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パタン……。
リビングの扉を閉めた。俺と黒崎が代表して迎えに行くために。ガラス越しに見えるのは、羽音さんが紅茶を振舞っている光景だ。お義父さんが恐縮しているのが意外だった。
「お前の先輩だからだ。そういう人だ」
「そっか……」
「相手の年齢は関係ない。二葉のことも尊敬しているはずだ。そういう人になった」
「黒崎さん……」
(そういう目で見られるのか。俺も尊敬するよ。さすがだね。言わないでおこう……)
この大きな透明ガラスのドアは、半年前に取り付け直した。お義父さんからの提案だった。古びていたし、重すぎて疲れるという理由だった。
その結果、リビングに家族が出入りするようになった。どういう感じで過ごしているのかが分かるからだ。そこまで昔はいびつな空気を漂っていたそうだ。賑やかに話をしていても。
「前のドアの時代ってさ。お互いに何度話しかけただろうね?」
「……何の話をしただろうな。分厚いドアだ。ノック音も聞こえないぐらいだったぞ」
「そう?聞こえていたよ?そっか。遠慮がちにコンコンやったのか」
「そもそも誰も集まらないリビングだった。拓海兄さんは忙しすぎた。……純白叔母さんの家で、仕事を手伝っていたとは聞いた。居心地がよかっただろう」
「今の家を見たら驚きそうだね。……うん。過去は変えられない」
どうしてだろう。胸がドキッとした。自分自身のトラウマは和らいだのに。カメラマンも記者も怖くなくなった。仕事相手として感謝している。達也のことも記憶から流しだした。たまに思い出すだけだ。
しかし、実家の家族がバラバラになりそうな時に、さらにその道筋を作った人たちの顔が浮かんでしまう。今まで思い出さないように努力してきたのに。父方の祖父母の姿を。
一番力になるはずの年上の人だった。弱い立場の母を傷つけて、母親としての存在を否定した。どうしてこんな時に思い出すのだろう?
「中山のおじいちゃん達の顔が浮かんだよ。こんなときに……」
「後で話を聞いても構わないか?後にしろという意味じゃないぞ」
「うん。ありがとう。ああーー、やっぱり籠っているね」
頭の中から消えてしまった。ふわっと身体が軽くなった時に、キッチンから漏れている灯りに気がついた。二葉がいる証拠だ。昼間以外は、常に電気をつけて過ごしている。
「まだ電気をつけっぱなしで寝ているようだ。親父がそうしろと言った。いい面もあるだろう?」
「うん。もう癖になっているそうだよ。怖くないのになーって」
「お前には話すのか。そういう役目だ」
「そうだよ~。深く考えるなよ!心地のいい距離感ってやつだよ。うんうん。悠人から聞いた言葉を使ったんだ」
久田家は、それぞれの価値観の違いで混乱して壊れてしまったと話してくれた。お互いに争わずに居場所を見つけて距離を置き、気が合うなら近づく。どちらでも構わない距離感が心地いいと教えてもらった。
ほんの数歩進めばキッチンに到着する位置に立ち、この思い浮かんだことを黒崎に話した。珍しく興味ありげな顔をされた。傷つかない。もう慣れた。
「黒崎さんが反応したよ。満足したよ。さあー、コンコン!」
「出てこないじゃないか。……いないのか」
「すれ違うわけがないのにね。電気をつけっぱなしだよ。出る時は……。いたいた。ふたばーー、大丈夫?」
二葉がキッチンカウンターのそばに立ち、真っ赤な顔をしていた。そのカウンターには和菓子が置かれていた。それは、お義父さんが好きな葛餅だった。買ってきてくれたのだろう。ショゲているから、元気づけようとしたのか?
「いきなりごめんね。お義父さんに持って行く分だろ?喜ぶよ」
「……ここで話しておきたい。俺にとって、お父さんは一人しかいない。"おじいちゃん"としか呼べない。だからこれを持って行く。せめて……。圭一お兄ちゃん。それでもいい?」
「そうしろ。はっきり言う性格が気持ちいい」
「おーー……。いて!コノヤローー」
黒崎が二葉の背中をバシ!と叩いた。まるっきり男扱いだ。二葉が嬉しそうに叩き返して笑った。そして、和菓子を持って、キッチンを出て行った。
(かっこいいな……)
色んなことを乗り越えてきた人の後ろ姿を眺めた。すーっと伸びた背筋が綺麗で、かっこよさを醸し出していた。頼りになる兄貴が増えた。そう実感した。
リビングの扉を閉めた。俺と黒崎が代表して迎えに行くために。ガラス越しに見えるのは、羽音さんが紅茶を振舞っている光景だ。お義父さんが恐縮しているのが意外だった。
「お前の先輩だからだ。そういう人だ」
「そっか……」
「相手の年齢は関係ない。二葉のことも尊敬しているはずだ。そういう人になった」
「黒崎さん……」
(そういう目で見られるのか。俺も尊敬するよ。さすがだね。言わないでおこう……)
この大きな透明ガラスのドアは、半年前に取り付け直した。お義父さんからの提案だった。古びていたし、重すぎて疲れるという理由だった。
その結果、リビングに家族が出入りするようになった。どういう感じで過ごしているのかが分かるからだ。そこまで昔はいびつな空気を漂っていたそうだ。賑やかに話をしていても。
「前のドアの時代ってさ。お互いに何度話しかけただろうね?」
「……何の話をしただろうな。分厚いドアだ。ノック音も聞こえないぐらいだったぞ」
「そう?聞こえていたよ?そっか。遠慮がちにコンコンやったのか」
「そもそも誰も集まらないリビングだった。拓海兄さんは忙しすぎた。……純白叔母さんの家で、仕事を手伝っていたとは聞いた。居心地がよかっただろう」
「今の家を見たら驚きそうだね。……うん。過去は変えられない」
どうしてだろう。胸がドキッとした。自分自身のトラウマは和らいだのに。カメラマンも記者も怖くなくなった。仕事相手として感謝している。達也のことも記憶から流しだした。たまに思い出すだけだ。
しかし、実家の家族がバラバラになりそうな時に、さらにその道筋を作った人たちの顔が浮かんでしまう。今まで思い出さないように努力してきたのに。父方の祖父母の姿を。
一番力になるはずの年上の人だった。弱い立場の母を傷つけて、母親としての存在を否定した。どうしてこんな時に思い出すのだろう?
「中山のおじいちゃん達の顔が浮かんだよ。こんなときに……」
「後で話を聞いても構わないか?後にしろという意味じゃないぞ」
「うん。ありがとう。ああーー、やっぱり籠っているね」
頭の中から消えてしまった。ふわっと身体が軽くなった時に、キッチンから漏れている灯りに気がついた。二葉がいる証拠だ。昼間以外は、常に電気をつけて過ごしている。
「まだ電気をつけっぱなしで寝ているようだ。親父がそうしろと言った。いい面もあるだろう?」
「うん。もう癖になっているそうだよ。怖くないのになーって」
「お前には話すのか。そういう役目だ」
「そうだよ~。深く考えるなよ!心地のいい距離感ってやつだよ。うんうん。悠人から聞いた言葉を使ったんだ」
久田家は、それぞれの価値観の違いで混乱して壊れてしまったと話してくれた。お互いに争わずに居場所を見つけて距離を置き、気が合うなら近づく。どちらでも構わない距離感が心地いいと教えてもらった。
ほんの数歩進めばキッチンに到着する位置に立ち、この思い浮かんだことを黒崎に話した。珍しく興味ありげな顔をされた。傷つかない。もう慣れた。
「黒崎さんが反応したよ。満足したよ。さあー、コンコン!」
「出てこないじゃないか。……いないのか」
「すれ違うわけがないのにね。電気をつけっぱなしだよ。出る時は……。いたいた。ふたばーー、大丈夫?」
二葉がキッチンカウンターのそばに立ち、真っ赤な顔をしていた。そのカウンターには和菓子が置かれていた。それは、お義父さんが好きな葛餅だった。買ってきてくれたのだろう。ショゲているから、元気づけようとしたのか?
「いきなりごめんね。お義父さんに持って行く分だろ?喜ぶよ」
「……ここで話しておきたい。俺にとって、お父さんは一人しかいない。"おじいちゃん"としか呼べない。だからこれを持って行く。せめて……。圭一お兄ちゃん。それでもいい?」
「そうしろ。はっきり言う性格が気持ちいい」
「おーー……。いて!コノヤローー」
黒崎が二葉の背中をバシ!と叩いた。まるっきり男扱いだ。二葉が嬉しそうに叩き返して笑った。そして、和菓子を持って、キッチンを出て行った。
(かっこいいな……)
色んなことを乗り越えてきた人の後ろ姿を眺めた。すーっと伸びた背筋が綺麗で、かっこよさを醸し出していた。頼りになる兄貴が増えた。そう実感した。
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