上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

文字の大きさ
479 / 514

27-19

しおりを挟む
 パタン……。

 リビングの扉を閉めた。俺と黒崎が代表して迎えに行くために。ガラス越しに見えるのは、羽音さんが紅茶を振舞っている光景だ。お義父さんが恐縮しているのが意外だった。

「お前の先輩だからだ。そういう人だ」
「そっか……」
「相手の年齢は関係ない。二葉のことも尊敬しているはずだ。そういう人になった」
「黒崎さん……」

(そういう目で見られるのか。俺も尊敬するよ。さすがだね。言わないでおこう……)

 この大きな透明ガラスのドアは、半年前に取り付け直した。お義父さんからの提案だった。古びていたし、重すぎて疲れるという理由だった。

 その結果、リビングに家族が出入りするようになった。どういう感じで過ごしているのかが分かるからだ。そこまで昔はいびつな空気を漂っていたそうだ。賑やかに話をしていても。

「前のドアの時代ってさ。お互いに何度話しかけただろうね?」
「……何の話をしただろうな。分厚いドアだ。ノック音も聞こえないぐらいだったぞ」
「そう?聞こえていたよ?そっか。遠慮がちにコンコンやったのか」
「そもそも誰も集まらないリビングだった。拓海兄さんは忙しすぎた。……純白叔母さんの家で、仕事を手伝っていたとは聞いた。居心地がよかっただろう」
「今の家を見たら驚きそうだね。……うん。過去は変えられない」

 どうしてだろう。胸がドキッとした。自分自身のトラウマは和らいだのに。カメラマンも記者も怖くなくなった。仕事相手として感謝している。達也のことも記憶から流しだした。たまに思い出すだけだ。

 しかし、実家の家族がバラバラになりそうな時に、さらにその道筋を作った人たちの顔が浮かんでしまう。今まで思い出さないように努力してきたのに。父方の祖父母の姿を。

 一番力になるはずの年上の人だった。弱い立場の母を傷つけて、母親としての存在を否定した。どうしてこんな時に思い出すのだろう?

「中山のおじいちゃん達の顔が浮かんだよ。こんなときに……」
「後で話を聞いても構わないか?後にしろという意味じゃないぞ」
「うん。ありがとう。ああーー、やっぱり籠っているね」

 頭の中から消えてしまった。ふわっと身体が軽くなった時に、キッチンから漏れている灯りに気がついた。二葉がいる証拠だ。昼間以外は、常に電気をつけて過ごしている。

「まだ電気をつけっぱなしで寝ているようだ。親父がそうしろと言った。いい面もあるだろう?」
「うん。もう癖になっているそうだよ。怖くないのになーって」
「お前には話すのか。そういう役目だ」 
「そうだよ~。深く考えるなよ!心地のいい距離感ってやつだよ。うんうん。悠人から聞いた言葉を使ったんだ」

 久田家は、それぞれの価値観の違いで混乱して壊れてしまったと話してくれた。お互いに争わずに居場所を見つけて距離を置き、気が合うなら近づく。どちらでも構わない距離感が心地いいと教えてもらった。

 ほんの数歩進めばキッチンに到着する位置に立ち、この思い浮かんだことを黒崎に話した。珍しく興味ありげな顔をされた。傷つかない。もう慣れた。

「黒崎さんが反応したよ。満足したよ。さあー、コンコン!」
「出てこないじゃないか。……いないのか」
「すれ違うわけがないのにね。電気をつけっぱなしだよ。出る時は……。いたいた。ふたばーー、大丈夫?」

 二葉がキッチンカウンターのそばに立ち、真っ赤な顔をしていた。そのカウンターには和菓子が置かれていた。それは、お義父さんが好きな葛餅だった。買ってきてくれたのだろう。ショゲているから、元気づけようとしたのか?

「いきなりごめんね。お義父さんに持って行く分だろ?喜ぶよ」
「……ここで話しておきたい。俺にとって、お父さんは一人しかいない。"おじいちゃん"としか呼べない。だからこれを持って行く。せめて……。圭一お兄ちゃん。それでもいい?」
「そうしろ。はっきり言う性格が気持ちいい」
「おーー……。いて!コノヤローー」

 黒崎が二葉の背中をバシ!と叩いた。まるっきり男扱いだ。二葉が嬉しそうに叩き返して笑った。そして、和菓子を持って、キッチンを出て行った。

(かっこいいな……)

 色んなことを乗り越えてきた人の後ろ姿を眺めた。すーっと伸びた背筋が綺麗で、かっこよさを醸し出していた。頼りになる兄貴が増えた。そう実感した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのアルフレッドが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 アルフレッドの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...