上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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 寝室のベッドに寝転がった。さすがにクーラーを付けたのは、ベッドに熱がこもっているからだ。これでも体温が落ち着いたのかと、ぼんやりしながら、黒崎の胸の上へ這いあがった。腕の中で微睡むと暑いからだ。だからといって、離れて寝転がる気はない。

 汗ばんだ肌が気持ち良くて頬ずりすると、笑い声が伝わって来た。顔を上げる力が残っていなくて、抱きついて生返事をした。

「どうしたの……?」
「汗を嫌がったことが無い。スーツを脱いだ時でもだ」
「いい匂いがするから好きだよ。何か言われたの?誰にだよ?」
「当ててみろ。一人しかいない」
「二葉か……。男しかいないもんね。笑っていたよ」
「お前から言われたことがある。酒くさいと」
「それは意味が違うよ~。傷つくなって。体臭が少ない方だから良かったね。人に会う機会が多いから」
「体臭は強い方だぞ。……こっちにおいで」

 抱き上げるようにして腕の中に包まれた。わざと肌が触れ合うようにされて、吹き出して笑った。信じていないのか?と。大学の授業で学んだ結果、匂いの好みは、根っからの相性の良さがあるという話だ。

 腕枕状態から右へバランスを取って転がり、胸の上に戻ってやった。それを今度は押し戻されて、端の方に転がってやった。ベッドが広めだから落ちなくて済む。

 すると、危ないからだと腕が伸びて来た後、足元へ移動した。そして、シーツを頭から被って防御した。黒崎の方も本気だ。

「足をくすぐるなよー、ひゃひゃーー、やめろって」
「だったら出て来い。もう一度、抱きたい」
「動けなくなるからさ。激しくないけど……、力が抜けるから」
「もっと時間をかけたい。逃げるな。足を……」

 油断した隙にシーツを取られて、足首を捕らえられた。踝や足首へ熱い息がかかり、思わず声が漏れそうになった。

 その不意を突かれて、両手首を頭の上で押さえ込まれてしまった。右足で押しのけても、笑いながら動きを封じられた。本気にならなくても、この力だ。黒崎の力の強さを感じた。

「試したいことがある。お前は何もせずに寝ていればいい」
「……手首を縛るの?どうして?」

 何を言い出したのか?と、見つめ返した。黒崎が笑い声を立てながら、耳元で説明して来た。それは変態的な内容だった。

「何を……、あんたねえ……」
「手を置いたままにするのと同じことだ」
「……ネクタイは、仕事のアイテムだろ?邪なことに使ったらダメだよっ」
「使っていないものを選ぶ。エプロンを着けてくれた時があったじゃないか」
「あの一回だけだよ。後悔したんだからね。朝方まで……」
「……今回は何もしない。そういう姿を見るだけだ。短時間で構わない」
「5分だけでも眺めたいってこと?もっと変態だよっ。もう起きるからね、ふん……」
「分かった。やらない」
「キッチンへ行くからね!シャワーを浴びて来たいし。しばらく降りてこないでねー」

 振り返らずに起き上がると、両腕が伸びて来て引き戻された。苦笑しながら謝られても無駄だ。唇を啄んでは文句を吸い取られて、さらに笑い声が立てられた。

「わざとだろ?俺のことを怒らせてさ~」
「元気が出たじゃないか。夕方まで我儘を聞いてやる」
「だったら言わないよ。夕方までには機嫌を直すから……」
「俺のことを労ってくれ。楽しみの一つだ」
「だったら、一人でスーパーへ行って来る。叶えてよ」
「一緒に行く。シャワーを手伝ってやろうか?」
「エロい笑い方をするなよ。ふん……」

 軽く睨みつけた先には、いけない魔力を放った大魔王がいる。気だるそうに首を動かしては、ため息をついている。その姿に騙されないように、そそくさと寝室を出た。
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