたくないだろう。しかし、バーテルスさんの方は伊吹に興味深々であり、プライベートで会いたいと話していた。
それを盗み聞きしたのか、伊吹は知っていた。弟子の二葉が会いたがっているという、断りづらい口実まで持ち出した。たしかに俺にも言っていたから、否定してツッコめない。
「黒崎さんっ。バーテルス氏を紹介してください。来月、ドイツへ向かうので」
「彼は多忙だ。すれ違いが多い」
「羽音さんが、バーテルス氏との会食の席を予定していると、情報を得ましたが」
「ええ?」
「ひいいいいっ」
伊吹の情報量に悠人が悲鳴を上げた。まさかその会食に割り込むつもりだろうか。できれば静かにしていてもらいたいのに。すると、悲鳴を上げた悠人に伊吹が微笑みかけた。
「悠人君!俺としては喜ばしい評価だ。……25歳の若き経営者は、古狸から下手に見られる。最近はメディアが持ち上げてきたけどな!……君たちとの繋がりで、佐伯久弥氏への顔つなぎをしてもらいたい。……黒崎製菓グループと千尋製菓さんには圧力をかけたから、俺一人の力でお前達を守り、ビビらせたいわけだ!」
「リスペクトするよーー」
悠人が感激した。まるで伊吹の独演会の状況になった。そろそろお開きにして帰るべきだろう。タイミングを見計らうことなどない。
「お兄ちゃんの演説は、もうお腹いっぱいだよ。ここでお開きにしようね」
「夏樹!いつからそんな悪い子になったんだ?お兄ちゃんの話を聞きたがっていたじゃないか。小学校に上がった時、どんな風なのかと……」
「諸行無常だよ。あの時の俺は、あの時に存在したのであって、今の俺ではないんだ」
「うぬぬぬ……」
「せっかくだ。みんなで食事に行こう」
「はーい!やったー」
黒崎が皆のことを食事に誘い、上手く矛先を変えることに成功した。
そして、エントランスを出て、マンションを見上げた。
名前は“ニュームーン”だ。
引越し作業が無事に終わり、新しい生活が始まる。
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