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16-14(黒崎視点)
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12時半。
大会議室を出て、エレベータへ直行した。午前中は新入社員向けの研修が行われた。短時間の講義を担当した後、役員会議と、月一度の戦略会議へ出席した。昨夜のうちに資料を読んでおいた分、スムーズに回った。
これで心置きなくスマホ撮影による”ライブ中継” を見ることができる。学食内の撮影を、悠人には快く引き受けてもらえた。その彼からラインが入り、これから放送を始めると書いてある。
(便利なシステムだ。怜がやっているのか……)
夏樹から聞いたことがあった。怜は動画を作るために、料理を作ったり街を歩いたりしているそうだ。全く興味がなく、気に留めていなかった。自撮りで中継可能だというから、夏樹にやらせてみたい。それならば留守の間も安心だ。料理を作る間はどうだろうか。スタンドに立てかけてあれば問題ない。
あと2週間で別れる営業企画部のオフィスへ入ると、社員の姿がまばらになっていた。昼休憩時間に入ったからだ。慌ただしい午前中が落ち着いたようだ。
役員室のデスクに戻った後、ランチボックスを広げて、スマホをスタンドに掛けた。これで完了だ。メッセージカードを読むと、”お兄ちゃんの弁当”がテーマだと書かれてある。
(どの兄貴のことだ?ああ、伊吹君なのか。豆腐のハンバーグ、煮つけ、野菜類が多いのか……)
初めて彼の好みを知った。ゆっくり落ち着いて食事をした機会が、一度もない。同じ都内に住んでいるというのに。この間のように、家に呼ぶと騒がしい。半個室のあの店がいいだろうと思い描いた。
ライブ中継を眺めながらスケジュールを確認すると、夏樹の誕生日後がいいようだ。さっそく伊吹にメールを送り、今回の件も書き添えた。
(これでよし。ああ、夏樹が紹介されている。顔を上げているじゃないか。会話も聞こえるのか。人と話すのが苦手な子はこっちにおいで……、か)
司会の女子学生が夏樹のことを紹介した。周りに新入生が集まり、段取りよくレクチャーを始めた。高校生のような生徒が緊張しながら、夏樹の前に並んでいる。頬が紅潮しているのは、TDDのヴォーカルを前にしているからだろうか。
すると、スピーカーから悠人の声が流れて来た。会話は出来る。さらに臨場感を味わえる。
「『黒崎さん。順調に進んでいます。小食男子が夏樹の周りに集まっています……。いい雰囲気なので、アップにしまーす!』」
夏樹の笑顔がクローズアップされた。どの相手にも自然に振る舞っている。妙に胸が痛むのは、成長を見届けているからなのか。たまに顔を赤くするのが可愛らしい。適度に引っ込み思案でいてもらいたい。
いつものトラ顔のTシャツと浅草で買ったパーカーを着ている。卒業すれば、このファッションが見られなくなる日が来るのか。家の中では着てもらいたい。初めての思いだ。この中継は録画ができるそうだ。中山の両親へ知らせておく。そろそろ定期報告の時期だ。
「『ああー、なつきー。戻って来いよ!すみません。出入口へ行ってきます。森本、持っていてよ』」
「『俺の方が行って来る。黒崎さんへ説明しておけ。驚くぞ。なつきー、とまれ!』」
背中に冷たい汗が流れる感覚が起きた。この学食内でトラブルが起きたのか?床を映している以上、何も分からない。まずはひと呼吸おくと、状況の説明が入って来た。出入り口で騒ぎが起こり、夏樹が助けに行こうとしたところ、TDDのファンの新入生達の悲鳴であり、全員無事だったそうだ。
大会議室を出て、エレベータへ直行した。午前中は新入社員向けの研修が行われた。短時間の講義を担当した後、役員会議と、月一度の戦略会議へ出席した。昨夜のうちに資料を読んでおいた分、スムーズに回った。
これで心置きなくスマホ撮影による”ライブ中継” を見ることができる。学食内の撮影を、悠人には快く引き受けてもらえた。その彼からラインが入り、これから放送を始めると書いてある。
(便利なシステムだ。怜がやっているのか……)
夏樹から聞いたことがあった。怜は動画を作るために、料理を作ったり街を歩いたりしているそうだ。全く興味がなく、気に留めていなかった。自撮りで中継可能だというから、夏樹にやらせてみたい。それならば留守の間も安心だ。料理を作る間はどうだろうか。スタンドに立てかけてあれば問題ない。
あと2週間で別れる営業企画部のオフィスへ入ると、社員の姿がまばらになっていた。昼休憩時間に入ったからだ。慌ただしい午前中が落ち着いたようだ。
役員室のデスクに戻った後、ランチボックスを広げて、スマホをスタンドに掛けた。これで完了だ。メッセージカードを読むと、”お兄ちゃんの弁当”がテーマだと書かれてある。
(どの兄貴のことだ?ああ、伊吹君なのか。豆腐のハンバーグ、煮つけ、野菜類が多いのか……)
初めて彼の好みを知った。ゆっくり落ち着いて食事をした機会が、一度もない。同じ都内に住んでいるというのに。この間のように、家に呼ぶと騒がしい。半個室のあの店がいいだろうと思い描いた。
ライブ中継を眺めながらスケジュールを確認すると、夏樹の誕生日後がいいようだ。さっそく伊吹にメールを送り、今回の件も書き添えた。
(これでよし。ああ、夏樹が紹介されている。顔を上げているじゃないか。会話も聞こえるのか。人と話すのが苦手な子はこっちにおいで……、か)
司会の女子学生が夏樹のことを紹介した。周りに新入生が集まり、段取りよくレクチャーを始めた。高校生のような生徒が緊張しながら、夏樹の前に並んでいる。頬が紅潮しているのは、TDDのヴォーカルを前にしているからだろうか。
すると、スピーカーから悠人の声が流れて来た。会話は出来る。さらに臨場感を味わえる。
「『黒崎さん。順調に進んでいます。小食男子が夏樹の周りに集まっています……。いい雰囲気なので、アップにしまーす!』」
夏樹の笑顔がクローズアップされた。どの相手にも自然に振る舞っている。妙に胸が痛むのは、成長を見届けているからなのか。たまに顔を赤くするのが可愛らしい。適度に引っ込み思案でいてもらいたい。
いつものトラ顔のTシャツと浅草で買ったパーカーを着ている。卒業すれば、このファッションが見られなくなる日が来るのか。家の中では着てもらいたい。初めての思いだ。この中継は録画ができるそうだ。中山の両親へ知らせておく。そろそろ定期報告の時期だ。
「『ああー、なつきー。戻って来いよ!すみません。出入口へ行ってきます。森本、持っていてよ』」
「『俺の方が行って来る。黒崎さんへ説明しておけ。驚くぞ。なつきー、とまれ!』」
背中に冷たい汗が流れる感覚が起きた。この学食内でトラブルが起きたのか?床を映している以上、何も分からない。まずはひと呼吸おくと、状況の説明が入って来た。出入り口で騒ぎが起こり、夏樹が助けに行こうとしたところ、TDDのファンの新入生達の悲鳴であり、全員無事だったそうだ。
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