上弦の月の天使~結ばれた約束の夜

夏目奈緖

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28-9(夏樹視点)

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 11月18日、金曜日。午前7時。

 朝を迎えた。黒崎がいない一日が始まる。今、庭の畑に出ている。一貴さんが一緒に居るから出られている。さっきは黒崎と電話で話した。バーテルスさんの怪我は随分と良くなり、痛みも無くなったそうだ。利き手ではなくてよかったと言っていた。

 会食はリラックス出来たようだ。伊吹が去年商談に行った出版社だ。インパクトのある若者だったと、伊吹のことが話題に上ったそうだ。なにせ、現地のイベントに出かけて、カメラとインタビューを頼まれて、会社の宣伝をしたことが知られている。その時、出版社との縁も語ったそうだ。あのガッツが自分に欲しいと、バーテルスさんが言っていたぐらいだ。

「ふう。黒崎さんで良い方に記憶の書き換えをしてもらえたかな?」

 トマトとナスとネギに水をかけた。ホースから柔らかいシャワーが出ている。10月に入り、朝晩の気温が低くなった。水温もそうだろう。来月になったら、ネギに寒さよけのカバーをかける。つい最近やったことのように感じる。一年が経つのは早い。

「今日の晩ご飯は何かな?」

 今日もお義父さんの家でご飯を食べる。山崎さんが作ってくれている。俺も何か差し入れをしようかと考えて、やめておくことにした。黒崎の留守の間はゆっくりする約束だ。

 それにしても、一貴さんは眠くないだろうか。花壇の縁に腰掛けて、空を眺めている。悩んでいるのではないだろう。昨日は藤沢と電話をしていた。笑顔もあった。デートの約束が出来たのだろうか。誘いたい店があると話していた。けっこう長電話だった。

「カズ兄さん~。昨日は藤沢と電話してたじゃん。どうだったんだよ」
「良い感触だった。デートの約束を取り付けた」
「マジで!?」
「ああ。本当だ。修輔君がやっとOKしてくれた。圭一が帰った後の日程を話したら、家族を守ってえらいですねって言ってくれた」
「おめでとう~」

 ホースの水を止めて、一貴さんのそばに行った。そして、ハイタッチをした。すると、アンがそばにやってきた。何か面白いことをしているのだろうかという反応だ。

「アンも聞いてよ~。カズ兄さんが藤沢とデートするんだ」
「ここにも呼びたい。アンとユリウスに会わせたい」
「そうだね。ユリウスとは初めましてだね。たしかそうだよね?」
「いや、プラセルに来てくれた時、一瞬だけ会っている。すれ違いになった」
「そうだったんだね。部屋に呼んで、ハンモックと滑り台を見せてあげたら?藤沢、動物が好きなんだ」
「ああ。夜景を見た帰りになると、遅くなる。また今度になるか」
「夜景?まだ早くない?食事の後でこっちに帰ってきたら?一緒に」
「そうか?そう思うか?」
「うん。抱きつきそうだもん。危ないよ」

 その光景が目に浮かぶ。はっきり言ってしまった。しかし、一貴さんはシュンとなるどころか、背筋を伸ばした。何か言い出すのだろう。

「今回で押しまくるチャンスにする!」
「やめておきなよ~」
「圭一のように押して押して押しまくる」
「何か聞いたの?」
「ああ。君達が付き合うまでの話を聞いた。この間だ」
「黒崎さんが嫌みたらしくて大変だったんだ」
「君に手を焼いていたそうだ」

 たしかにそうだったかも知れない。恥ずかしい話だ。俺も嫌みを言っていた。しかし、藤沢と一貴さんの場合、当てはまらない。年上の一貴さんの方が手が掛かるからだ。いずれにせよ、押しまくるのはやめた方がいいだろう。もう会ってくれなくなるかも知れないからだ。一貴さんの良い面を長い時間をかけて知ってもらいたい。そして、その結果、デートの約束ができたわけだ。
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