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会社の中に入った。社員達が忙しそうに動いている。活気のある社内だ。これから会長室に行く。エレベーターの前で荷物を持ち直した。俺らしくない。緊張しているのか。バーテルス氏は何も言わなかった。
そして、会長室のある階に到着し、重厚なドアの前に立った。俺達のそばには会長秘書がいる。その秘書に伴われて、部屋に入った。
「父は奥の部屋に居るそうだ。もうすぐで出てくる。ゆっくりしてくれ」
「ああ。待たせてもらう」
部屋の中には数多くの写真が飾られていた。目に入る場所に移動させられたのか、出入り近くに俺の写真を見つけた。今日の式典の話題のためだろう。22歳当時の俺だ。日本で撮ったもののはずだ。ここにあるのが不思議だ。
俺の副社長就任時の写真もある。両方とも、大きく引き伸ばされて、額に入れて飾られている。そして、早瀬とバーテルス氏が一緒に写ったものを見つけた。これも大きな額に入れられている。どうして持っているのか。バーテルス氏が黒崎製菓に訪問してきたときに撮ったもののはずだ。
「待たせてすまない」
「お父さん。そう待っていないよ」
奥の部屋から男性が入ってきた。フェリックス氏だ。まずは会釈した。用件はあらかじめ告げてある。形式通りの挨拶を交わした後、応接ソファーに促された。座った後、フェリックス氏と向かい合った。
「写真が多いんですね」
「ああ。記念式典に併せて、写真を増やしました。早瀬君の写真も欲しくて、そちらの広報室に願い出ました。だからあります」
「そうでしたか。まるでプライベートな空間ですね。僕の写真まである」
「君に恨みはないよ。会社の一本化のことでは。君は22歳だったね」
険悪な空気が漂っている。俺のことを恨んでいるのだろう。当時の会社は大きかったが、縮小させてもらった。リッターラグナを残すか、バーテルスビスケットを残すかの選択を迫られた結果、今の形になっている。恨まれる筋合いはない。フェリックス氏もそう言っている。しかし、まるで喧嘩を売られているかのような空気感だ。こんなに感情豊かな人だとは知らなかった。
(裕理の写真が欲しかっただと?いい加減にしろ。いや、放っておけば良い……)
今の気分を表すとしたら、こうだ。胸くそ悪いだ。すると、フェリックス氏が俺の横にある写真を指した。そこにも早瀬の写真がある。会社で撮った物だ。そんなに早瀬に会いたいのか。
こんなに気分の悪い空気を醸し出した中で、写真があると伝えてきたフェリックス氏の意図が分からない。いや、分かる。楽譜を返されるからだ。それは憎たらしく思っている俺から渡されるのが癪に障るのだろう。では、返すとしよう。
「フェリックスさん。あなたにお返しする物があります。早瀬から預かってきました」
テーブルに楽譜を置いた。フェリックス氏が頷いた。
「菜々子さんの死に目に会えなかったことを悔やんでいる。それを早瀬君に伝えてくれ」
「分かりました。本人からは、今は幸せにしていると伝えてくれと頼まれました」
いつまでも菜々子さんが心の中に住んでいるのなら、本人にかわって迷惑だと伝えること。その用件は言わないでおく。これで用件は終わりだ。
すると、バーテルス氏が息をのんだ。視線の先には、俺と早瀬が会社で撮った写真が飾られていた。これはプライベートな写真だ。肩を叩き合って笑っている。昼食中のものもあった。それに気づき、俺より先にバーテルス氏が声を上げた。
「お父さん。いくら何でもプライベートな写真まで求めるのは、どうかしている」
「いくつか頼んだ物の中に入っていた。ここは黒崎製菓グループだ。いいだろう。愛の結晶の美しい子供達だ」
「なんだって?」
聞き返したのは、バーテルス氏だ。どういう意味だと、俺も聞き返したかった。そして、フェリックス氏が言った。早瀬のことをバーテルス家で引き取るつもりがあったことを。それを菜々子さんから拒まれ、拓海兄さんとこの会社が険悪になり、拓海兄さんからは菜々子さんと結婚するつもりがあり、日本から出て行けと言われたと。ガーデンパーティーが彼女と会った最後だったそうだ。
「圭一君。君のお母さんのお招きで、ガーデンパーティーに参加できた。君を見つけたよ。愛されていたじゃないか。愛人の子供ほど愛されるものだ」
その言葉に苛立ちが起きた。よほど俺のことが嫌いなのだろう。そして、フェリックス氏が言った。
「君は愛人の子供だったね」
「ええ……」
「しかし、隆氏が最初の妻との離婚の後、君のお母さんと出会ったそうじゃないか。略奪ではないよ」
「そうでしたか……」
「愛人の子供の方が良かったか?」
「いえ……」
俺が相づちを打つと同時に、バーテルス氏が声を荒げた。
「お父さん!なんて言うことを言うんだ!」
「本当のことじゃないか。早瀬君も愛されていた。僕ではない大人達から」
「お父さん。菜々子さんを騙したことについては、悪いと思っていないのか?」
「恋をしたからだ。妻子があると知られれば、交際を断られるだろう。だから黙っていた。菜々子のことが欲しかった。恋に良いも悪いもない」
「お父さん!お母さんが聞いたらなんて言うか……」
「ユーリー、やめろ……」
バーテルス氏が怒りを露わにした。この悪魔と罵った。この写真を見せて、あなたは何がしたいのか、胸くそ悪いとフェリックス氏を非難した。
そして、会長室のある階に到着し、重厚なドアの前に立った。俺達のそばには会長秘書がいる。その秘書に伴われて、部屋に入った。
「父は奥の部屋に居るそうだ。もうすぐで出てくる。ゆっくりしてくれ」
「ああ。待たせてもらう」
部屋の中には数多くの写真が飾られていた。目に入る場所に移動させられたのか、出入り近くに俺の写真を見つけた。今日の式典の話題のためだろう。22歳当時の俺だ。日本で撮ったもののはずだ。ここにあるのが不思議だ。
俺の副社長就任時の写真もある。両方とも、大きく引き伸ばされて、額に入れて飾られている。そして、早瀬とバーテルス氏が一緒に写ったものを見つけた。これも大きな額に入れられている。どうして持っているのか。バーテルス氏が黒崎製菓に訪問してきたときに撮ったもののはずだ。
「待たせてすまない」
「お父さん。そう待っていないよ」
奥の部屋から男性が入ってきた。フェリックス氏だ。まずは会釈した。用件はあらかじめ告げてある。形式通りの挨拶を交わした後、応接ソファーに促された。座った後、フェリックス氏と向かい合った。
「写真が多いんですね」
「ああ。記念式典に併せて、写真を増やしました。早瀬君の写真も欲しくて、そちらの広報室に願い出ました。だからあります」
「そうでしたか。まるでプライベートな空間ですね。僕の写真まである」
「君に恨みはないよ。会社の一本化のことでは。君は22歳だったね」
険悪な空気が漂っている。俺のことを恨んでいるのだろう。当時の会社は大きかったが、縮小させてもらった。リッターラグナを残すか、バーテルスビスケットを残すかの選択を迫られた結果、今の形になっている。恨まれる筋合いはない。フェリックス氏もそう言っている。しかし、まるで喧嘩を売られているかのような空気感だ。こんなに感情豊かな人だとは知らなかった。
(裕理の写真が欲しかっただと?いい加減にしろ。いや、放っておけば良い……)
今の気分を表すとしたら、こうだ。胸くそ悪いだ。すると、フェリックス氏が俺の横にある写真を指した。そこにも早瀬の写真がある。会社で撮った物だ。そんなに早瀬に会いたいのか。
こんなに気分の悪い空気を醸し出した中で、写真があると伝えてきたフェリックス氏の意図が分からない。いや、分かる。楽譜を返されるからだ。それは憎たらしく思っている俺から渡されるのが癪に障るのだろう。では、返すとしよう。
「フェリックスさん。あなたにお返しする物があります。早瀬から預かってきました」
テーブルに楽譜を置いた。フェリックス氏が頷いた。
「菜々子さんの死に目に会えなかったことを悔やんでいる。それを早瀬君に伝えてくれ」
「分かりました。本人からは、今は幸せにしていると伝えてくれと頼まれました」
いつまでも菜々子さんが心の中に住んでいるのなら、本人にかわって迷惑だと伝えること。その用件は言わないでおく。これで用件は終わりだ。
すると、バーテルス氏が息をのんだ。視線の先には、俺と早瀬が会社で撮った写真が飾られていた。これはプライベートな写真だ。肩を叩き合って笑っている。昼食中のものもあった。それに気づき、俺より先にバーテルス氏が声を上げた。
「お父さん。いくら何でもプライベートな写真まで求めるのは、どうかしている」
「いくつか頼んだ物の中に入っていた。ここは黒崎製菓グループだ。いいだろう。愛の結晶の美しい子供達だ」
「なんだって?」
聞き返したのは、バーテルス氏だ。どういう意味だと、俺も聞き返したかった。そして、フェリックス氏が言った。早瀬のことをバーテルス家で引き取るつもりがあったことを。それを菜々子さんから拒まれ、拓海兄さんとこの会社が険悪になり、拓海兄さんからは菜々子さんと結婚するつもりがあり、日本から出て行けと言われたと。ガーデンパーティーが彼女と会った最後だったそうだ。
「圭一君。君のお母さんのお招きで、ガーデンパーティーに参加できた。君を見つけたよ。愛されていたじゃないか。愛人の子供ほど愛されるものだ」
その言葉に苛立ちが起きた。よほど俺のことが嫌いなのだろう。そして、フェリックス氏が言った。
「君は愛人の子供だったね」
「ええ……」
「しかし、隆氏が最初の妻との離婚の後、君のお母さんと出会ったそうじゃないか。略奪ではないよ」
「そうでしたか……」
「愛人の子供の方が良かったか?」
「いえ……」
俺が相づちを打つと同時に、バーテルス氏が声を荒げた。
「お父さん!なんて言うことを言うんだ!」
「本当のことじゃないか。早瀬君も愛されていた。僕ではない大人達から」
「お父さん。菜々子さんを騙したことについては、悪いと思っていないのか?」
「恋をしたからだ。妻子があると知られれば、交際を断られるだろう。だから黙っていた。菜々子のことが欲しかった。恋に良いも悪いもない」
「お父さん!お母さんが聞いたらなんて言うか……」
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バーテルス氏が怒りを露わにした。この悪魔と罵った。この写真を見せて、あなたは何がしたいのか、胸くそ悪いとフェリックス氏を非難した。
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